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    夢魅屋の終雪

    @hiduki_kasuga

    @hiduki_kasuga
    夢魅屋の終雪です。推しのRがつくものを投稿してます

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    夢魅屋の終雪

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    ドムサブ曦澄の学園AU1
    創作モブが出ます。
    現代AUっぽいけど、地名とか立地とかは原作のままだと思ってください。
    転生要素もあります。

    #曦澄
    #Dom/Subユニバース
    dom/subUniverse
    #学園パロ
    parodyOfASchool
    #創作モブ
    originalMob

    【学園AU】求めてたモノ【D/S】修真界には、魂に刻まれた第三の性というのが存在する。
    肉体の性とは違い、それは主と従。またはどちらかであるか、どちらでもないか…というモノだ。
    主は、支配欲に庇護欲や世話を焼いたり褒美を与えたりする欲を持つ者の事。
    従は、服従する事を喜びとし、尽くしかまってほしい褒めて欲しいという欲を持つ者の事だ。
    主は従に命令する事ができるし、従はそれに従う事を悦びとしている。
    従が主に信頼を預けるか否かで、主従関係は結ばれ魂の契約となる。

    なんていう話が古文の教科書に載っていた。

    今時、修真界とかって仙狭だとかおとぎ話とか言って笑われるようなモノだけど、
    仙人を目指す修士は少なくなり、素質があっても金丹を持つ者が少なくなったご時世だ。
    けれど、古くから伝わるそれを馬鹿にすることはできない。
    なんせ、江晩吟の家系が仙門百家と謳われた一族だからだ。
    そしてかつて主従と呼ばれた第三の性別は、名前を変えて存在していた。
    なんで、自分の家系が解るかと言えば教科書にも載るほどの一族であり、なおかつ素質がある証の痣が体に浮かび上がるからだ。
    父は確か左胸…心臓の上だった。母は、右腿の内側に違う痣がある。
    ちなみに、姉の痣は父と同じ左胸。義兄は、下腹部に家族とは微妙に異なる痣がある。
    そして、江晩吟の痣は母と同じく右内腿の痣。蓮の花のようなそれは鮮やかな紫だ。

    両親の仲は、離婚するんじゃないのかと不安になるほどの喧嘩もするが良好。
    姉も幼い頃からの許嫁とは、大学を卒業したら結婚する予定だ。

    「首飾り……」

    教科書の一文をぽつりと読み起こして、自分の首に手を添える。
    ずっと違和感があった。首が寒くて寂しい。
    母がしているようなのが欲しいと幼い頃に強請った事もあったが、父が困った顔をして「これはダメ。阿澄を生涯一緒に居てくれる人につけて貰いなさい」とはっきり拒絶された。
    その時は、大泣きして父を大いに困らせた。しかし、慰めてくれた母は父の言葉が嬉しかったのか、気の強い顔が嬉しそうにとろけていた。
    あの時は解らなかったけれど、あれはだいぶ惚気られていたのだろう。
    滅多に父は、母に愛情を表現しない。したとしても母がそれに気づけない。そこですれ違って喧嘩というパターンは、慣れたものだ。
    使用人たちに連れられて、部屋を出てから数時間後には頬を染めて「ごめん」と謝る両親が居た。今でも、居る。
    まぁ、今では同い年の使用人に連れられて耳をふさがれる事は少ないけれど。

    「観世が、Domならよかったのに」
    「すみません。若様、お世話をするのはやぶさかではないのですが、支配したいとまで思いませんで」

    にっこりと笑う同じ年の使用人は、修士であるがどちらでもない。
    元々第三の性というのは曖昧で、科学的にも証明が困難だ。
    しかし痣を持つ者から多く出る事から、体質からくるモノなのかもしれない。
    どちらでもないから、両親も彼を江晩吟の側に置いておけるのだろう。Domからの威圧されたSubの対処法を子供の頃から仕込まれていた。

