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    カナト

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    カナト

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    まーっくーすはーと☆
    ver.6.5前期クリア推奨

    ふたりは! 誰かの視点から世界を見るというのはなんとも不思議な体験だ。
     例えそれが自身のからだではなく、また動かすことができなくとも。
     搭乗者は他にもいるから、辺りは結構賑やかだ。
     メインの操縦を担っているのは、俺たちとは違ってまだ生きている少女だ。
     俺がもっとちゃんとしていれば、彼女もまた勇者と呼ばれる存在だっただろう。
     勇者のひとりは俺の血筋に生まれる。けれど、彼女は俺の子孫ではない。
     使命などなく普通に育ったのだろう。そうであれと育った子孫とは違う、平凡な少女だ。
     彼女を今代の盟友たらしめたのは何なのか、俺は彼女のことをあまりにも知らなすぎる。
     更に言うのならば彼女が生きながらにして英雄と選出された理由も知りたい。いや、人柄や実力に関して申し分ないとは分かっている。だが歴史上大魔王の数だけ勇者と盟友は誕生していて、その数は一人や二人ではない。
    (ま、レオは二代目勇者と共闘したから、数は必ずしも二で割り切れる訳じゃないんだろうけど)
     今となっては胡散臭い予言によって引き裂かれたものだ。踊らされたのが初代双子の勇者だと思うとなかなかに自虐的にもなる。
     気を取り直して、当初の目的通り魔眼の月を破壊しに向かおうとした時、それはやってきた。
     捕らえたジア・クト念晶体、確かジア・ルーベだったか、が言っていた念晶巨人と思しき巨大な人型のものが降り立ったのだ。
     目の前の脅威、念晶巨人を先に排除すべきとするものと、当初の目的を果たした方がいいと言うもので意見は割れたが、創世巨神となった少女が選んだのは念晶巨人だった。ヤツがアストルティアの創世のエネルギーを吸い取り始めたのが大きい。
     場所はレンダーシア大陸。ドーナツ型の大陸のド真ん中の海で、少女は念晶巨人と取っ組み合いだ。
     念晶巨人の方が大きいため力技では圧倒的に不利だが、それでも少女はできる限り周りの陸地に配慮して戦闘を繰り広げる。
     特に近くにあった島々を気にしているらしく、背水の陣が功を奏したのか少女は念晶巨人に勝利した。が、念晶巨人の一部である巨大な球体が少女が気にしていた島に墜落し、再び俺たちの意見は割れた。
     ラダ・ガートの嫌な予感がするとの言葉には激しく同感だ。行ってみて何もなければ当初の目的通り……といったところでどうやら時間切れらしい。魔眼の月破壊への貴重な状態だったが、思ったよりも保たなかった。それが少し悔しい。
     俺は、俺たちは今でも彼女は神に相応しいと思っている。選ばれた英雄の中で最もだ。
     天使たちも見る目がねぇといつも英雄たちと愚痴っていた。カブはそれに一番分かりやすく同意してくれた。否定的なヤツなんて誰もいなくて、コイツが俺たちと同じ神になればどれ程心強いと語ったことか。
     とはいえ、彼女は未だ命ある身。既に二度目のボーナスステージ状態の俺たちとは訳が違う。軽々しくなって欲しいと言えることではない。
     まあ、簡単に言うと、俺たちは彼女のことを信頼している。あまり知らないというのに、俺たちは彼女の力を認めているのだ。
     それは彼女が悪神と化した俺たちを倒しうる実力者だからだろうか。はたまたその真っ直ぐさに惹かれてしまうからだろうか。
     そんな彼女を支えきれなかったことが、とても悔しい。
     空中で分解した為、空を飛べない少女は落ちていったが珍しい飛竜に拾われたらしくほっと胸を撫で下ろす。
    「シンイさん! エステラさんも!」
     よく見れば飛竜は二頭いて、少女の知り合いらしい。現代を生きる英雄なのだから、知り合いくらいいるだろう。少し想定外のものだが。
    「巨人が現れたと来てみれば何があったのですか」
