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    bsn21o

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    彼女のメイクの違いに気づくイデアの話

    #イデア・シュラウド
    IdiaShroud
    #twst夢
    #夢小説
    dreamNovel

    寡言のいろ「唇の色が、ちがう」

    彼女の唇を縁取る色が、ふと見たことのない彩りに変わっていたことに気がついて、イデア・シュラウドはそう呟いた。

    イグニハイド寮、わが牙城たる自室に、イデアは先日付き合うことになったばかりのかわいいかわいい恋人を招いていた。

    「自分の部屋に好きな子がいるんだが!?なにかのバグでは!?いや一生修正されないでほしいバグですが」と頭の中では軽く緊急メンテナンスが行われていたが、「イデアくんのにおいがするね」と彼女がはにかんだのを見て、イデアの意識は一気に目の前の現実に引き戻された。

    「ぇあッごめん、くさい?こんなオタクの濃縮還元スメルの満ち満ちた部屋、くさいに決まってるよね、待って今消臭剤を」
    「そういう意味じゃないよ、ちょっと緊張するだけ」

    少しぎこちない笑顔で彼女が言う。本当に緊張しているらしい表情だった。アッかわいい。僕もう持たないかも、今すぐ大声で叫んでここから逃げ出したい。
    いつもより至近距離で交わされる彼女との会話の一つ一つがイデアのHPおよびMPをゴリゴリと削っていた。もちろんいい意味で。

    恋人の部屋に初めて訪れる彼女と、自室に初めて恋人を招く彼氏。初々しすぎる2人がやっと床に腰を下ろし、じゃあなにかゲームでもやろうかと視線を隣にやった時、イデアは彼女の唇に釘付けになった。色が、違う、この前と。

    鮮やかなタンジェリンはぷっくりとした唇に慎ましくおさまっていて美しい。
    入れる額によって絵画の印象は変わるというが、なるほどこの色は彼女の顔に収まっているのが一番正解らしい。そう思うほどに彼女の唇を彩るその色は、とても似合っていた。

    「え、わかるの…?」

    彼女が明らかに動揺した様子で言った。
    ヤヤヤヤバい、完全にしくじったでござる。
    冷静に考えたらキモすぎる。いちいち口紅の色の違いに気付くなんてって。どこ見てんだよって。
    急いで訂正しなきゃ、取り返さなきゃって思うのに一度空いた口は止まらなかった。

    「えっアッちがった?なんかこないだ会ったときはアプリコット?みたいな色だった気がしたから…や、でもあれか、制服の時はいつももっと淡い色か、ピンクみたいな…すごい可愛かったから覚えてて…………あ」

    やってしまった。
    墓穴を掘るとはまさにこのこと。自分で自分の墓穴をガンガン掘削してしまった…
    イデアの髪の炎がライトブルーからレッドのグラデーションを作る。照れと動揺がそのまま反映されたような色だ。
    もう墓穴に埋まってそのまま眠りたい。どうか探さないでください。

    一方の彼女はというと、イデアとはまったく別の意味で脳内が大騒ぎになっていた。
    あのイデアくんが、メイクの違いに気づいてくれるなんて!
    しかもなんかどさくさに紛れて可愛いとも言われたような…
    嬉しくてしょうがなかった。イデアと付き合うようになって1ヶ月、目が合う回数は数えるほどだったし、つま先とつま先の距離はいつも一定に保たれていた。
    彼の元来の性格を考えて「イデアくんはパーソナルスペースをしっかり取りたい人なんだ」とはじめの方は納得していた彼女も、こうも距離が縮まらないと不安に襲われていった。
    もしかして私のこと、嫌なのかな?付き合わなきゃよかったとか思われてたら?暗にこれ以上近づくなって線を引かれてるのかも。
    最近はそんな風に考えることが増えていた。

    そんな中で誘われたおうちデート。彼女は並々ならぬ覚悟でこの日に臨んでいた。
    彼の心がまだ自分に向いているのなら何か進展を…しかし逆に、今日はっきりと別れを告げられるのかもしれない。部屋に入るやいなや「付き合うのやっぱなしにしてくんない?」とか言われてしまったら、ちょっと立ち直れない。そんな天国と地獄のような2つの気持ちを抱えてイデアの部屋に足を踏み入れていた。

    「と、とりあえずなんかゲームでもする…?」

    ーーひとまず別れを告げられることはなさそうだ。イデアの提案に笑顔で頷きつつ、彼女はこっそりと胸を撫で下ろした。と、安堵したのもつかの間、先ほどの爆弾発言である。
    嬉しくないわけがない。
    彼女は全身を駆け巡る嬉しさを抱き締めるように膝を抱えて顔を埋めた。
    自分がどんな顔をしているかわからなかったので、イデアから顔を隠すためでもあった。