    「お前、将来の夢とかないのか」
    「私の夢ですか?若様の秘書になる事…いや、それはあの人にお任せして、執事ですかね。お世話しますよ」

    本当にこいつDomじゃないのか?と疑わしくなるが、性癖なんてそれぞれだ。

    「そういう理由ででしたら、私は若様に永久就職するのが夢ですね」
    「……お前な」

    義兄と同じく使用人の子供であるのに、義兄の両親は幼い頃にすでに他界してしまっていた。
    それを哀れに思った父が、養子として江家に迎え入れた。
    同じ年ごろで同じ立場なはずなのに、不満を持たないでこうして江晩吟に仕えてくれている。いや、本当に江晩吟だけに仕えていた。
    「ああ、でも……」と、彼は自分の手のひらにある江氏と似たようで異なる痣をこする。

    「調香師には、なりたいですね」
    「……調香師?そう言えば、そんな分野がうちの会社にもあったな」
    「はい。だけど、第一志望は若様の所に永久就職なんですけど、第二志望はそちらを目指そうかと」

    江氏の会社は、護衛や警備が主だけれどなぜか化粧品の分野にも特化している。
    特に化粧水とか香水とか、男も使えるとしてそれなりに有名ブランドであった。

    「お前なら、なれるんじゃないか?俺の石鹸とかシャンプーは、お前が調合してる奴なんだし」
    「若様にそう言ってもらえると、嬉しいなぁ」

    中学三年にしてその才能は、父も買っている。
    家系だからと使用人にしたままなのは、もったいない。

    「はぁ…お前が、Domならよかったのに……」
    「若様には、ちゃんと運命の人がおりますよ」

    そう言って使用人は懐かしむように、江晩吟の首元を見つめた。
    少し気恥ずかしくなって、来年の春を思い浮かべて机に倒れこむ。

    「……お前が居ない三年間、俺生きていけるかな」
    「無羨兄さんが居るでしょう」
    「あいつ、自由奔放すぎるんだよ」
    「でも、ちゃんと貴方を守ってくれますよ」

    江氏はそれなりに大きな家柄で、仙門百家の頂点大五家の一つなんて言われている。
    ゆえに、使用人がいてもおかしくなくてその後継ぎには護衛も付けられた。
    江晩吟が、義兄の魏無羨と春から通う高校は姑蘇という四季がはっきりしている地域の山奥にある全寮制の学校だ。
    仙門百家の名門の令息令嬢は、そこに通う事で名家の頂点に立つ教育を施される。
    また姑蘇雲深不知処学園は、内部生と外部生という区分けがあり内部生は姑蘇で暮らしなんと幼等部からずっとエスカレーターで進学しているのだ。
    むろん途中で別の学校に行ってもいいのだが、そうすると破門だなんて不名誉が付いて回る。
    名家の子供たちが集まる学び舎だというのに、仙門百家とその親戚筋しか入れず、条件を満たしていても入学するには難関なのだ。
    ゆえにその学校で学ぶことは、この国ではかなりのブランドとなる。たとえ、破門されたとしても……。

    「私は、雲夢の学校に通って若様が長期休みに帰ってくるのをお待ちしてます」

    有能だけれど、この使用人は江氏の親戚筋ではない。
    家系を見れば、江氏の分家と一時は交わったけれどすぐに離れてしまっている。五代以上も前、十代とかもうそんな遠くなのだ。親戚とは言えない。

    「それに私が通う学校は、江氏が理事を務めている学校ですからね」
    「そりゃな……」

    雲深不知処じゃなくて、そっちに行きたかった。
    江晩吟は、義兄が居るからそれなりに友達ができた。けれど、義兄が居なければ人見知りを発動して母譲りの烈火な気質で人を傷つけてしまう。
    頭を撫でられる。

    「大丈夫です。貴方は、とてもお優しい」
    「何言ってるんだよ」

    嘘だ。といつも思うけれど、この使用人は穏やかに微笑みそれを否定する。

    「貴方の事を解ってくださる方が、必ずいますから……どうか我慢なさらないで」

    使用人は、けして自分がそれであるとは言わない。
    けれどずっと側にいると、笑って言うのだ。自分のDomならよかったのにと思わずにはいられないけれど、江晩吟の心の中で彼じゃない。と否定する気持ちはあった。
    ふわぁ…とあくびが出る。すると心地の良い手は離れて、勉強していた机からも離れてしまった。
    江晩吟の部屋にあるベットを整えると「少し、お眠りください」と言われて誘導される。

