唇にやわらかく触れるものを感じて、江澄は思わず胸を押し返した。
いきなりで驚いた。まだ、動揺がおさまらないのに、さらに混乱がかぶさってくる。
しかし、「なぜ?」とのぞき込んでくる瞳に正直なところは言えなかった。
「ここでは……」
口をついて出たごまかしに、藍曦臣はうなずいた。
「そうですね。こちらへ」
手を引かれて外廊を行く。
宴の明かりも遠く、星明かりだけでは足元にも届かない。
江澄は向かう先も知らぬまま、ただ男について歩いた。白い背中とひるがえる抹額だけが進むべき目印である。
藍曦臣は客棟のひとつに入ると、暗いままの室内を迷いのない足取りで進んだ。そこが藍曦臣の客室だと江澄が気がついたときには、再びその腕にからめとられていた。
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