    「イデアくん、私のこと見てくれてたんだね」

    ファッッッッ
    こ、これはどっち!?どっちでござるか!?
    喜んでるの、それとも気持ち悪がられてる…?
    顔が見えないからわからない…
    喜んでくれてる、と思いたいけど彼女は優しいからこういう言い方をしてくれただけで実は困ってたりするのでは…イデアはどつぼに嵌っていた。
    「メイクの違いに気づいてもらえるのは嬉しい」という情報はイデアの頭の中にはない。彼の愛読誌は月刊魔導工学とマジメディアであった。「専門外の書籍も目を通すと勉強になりますよ」とは同じ部活の後輩の言であるが今はいいとして。

    見てるに…決まってんじゃん。
    膝に顔を埋めた彼女を見つめながらイデアは思う。
    彼女の一挙手一投足、視線、唇、そのすべてをいつも見ている。視線は決して合わないが、イデアは彼女といる時は全神経を集中させてその姿を見つめ、心の中に全く同じ姿の彼女を写し取るかのように大事に大事に覚えて帰るようにしていた。
    あまりに集中しすぎて、彼女がイデアに話を振っても「うん」とか「そうだね」くらいしか返ってこないことが多いが、元々会話下手なので上の空だと認識されることもなかった。

    「なにか1つだって見逃したくないし、ずっと見ていたいんだよ、君の姿を。NRCに来て初めての彼女ーーいや盛ったーーう、う、生まれて初めての彼女なんだから……
    ーーー先週会ったときは髪型がいつもと違った、寝坊していつもみたいなセットができなかったのかな。下ろしてるのも似合っててかわいいな。
    数日前から靴下じゃなくてタイツを履いてるよね。最近寒くなってきたからか。寮のベストの色に合っていてとてもかわいい。
    そして今日は唇の色が違った。初めて見る色だ。すごくかわいい、似合ってる。かわいい。キス、したいな………」

    口に出す勇気なんかないし、そのつもりもない。いつも君の脳内に直接語りかけてるーー正しくは僕の脳内でしか言ってない言葉の数々。
    「待って」
    だから最初のあれだって、本当は伝えるつもりなんてなかったんだよ。
    「イデアくん」
    ついうっかり、口からポロって出ただけでーーーって、え?

    「イデアくん、私とキスしたかったの?」
    「…………………は?
    え、ま、え、もしかして拙者、全部口に出て……………?」
    「…うん」

    ヒィィイイイアアア
    な、なんで!?いつから!?
    え、待って拙者なんて言った…?
    ありえんくらい気持ち悪いことをあれこれ言ってしまった気がする。普通は胸にしまって伝えないようなことを!!!
    どうしよう…こんなはずじゃ、こんなの、完全に犯罪者の思考だろ。
    完全に終わった、最悪すぎる。

    墓穴を掘るだけじゃなく、自分の墓石を用意してそこに光学レーザーで精巧に自分の名前を刻んでしまった。流石拙者、なんて精巧なレタリング技術だ。君が手を合わせてくれたら本望でござる。
    「あなたの文化圏的に土葬では?」脳内でまた同じ部活の後輩がなにかツッコミを入れてきた。うるさい、君は蛸壺に帰りたまえ。

    「ご、ご、ごめんっ!!!!キモすぎるよね、こんな!!まともに君と目も合わせらんない癖にジロジロ見てさ。しかもキ、キ、…キス、とかほんと、童貞乙!!嫌われて当然でござる!どうか!どうか通報だけはご勘弁を!!」
    「じゃあ私も一緒だ!」
    「へっ」
    「私もイデアくんに嫌われて当然!処女乙だよ!」

    彼女がイデアに負けないくらいの大声で言った。普段の姿からは想像できないその剣幕にイデアがたじろいで小さくなった。
    うわ、ちょっと、処女とか言わないでもろて…
    動揺するイデアに、彼女は身を乗り出して距離を詰める。

    「私だって、イデアくんのこといつも目で追っちゃうし、いつもと違う様子だったら気になるし、きっ、キスだってしたいよ!」
    「ファ」
    「でも勇気がなくて、ずっと言えなかったの…だから、もしイデアくんも同じ気持ちだったなら、すごく嬉しいよ」

    後退り壁に追いやられたイデアの眼前に、今にも泣きそうな彼女がいる。
    これは、現実だろうか?

    「イデアくん…」

    彼女がゆっくりと目を閉じる。上下のまつ毛が重なっていく様をイデアは息を止めて見ていた。
    緊張して体はちっとも動かないのに、心臓だけはうるさく鳴っている。体が熱い。きっと髪は真っ赤に燃え上がっているだろう。
    目線だけは動かせたのでいつもの癖で目線を逸らすように下に向けると、彼女の唇が目に入る。
    タンジェリン色の口紅ーーーー

    「…かわいい」
    「ッ」
    「好き」
    「いであくん」

    鮮やかな彩りに吸い寄せられるように顔を近づける。頬に手を添えるなんて、そんなことできないからきっと傍から見たらすごくかっこ悪いだろうけど、そんなことどうだっていいんだ。君にキスできるんなら、どうだって………

    「エアッ」
    「え?」
    「キス!?待って、こんな呪われた血を持つ拙者とキスなんてしたら君も呪われちゃうんじゃ…待って経口で血って交わらなかったっけーーーー」
    「もう!」
    「んむっ」

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