    「まったくお前くらいだぞ、俺をこんなに甘やかす使用人は」
    「そうでしょうか?」

    横になると薄での毛布を掛けられて、胸の上を優しいリズムでたたかれる。
    全くお前が居なくては、生活できなくなったらどうしてくれる。大人になったら、親の脛をかじる事はしたく無い。
    けれど、こいつだけは連れていきたい。口だけではなく、本当に側にいると確信していた。

    ―――すぅすぅ…と、寝息が聞こえると使用人は、穏やかに微笑んだ。
    掴まれている袖口に、驚いて目を向ける。それから、優しく指をほどいて頭を撫でる。
    主の顔を認識できる喜びを、この少年は知らないのだ。

    「大丈夫ですよ、我が君。貴方には、必ずあの方が傍にいてくれます。
    貴方が私から巣立つまで、ずっとお側にお仕えしますからね」

    本当は手放してほしくないけれど、以前のように生涯をかけて側にいてお仕えしたいけれど……。
    このご時世では、きっと叶わない。

    「貴方一人で背負う事は、在りません」

    だから、安心して誰かに甘えてください。
    主の頭を撫でながら、使用人は微笑んだ。



    ▽▲▽▲▽



    春が来て姑蘇に義兄と旅立つことになり、使用人たちに見送られて家を出た。
    同い年の使用人は、すでに別の高校の紫紺の制服を着ていて穏やかに手を振っていた。
    雲夢の空港から姑蘇の空港まで、二時間程度のフライドをする。
    まるで水墨画の様な景色が見えてくれば、姑蘇であった。
    外観規制があるためか、雲夢や蘭陵のように華美であったり色彩豊かではない。
    それでも美しく整えられている姑蘇は、この国の古都とすら称されているに値する。
    姑蘇の空港にたどり着くと、一年も早くこちらに入学している姉が許嫁と共に出迎えてくれた。

    「姉さん」
    「姉ちゃん」
    「阿澄、阿嬰」

    弟二人で、大好きな姉に抱き着く。細い腕は、二人の背中を撫でてくれる。
    春休みが終わるまでずっと一緒にいて数日離れただけなのに、もう何年もあっていない気分になった。
    そのぬくもりと匂いが、寂しさを癒してくれる。

    「まだまだ子供だな」
    「うるさいな」
    「だまれ」

    隣にいた金子軒が、面白くなさそうにつぶやく。それを弟二人で応戦する。

    「おい、姉ちゃんの事泣かしてないだろうな」
    「泣かせるほど一緒に居られたなら、苦労はしないが?」

    火花が散るほどにらみ合っているのを横目に、江晩吟は姉の江厭離を独占する。
    雲深不知処は、男女の学び舎を徹底的に分けている。寮も家族じゃなければ男女に別れて暮らしていた。
    規律が厳しく学ぶことも難しいその学校で、男女が常に会う事は難しい。
    休日麓の村に降りてデートをするくらいしか、会う事はできない。
    その上、スマホでのやり取りにもかなり厳しい規制が引かれているのだ。
    江晩吟の両親も魏無羨の両親も、ここで学んでいる。

    空港の駅から電車に乗り学園へと向かう。
    電車に乗って麓の村までやってくると、さらにスイッチ電車で山に登っていく。
    車やバスで行く事も可能だが、入学を迎えるために大荷物の新入生はこちらでの移動となる。

    やっと校門にたどり着くと、名前と出身を言う。そして、資料を渡されて入学式の会場へと向かうのだ。
    江厭離と金子軒は、二人と両親の荷物を預かり寮へと向かう。両親も今日ばかりは、寮に寝泊りする事になる。

    胸に白い華をつけ終わると、江晩吟は資料を読んだ。
    内部生が外部生の世話をすると言うのは、三年生が一年生の面倒を見る一年間らしい。
    しかしマンツーマンで外部生を見れる内部生は少ないらしく、複数人を面倒見る事になる。
    特例もあるらしく魏無羨は「俺の面倒見てくれる人、一年らしい」と配られた資料を見て江楓眠に見せる。

