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    カナト

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    カナト

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    💣💥「バル〜! ここにいたんだね!」
     ぱあんと扉が開かれて暴風の如く出現した人間の少女に、思わずため息をついてしまったのはご愛敬だろう。
    「アンタね、相変わらずひとのあるじを変な名前で呼ぶしその行動なんとかならないの?」
    「ならないっ!」
    「断言早いんだけど!?」
     繰り出した嫌味さえもサクッと処理されて、思わず頭を抱えた。
    「珍しいね。どうしたんだい?」
     呆れるでもなくわくわくといった表情で返事をするあるじもあるじだ。掛け合わせてはいけないふたりがタッグを組んで追い詰めてくる。無自覚に。
     タチが悪い。
     無意識の残虐性を持つあるじ、魔王アスバルと、台風の目とも言える少女。
     従者であるリソルもゼクレスの貴族であるが、魔王であるアスバル、更にその上の大魔王である少女に権力面で太刀打ちできない。ついでに武力面でも秒で制圧される未来しか見えない。
    「あのねあのね、面白いもの見つけてね」
     もうヤダ逃げたい。
     らしくもなく心の中で涙目になっていると、少女は楽しげに跳ねながら荷物をゴソゴソと漁った。
     出てきたのはころんとした紫色の球体だ。しっかりと色付いたそれは、よく見ればにっこりと笑う顔があるようにも見える。
     リソルとて珍しいものには興味がある。特に少女はどうやって入手したのか全く分からないものを手に入れてくるのが上手い。
     伝説級の品物や、滅びたと言われる植物、魔物の素材など多岐にわたり、謎が謎を呼ぶ謎仕様の人物となっていた。
     あるじは少女に断ってから、謎の球体をその手に取ってしげしげと見つめる。その瞳は楽しそうにキラキラと輝いていた。
     あっこれダメなやつだ。
     リソルは嫌な予感を感じたものの、前門の魔王、後門の大魔王。逃げ出すのは不可能だ。
     口から特大のため息をこぼすのは見逃して欲しい。
    「ね、それ面白いでしょ?」
    「確かにこれは面白いね。どこで見つけたんだい?」
     きゃっきゃと女子生徒の如くはしゃぐ魔界上位種二名。自由すぎる。
    「ゼニアスだよ! ほら、まだあるの!」
     ざらりと袋の中から大量の玉を取り出す。そうだった、この少女収集癖があるんだった。
     特に魔物由来の素材を収集するのが大好きだと乱獲に勤しんでは学会に生態系が変わると危惧されていたのだった。
     案外滅びた魔物たちも少女の乱獲が一因になったのかもしれない。笑えないな。
     ひく、と口角が引き攣るのは仕方がないと思いたい。
    「ゼニアスか! よければ今度一緒に取りに行っても構わないかい?」
    「何しれっと仕事抜け出そうとしてるの」
     油断も隙もあったもんじゃない。
     リソルはピシャリとアスバルに苦言を呈した。
    「大丈夫だよ。また人形置いとくし」
    「……ああ、あるじの脱走技術が向上していく……」
     最初は声がソックリな身代わりだったのに、短期間で人形まで作り出すのだから末恐ろしい。そのうち分身とかしそうだ。
     技術の無駄遣い、というのはこういった事柄のためにある言葉なのではなかろうか。
    「現地調達はまた今度にして、今はこれだよこれ!」
     そして止めるという気が全くない少女も少女である。リソルは急激な頭痛に襲われた。
    「この玉の名称は呪力のモトっていう、職人のための素材なんだけど」
    「確かに呪力のモト、言い得て妙な名前だね!」
    「そそ。強大な魔力のかたまり。こんなモノが産み出されるなんて面白いよねぇ」
    「でもそれだけだろう? 魔力の塊なんて作ろうと思えば僕にも作れるよ?」
     MP四桁は伊達ではない。その膨大な魔力を以て全力でスイカ割りをするような性格じゃなければもっと良かった。
     ついでにスイカ割りをするためにスイカを釣るという謎文化があることにも混乱するが。スイカって、畑に生えるものでは。
    「確かにそれはそれで面白いけどさ、これってつまり、この中に膨大なエネルギーがあるってことでしょ?」
    「そうだね。動力源として取り出せたら色々なものに役立ちそうだ」
     魔導大国であるゼクレスは、魔力が強いものが好まれる。武力を好むバルディスタとは方向性が似ているものの決定的に違うのだ。
     魔力が強いものは大抵が上位魔族であり、ゼクレスを支配する貴族たちとなっている。リソルはもちろんそこの一員だ。
     国のあらゆる機関が魔力を動力源としているため、魔力が強いものが優遇される。アスバルはそれを憂いていたところがあるので、この呪力のモトが魔力に代わる動力源の光明になるかもしれない。
    「動力源もいいけどさ、これ投げて破裂させたら楽しそうじゃない?」
     なるほど国に有益ないい話、かと思いきやとんでもないクラッシャー発言にリソルは思わず耳を疑った。
     少女は魔族ではないのに、魔族より発想が物騒とはこれはいかに。
     いや確かに少女は大魔王だが。大魔王だが……!
    「そんな物騒な物体作って何するつもりなの」
    「うーん。カチコミ?」
    「なんでそっち方面にいくかな!?」
    「うん、いいなカチコミ。呪力のモト爆弾を量産して天聖郷撃ち落とすのも……」
    「大魔王がやりたいなら僕も全力で力を貸すよ!」
    「乗っからないでよあるじ!」
     魔族は確かにアストルティア侵攻を何度も繰り返していたがそれはそれ、これはこれ。
     現在の魔王たちは今代大魔王が大好きであり、各々実にイキイキとしている。大魔王が「殺りたいんだけど」と一言言うだけで少なくとも地図が書き変わる。
     大魔王にはその発言ひとつでとんでもないことが勃発する自覚を持って欲しい、切実に。
    「まあ使うか使わないかはさておいて、面白そうだから爆弾開発しようと思うんだ」
    「そんな理由で物騒なもの開発しようとしないでくれる!?」
    「確かに作っている過程で新しい発見ができそうだしわくわくするね!」
    「だから興味を示さないであるじ!」
     その日、リソルのツッコミは忙しく、そして追いつくことを知らなかった。
     後日、愉快犯ふたり主導で魔法の玉と名付けられた新種の爆弾が開発され、魔界を震撼させることをリソルはまだ知らない。
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