    「ちょっとまたいつもの如く巻き込まれてまして」
    「ああ、そういえば神代への時渡りだとかで走り回ってましたね」
     女性の声の飛竜の質問にあっけらかんと返す少女。それに納得するかのような若い男の声の飛竜。
     軽快な会話で交わされる内容の重さがおかしい。慣れてる周りも周りだが、当事者が一番おかしい。
    「一応撃破したんですけど、部品が大エテーネ島に堕ちたんです。おそらく黒曜の隕石孔辺りかと」
    「分かりました。私たちもお供します」
     現代の地理に明るくない俺たちと違って、世界中を旅しているらしい少女は的確に位置を述べた。飛竜たちは少女が示した方角を見、墜落した謎の巨大球体を視認したらしい、そちらへ迷いなく飛んでいく。
     俺たちは神になった英雄だ。戦闘力はかなりのものと言っていいが、飛竜もまた戦闘力が高い種族だろう。少なくとも天使どもよりも骨がありそうだ。
     そうして降り立った黒曜の隕石孔。琥珀色の巨大な球体がいっそ不気味に鎮座している。
     あれをどうするか、やはり憂いは失くしておくべきと破壊することが決定し、その手段として神剣レクタリスに命脈を注ぐことになった。
     と、不意に球体が変形し、謎の光線を放ってきた。
     ドルタムが防いでくれたから助かったが、あの攻撃はなかなか強いものだ。
     謎の球体もまた脅威だと判断した俺たちは破壊を急ぐべく神剣に命脈を込める。
    「チッ」
     それを察知してか球体は光線だけでなく先兵まで差し向けてきた。ジア・クトの雑魚集団だが如何せん数が多い。
     飛竜二匹はいつの間にかその姿を変えている。鱗と角を鑑みるに、彼らは竜族だろう。
     助力しようと輪を外れたところで、破壊が先決だと止められた。非常にもどかしいが仕方がない。
    「大丈夫だよ、アシュレイ」
     少女がニッと笑うと、少女の周りに赤黒い光が三つ現れ、いっそ禍々しい燐光を煌めかせて消える。
    「………………魔族」
     そこにいたのは竜族やオーガとは違う角を持った者たち。俺たちが剣を交え命を懸けて戦った者たちがいた。
    「なに! 魔族の侵攻か!? このクソ忙しい時に!」
     カブが目を見開いて大声を上げ、ナンナは少々忌々しそうな表情をしていた。
    「相手取っている暇はあるまい。任せるしかないだろう」
     ラダ・ガートが冷静に、しかし深い息を吐きながら命脈を注ぐことに専念すれば、ハクオウもまたそれに続いた。
     正直魔族がそこにいるだけで俺の気はそぞろだ。気が気じゃないとはまさにこの事だろう。レオがいたらかなり叱られていると思う。
    「大丈夫。彼らは味方です」
     羽のついた帽子をかぶった眼鏡の男が杖を構えながら困ったように笑う。いつの間にいたのか全くもって分からなかった。
    「バル! ドルタムと代われる?」
    「任せてよ」
     閃光を防いでいるドルタムに代わり、赤い角が生えた魔族男が杖を構えて不敵に微笑んだ。
    「ドルタムもレクタリスの方に回って! こっちは気にしなくていい!」
    「でも、姉ちゃん……」
     不安そうなドルタムは、しかし少女が纏う空気をがらりと変えたことによって口を噤んだ。そこにいたのは俺たち神々を倒しせしめた、今を生きる英傑だったから。
    「ユシュカ、ヴァさま、いいですね?」
    「フン、私を誰だと思っている」
    「愚問だぜ?」
     唯一の魔族女がハルバートを手に取れば、一振で敵の軍勢は凍りついた。大魔王ゴダよりも強い、気がする。
     対するのは燃えるような赤毛の魔族男。奇妙な曲剣を手に、見た目そのままの炎の技を繰り出す。広範囲を焼くそれもまた、かなりの力量だ。
     ドルタムに代わって魔法で閃光を無力化せしめている魔族男もかなりのもの。どれをとっても大魔王級の力を持っているように思うが、彼らは一体何者なのか。何故魔族が彼女の力となるのか。
     疑問を抱いている間に更に空から増援がやってきた。天馬に乗ってやってきたのは、金色の髪の女の子。ひと目でわかる。俺の子孫だ。
    「くっ、魔王たちに出遅れるなんて!」
     そして悔しがっている。悔しがるところ間違えてないか? というか魔王たちって?