    「ああ、きっと藍校長の甥御さんだね。内部生の仲でも有能な子だときくよ」
    「阿澄、貴方は?」
    「えっと……」

    母の虞紫鳶に問われて、世話をしてくれる内部生の名前を読んだ。

    「藍曦臣……」
    「おや兄弟そろって、二人の世話をしてくれるんだね。私の時は―――…彼らの父親だったかな」

    少し寂し気に言う父に、首をかしげる。
    きっと校長が気を利かせてくれたのだろうと、父の言葉に曖昧にうなづいた。

    「生涯の友になれるというジンクスもあったな」
    「そうね。でも蔵色人と藍校長の方が生涯の友みたいな関係になってたわね」
    「そうだね」

    ははっと両親が笑い合うと、ごほん…と咳払いが聞こえた。
    振り返ると白と藍の色を使ったスリーピースの髭を整えた男性とそっくりな兄弟がそこに立っていた。

    「久しいな。江楓眠、虞紫鳶。私とあいつが生涯の友だなどと言われたくはないぞ」
    「やぁ、藍啓仁。久しぶりだね」
    「本当の事じゃない」

    この人が雲深不知処の校長だ。確か、江夫婦と同級生だった。
    会食で何度か会ったなと思いだしながら、彼の後ろを見た。
    にっこりとほほ笑む美少年は、あまり話したことがないけれど幼い頃から知っている。もちろん、その隣にいるいけ好かない奴も。
    魏無羨は、会食には連れていかれないから知らないのも当然だ。

    「……お、お世話になります」
    「こちらこそ、一年間よろしくね」
    「はい」

    内部生である藍曦臣は、ネクタイではなくてポーラータイだ。
    白いの玉が光を反射して、薄い藍色に変化するのが見えた。
    「それじゃあ、行こうか」とエスコートをされるように、下から手を取られて両親から離される。
    背後から「付いてきて」と短い言葉もあって、魏無羨も入学式の会場へと連れていかれる。
    そんな四人を、内外関係なくざわめきながら見つめてくる生徒が多い。
    視線が痛くて手を放そうとすると、繋がれた手が握られて離れない。

    「……」
    「……」

    手を繋いでるのなんて、自分たちくらいじゃないのか……それに藍曦臣が面倒を見る生徒は自分以外にいないのか?と思うくらいに誰ともかかわらないで進める。
    途中、聶懐桑という少年が藍忘機に合流した。彼は、魏無羨と同じく藍忘機の世話になるのだろう。
    席に座らせられると、繋いでいた手を名残惜し気に撫でられた。

    「では、またあとで迎えに来るよ」
    「は、はい」

    顔は赤くなかっただろうか?と不安になるくらいに、胸がどきどきと早鐘を打つ。

    「江兄は、久しぶり~。えっと魏兄は、初めまして?」

    きゃーと二つ挟んだ席から、聶懐桑が手を振って挨拶をしてくる。
    その間には、魏無羨と藍曦臣が座っていた。

    「ああ、久しぶりだな。聶兄は、藍忘機の外部生なのか?」

    ちらっと無表情の人形の様な少年を見れば、聶懐桑は首を横に振った。

    「私は、中等部からの外部生だから内部生の世話は要らないんだよ」
    「そうなのか」
    「……嘘を吐くな」
    「ごめんなさい、ちゃんといます。だけど、今日は忙しいから放置されただけです」

    自分には居ないんだーと言ったけれど、藍忘機が短く窘める。
    中等部から居るのだから、放置されても別に構わないんだけどね。と開き直る。

    「でも、江兄が入学するって江姉に聞いてたから藍兄に頼んで一緒にさせてもらったの」

    聶懐桑の言葉を聞いて、魏無羨は嬉しそうに笑った。
    小学校中学校と学校生活では、ずっと一緒だったが友達が居ないんじゃないか?と思えるほどに、離れなかったのだ。

