書きたいものを書いた、ただそれだけだ。 さて、どうしたものか。
カードゲームでよく口にする言葉を心の中で呟く。
周囲は薄暗く、ぼんやりと視界が霞むせいでうまく把握しきれない。
ずきずきと痛むのは頭、次いで右足。細々とした傷は他にもあるだろうが、一部麻痺していて詳しくは分からない。
両腕は後ろ手に縛られているらしく、転がされているのは床の上ではなく砂の上だ。口の中がジャリジャリして気持ち悪い。
砂の質感から見るにジャリムバハ砂漠一帯なのは確かだろうが、如何せん範囲が広い。
周囲に気配は無い。おそらく誰もいないのだろう。
さらさらと砂が流れる音がするが、砂漠ではどこも同じような音がする。それこそ噴き出して降り注ぐぐらいの轟音なら分かりやすいのだが。
腹筋を使って上体を起こす。デスクワークが主であるが、剣を振るうことも多々ある為腕と勘は鈍らせていない。
凝り固まったからだが悲鳴をあげたが無視してぐるりと辺りを見渡す。
崩れかけた廃屋のような場所だ。半分以上砂に埋もれていて、床面は一部を除き、完全に砂に侵食されている。
周りは岩肌で、およそ自然の岩に沿って作られたものだろう。故に窓はない。
唯一ある簡素な木の扉は、朽ちかけていて脆そうだが、体当たりをすれば何とかなるものなのか。
足に力を入れるもぐらりと傾ぐ。思ったよりも足の状態が悪い。
それに足場も悪い。砂地を歩くことには慣れているが、よく沈む性質なのか踏ん張りが効かない。
ずざっと音を立てて膝をつく。思った以上にからだが動かなかった。
ちっとらしくもない舌打ちをして、落ち着くように深呼吸をする。ここで焦っても事態は好転しない。
まずは状況を整理して、どういった事柄が考えられるのかを見極めなければならない。
意識を失う前に感じたのは頭への痛みだったので、頭を強く殴られたのだろう。お陰で今も頭は痛い。
襲われて誘拐された。それが一番近い気がする。
個人に対する恨みから、国家単位の恨みまで、ありとあらゆる恨みを買っているので、犯人には心当たりが多すぎて絞り込めない。
個人はともかく国家単位のものはひとりを排除したとして意味がないと思うのだが、執政的には結構な大穴にもなるので打撃がないともいいきれない。ひとりいなくなったところで回らないような危うい国家運営などしていないのだが。
こういった暴力ごとに走るような輩に説教をしたところで理解できるかは怪しいが。
暴力には暴力を。魔族というのは強者が絶対だ。不意打ちとはいえ倒された時点で、現在の弱者はこちら。向こうが従う理由がない。
ある意味では万事休す、だが、不在を知れれば捜索部隊が結成されるだろう。
あるじとは違い、言伝てから行動することが多いとはいえ、いい歳した大人なのだから二、三日程度では探される気がしない。どのくらい意識を失っていたのか、窓もないこんな場所で判断は難しい。
連絡手段もない、武器も奪われている、場所も分からない、怪我の状態も思ったより酷い。ならば取るべき行動はひとつだ。
からだのちからを抜いて、再び砂の上にからだを横たえる。かろうじてある床の上にとも考えたのだが、床の上の方がからだが痛くなるだろう。
目をぐっと閉じて、出来るだけからだが沈む砂を吸い込まないように呼吸する。今はただ、出来るだけ体力を温存することが最優先だ。
好機というのはいつ巡ってくるのか分からないものなのだから。