     俺は考えることを放棄したくなった。嫌な予感しかしないんだが。
    「まあまあ」
     余所見しているのに魔王と呼ばれた彼らよりも複数の敵を倒している少女。完全に片手間だがもしや最初から心配するだけ無駄だったのでは。
     というか、現代のアストルティアの戦力、もしかしなくともめちゃくちゃ高いのでは。英雄級が複数いる時代ってなんだ怖いな。
     遠い目をしつつ込める命脈は緩めない。中途半端な一撃を加えるわけにはいかないからだ。ここは確実に破壊しなければならない。
     幸いにして少女たちは数々の増援によってかなり余裕があるようだ。閃光を相殺するだけじゃなく地上向けて跳ね返して、何匹もの軍勢を消し去っているのはちょっと目を背けたい。
    「アンちゃん!」
    「分かったわ!」
     さてそろそろ命脈が貯まったかと言うところで、俺の子孫、おそらく今代勇者は、自称今代盟友の少女の呼びかけに応え、手に手を取りあった。
    「「デュアルオーロラウェーブ!」」
     瞬間、光の柱が立ち上る。中で何が起こっているのか分からないが、謎の効果音とBGMが聞こえるような気がするのはなんなのか。
     やがて光の柱が消えると、そこにいたのは何やら可愛らしい衣装を纏った今代たちだった。
    「光の使者、キュアユーシャ!」
    「光の使者、キュアメーユー!」
    「闇の力のしもべたちよ」
    「とっととお家に帰りなさい」
     うん、初代勇者は思考停止していいよな? というか、する。
     あっけに取られているうちに、最早武器をかなぐり捨ててバリバリの肉弾戦を繰り広げる今代たちめちゃくちゃ強い怖い。
     バキッとかゴキッとかどう見てもカッチカチのジア・クト軍勢を素手で砕いてるの怖い。そりゃ幹部だろうがボッコボコにできるなうん。
     しかもなにやら手を繋いで必殺技的なビーム放ってるし何? 彼女ら本当に人間なの? 俺と同じ勇者なのに大幅に違わない?
     戸惑っているうちに神剣レクタリスへの充填が完了し、謎のフリフリ衣装に包まれた自称キュアメーユーが振り下ろして謎の球体は跡形もなく砕け散った。
    「ふう、みんなありがとうね」
    「フン。火の粉が降りかかったから来たまでのことだ」
     鼻で笑い飛ばすのは魔族女。ハルバートを消し去ってツンとそっぽを向いている。
    「また世界の存亡か何かに巻き込まれているのか?」
     赤毛の魔族男が少女の頭をわしりと掴む。その表情はもっと自分を頼って欲しいと物語っていた。
    「アストルティアに来れたことは嬉しいけどそれを破壊しようとする輩はいただけないね」
     優男風の魔族が心底嫌そうな表情をする。ただ、原因がなにかはあまり分かっていないらしい。
    「ねえ、彼らは何者なの?」
     そんな中、今代勇者は俺たちの存在について疑問を抱いたようだ。そして少女が世界の存亡を賭けた戦いに身を投じていることは最早普通のことらしい。
     ……普通だと思えるくらい身を投じてきたことがまずおかしいんだけどな。
    「彼らはアストルティアの英雄たちだよ」
     少女が俺たちを紹介すれば、優男風の魔族は目をキラキラと輝かせて早口で何やら呪文のようにノンブレスで解説し始めた怖い。
     俺の紹介のくだりで他二人の魔族が少し複雑な表情をしたのになかなかの違いだ。
    「アストルティアの危機ならば私たちも共に戦います」
     そう言ってくれたのは眼鏡の青年。素朴な顔をしているが、その目はしっかりとした意志を宿していた。
    「ごめんなさい、シンイさん。天聖鄉に招かれてないと今回ちょっと難しいんです」
     それに困ったように返事をしたのはイレギュラーの少女だ。というか、天使どもよりよっぽどか彼らの方が戦力的に頼りになる。
    「あの……ひとつ、お尋ねしても?」
     そんな中手を挙げて質問をしたのはリナーシェだった。その表情は困惑している。分かる。俺も困惑している。
    「何故魔族がこちらに?」
    「大丈夫です。彼らが悪い魔族ではないということは私が保証します」
     敵対する間柄のはずなのに胸を張ってそう言いきったのは勇者の女の子だった。まず有り得ないことだが、今代は盟友がそもそもイレギュラーすぎるのだ、なにがあっても不思議ではない。
    「招集をかけたのは私だから大丈夫ですよ」
     ニコッと笑って見せた少女。何故少女は彼らを招集できるのか。
     それに対する答えは、呆れたような眼鏡の青年からもたらされた。
    「彼女、今代大魔王なんですよ」
    「はい、今代盟友兼大魔王兼三代目時の王者兼その他諸々なんで!」
     うん、うん。
     思考停止した俺はひとつだけ思うことがある。
     彼女、やっぱり俺たちと英雄の格が違うのだ……と。
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