    「なんだ、江澄は人気者だな」
    「こいつは、同い年だから会食の退屈しのぎで遊んでるんだ。そこの奴も一緒にされて、さっきの藍曦臣にも世話になった」
    「へぇ、俺の江澄が世話になったな」
    「……ん」
    「世話になったのは、兄の方だ」

    そいつとは、一緒に過ごしたけれど聶懐桑と藍曦臣が居なければ会話も出来なかった。

    「そうだ、今度の休日にみんなで大哥のカフェに行こうよ。麓の村でオーナーしてるんだ」
    「へぇ…清河の後継ぎが?」
    「まずは小さなお店を切り盛りができなきゃ意味がないって、曦臣兄も通ってるんだよ」

    入学早々に休日の話か、と江晩吟と藍忘機はあきれた。
    しかし、魏無羨は興味を持ったらしい。ああ、これは連れ出されるな……とため息を吐いた。

    「藍兄が居る前でいうのもあれだけど、この学校では自炊と外のごはんが命綱だからね」

    聶懐桑の言葉を、江兄弟は入学式のすぐ後に身をもって知る事となる。
    それにしても……と、背もたれに寄りかかる聶懐桑はちらりと江晩吟を見た。

    「なんだよ」
    「曦臣兄が、江兄の世話役になるなんてね。忙しい人だから、内部生だとしても外部生をとらないと思ってたよ」
    「忙しい?」
    「そうだよ、生徒会長なんだよ。もう中と高でね。将来理事長になる人だから、そういった勉強もしてるみたい」

    選挙制なのに、五年も務めているのだという。
    それだけ人望がある人に一年だけとはいえ世話をされるのか……。
    目立つぞ、これは……と頭を抱える。いや、江氏筆頭となるのだ。ここで、名を汚すわけにもいかない。

    「藍忘機は、後継ぎになりたいとか思わないの?」
    「兄上の支えになる事が、私の役目で在り夢だ」

    いつの間にか藍忘機の肘掛に両手を置いて、気色悪い程に甘ったるい声を出す魏無羨。
    ちゃんと座らせようと、声をかける。しかし、すぐに藍忘機が静かな所作で肘掛から手を外させ前を見て座らせる。

    「魏…「魏無羨、ちゃんと座りなさい」
    「はいはーいっと」

    何度も注意しなければ座りなおさない魏無羨が、一度の注意できちんと座る。
    義兄は、DomでもSubでもなかったはずなのに「よろしい」と、藍忘機に言われただけで嬉しそうに笑っていた

    「江澄の話を聞いててさ、藍忘機と会うの楽しみにしてたんだよなぁ。人形みたいに綺麗な奴って」
    「こら!」

    ばらすなよ!と叱ろうとしたが、藍忘機の目元が細められた気がした。こんなにこいつは、あっさり笑う奴だったか?
    少なくともこの少年は、江晩吟が十回話しかけて一言「うん」としか返事をしなかった。
    藍曦臣と話しているとその後ろから、じっと睨みつけてくるだけなのだ。
    言いたい事があるならはっきり言え!と、喧嘩にもなりかけたことがある。

    入学式が始まると退屈なお偉いさんたちの挨拶が始まるが、藍曦臣と藍忘機の父親である理事長からは電報しか届かなかった。
    代わりに生徒会長である藍曦臣が、短いけれどこの学園生活で学べる事ややりたい事を見つけ出す事を教えてくれた。
    しかも暗記をしているのか、持っていた原稿など一切見ずに生徒に語り掛けている。

    最後に、春の日差しの様なあたたかな微笑みを―――江晩吟に向けた気がした。

    自意識過剰かもしれないけれど、壇上から彼と目が遭ったのだ。
    その微笑みに、胸が高鳴り知らず知らずのうちに首元をさすっていた。

    (あの人に、首飾りを送ってもらえたらどれほど幸せなんだろう)

    そもそも、藍曦臣がDomだとは解らないのだけれど。
    命令をされたいわけじゃない、服従をしたいなんて生まれてこのかた思った事はない
    それこそ危害を加えられたいわけじゃないのだ。
    ただ、愛されたい。褒めて欲しい。貴方のために、頑張るから愛してほしい認めて欲しい。そんな欲求が強い。
    両親に愛されなかったわけじゃない、家族や使用人たちにも愛されていた。
    だけど、彼らは唯一じゃなかった。江晩吟を一番にはしてくれなかった。

    「おい、江澄?どうした??」


    首元が、寂しい。


    はらはらと、涙が流れ止まらない。


    隣の魏無羨に声を掛けられると、その手を強く掴んで首を横に振った。
    Subの発作だとあの使用人ならすぐに気づいてくれたのに、この義兄は困惑するばかりだ。
    おろおろする魏無羨を隣から、上着が差し出される。

    「それで、彼を隠してから会場の外に連れ出しなさい」

    小さな声で、指示を出されているのが聞こえる。
    頭から大きな上着をかぶせられて、支えられながら会場の外に出た。
    両親が心配しているのが見えたが、申し訳なくて涙が止まらない。ごめんなさい、ごめんなさい。最初に失敗して……。どこかで小さな子供が泣いて謝っていた。

    会場を出ると、ロビーの片隅にあるソファーに座らされていた。
    他にも気分が悪くて出てきた生徒もちらほらといて、江晩吟を気に留める者は居ない。

    「すまない、ごめん……」
    「謝るなって、俺こそすぐに対処してやれなくてごめんな」

    止まらない涙を一生懸命拭いながら、何度も何度も謝り続ける。
    この発作にクスリなんてなくて、泣き止むまで耐えるしかない。
    あの使用人ですら『大丈夫です』『あなたは悪くない』と声をかけてくれても、何時間も止まる事が無くて泣き疲れて眠ってしまうくらいだった。

    「江晩吟」

    両親とも姉とも義兄とも違う声で呼ばれると、顔を上げた。
    そこには、心配そうに駆けつけたであろう藍曦臣が居た。
    彼の姿を見た瞬間に「うぅ」という声が漏れて、さらに涙があふれる。
    DomとSubの関係は、別に運命がどうのとかそんなものはない相性が悪ければ解散することができるのだ。
    それは恋人や夫婦の関係にも似ているが、一番しっくりくる言葉が主従なのだ。昔の仙師達は、主従とはよく言ったものだ。

    藍曦臣が手を広げると、吸い込まれるように縋るように手を伸ばして魏無羨から巣立つように抱き着いた。

    「寂しい。寂しいんだ」
    「うん、うん。寂しかったね」
    「ごめんなさい、ごめんなさい」
    「謝らなくていいんだよ」
    「解らないんだ、ずっとずっと探してるのに…」
    「そっか、そうだね。でももう見つかっただろう?」

    背中を撫でられ耳元で囁かれて、しっかりと支えられる。
    見つかった?何が?顔を見れば、恍惚とほほ笑んでいる藍曦臣と目があう。
    その瞬間、やっと見つけた。やっと手に入った。と、心が……きっと魂と呼ばれるモノが歓喜で震えた。

    「見つけた。見つけた、俺の……主だ」
    「うん」
    「俺の、俺のだ…」
    「うん」

    この腕の中が、何処よりも安全で何よりも安心できる。
    寂しくない……もう寂しくないよ。と、心の中であの使用人に告げた。
    両親が、会場から出てきたのは江晩吟が藍曦臣の腕の中を堪能している時だった。

    「藍曦臣……君は」
    「すみません、江社長」

    藍曦臣は、発作がまだ続いている江晩吟を抱きかかえながら頭を下げる。

    「江の若君を、私にください。
    この子を寂しい思いをさせてしまうかもしれません、泣かせてしまうかもしれません。
    ですが、なるべく一人で泣かせたりしませんから」
    「息子を嫁にくれと言われている気分なんだが」
    「あー……似たような事で、そのクレームでしょうか」

    ぎゅっと藍曦臣が江晩吟を抱きしめると、江楓眠が困惑した。
    クレームというのは、DomがSubと生涯を共にしたい。この人は、自分のモノだ…と他のDomに宣言するモノである。

    「幼い頃、江晩吟と出会ってからずっと彼の事が気がかりでした。
    むろんこの子が、Subじゃなくてノーマルの可能性もありましたけど……ずっとずっと焦がれていたんです」
    「……藍曦臣。今の様子を見れば、私の息子も君とは相性がいいみたいだ。
    Subの発作の時は、私も妻も一緒に居てやれない事が多い。使用人たちに任せきりだったのも否めない。
    だから、君の様なDomが居てくれる事や息子を選んでくれるのは、同じDomとして父として嬉しい」

    江楓眠は、藍曦臣の体を起こさせる。その際に、発作を起こしている江晩吟の頭を優しく撫でる。

    「けれど、クレームはもう少し待ってほしい。
    君が成人をして、ちゃんと社会人となってからもう一度正式に申し入れてくれないだろうか?」
    「……江社長」
    「私は、君のご両親の事を知っているよ。藍先輩のDomの発作がひどい事も」
    「……」
    「阿澄とダイナミックスになるのは構わない。けれど、君が父君のようにならないとも限らない」

    父親の事を言われると、藍曦臣は陰りのある笑みを浮かべた。
    自分たち兄弟を叔父に預けて、母にしか興味が無い。
    月に一度帰ってきて、両親に会う事は楽しみだったけれど母の首には首飾りではなく首輪がはめられていた。白い手首や足首には赤いこすれた傷跡もあった。
    母が他界してから、父は狂人のようになった。理事長としての仕事はしているけれど、面倒くさい外交などの仕事は多忙な叔父に任せきり。
    江楓眠は、父が世話をした外部生だった。
    そんな男の息子であり同じDomである藍曦臣に対して、いつ同じような事をしでかすか解らないという不安を口にするのも解る。

    「君が、藍先輩のようになるとは思わないよ」
    「え?」

    驚いた。

    「ただね、私から見れば君はまだ子供だ。藍曦臣、君はしっかりしている。しっかりしすぎている。
    Domだから、甘やかしたい守りたい世話をしてやりたいという気持ちは、よくわかるけれど……。
    親として、君に息子の全てを任せるには、若すぎるんだ」

    年齢だけの問題なのか……まだ、自分が叔父に寄りかからねば生活できない学生だから……と。

    「大人になれば……成人をすれば?」
    「ああ、さっきも言ったが、その申し出を受け入れよう。その間、君と阿澄の気持ちが離れなければいいよ。
    実の所、厭離と金の若君ともその約束をしているんだ」
    「解りました……」

    素直にうなづけば、江楓眠は藍曦臣の頭にも手を置いて撫でた。
    大人に頭を撫でられたのは、いつ振りだろう。腕の中の江晩吟をぎゅっと抱きしめた。
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    DONEなんとなくGoogle翻訳調
    昔こういうノンフィクションを本当に読んだんです!本当なんです!(多分雌ライオンだったけど…)

    江澄がガチでガチの獣なのでご注意ください
    いや本当にこれを曦澄と言い張る勇気な
    あるレポート

     彼と出会ったのは吉林省東部でのフィールドワークの最中でした。もともと私の調査対象には彼の種族も含まれていましたが、生活の痕跡ではなく生きた個体に遭遇するとは思ってもみませんでした。
     彼は遠東豹。学名をPanthera pardus orientalisといい、IUCNのレッドリストにも規定された絶滅危惧種でした。
     知っての通り豹は群れを形成せず単独で生活します。彼はまだ若く、母親から離れて間もないように見えました。だからおそらく彼がこのあたりを縄張りにしたのは最近のことだったでしょう。
     幸いにしてそのとき彼はちょうど腹が満たされていたようで、私を見てすぐに顔を背けてしまいました。
     横たわる姿は優美で、狩猟の対象にされ絶滅危惧の原因となった毛皮が夕陽を浴びて輝いていました。彼は本当に美しい生き物でした。

     私は彼の縄張りの近くでフィールドワークを続けました。
     ある晩、私のキャンプに彼が忍び入ってきた時、私は死を覚悟しました。
     しかし彼はおとなしく私の目の前に横たわり、優雅に欠伸をしました。
     どうやら彼はこのコンクリートの建物を根城にすることに決めたようで 1954