Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    イチハ

    @ichwwwrite

    らくがきとかワンクッション置くものとか

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💗 👍 😋 🍵
    POIPOI 5

    イチハ

    ☆quiet follow

    幼馴染以上恋人未満の忘羨がクリームソーダ作る話(全年齢版)
    こちら(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17190386)の続きですが、これだけでも読めます

    クリームソーダのせいにして「……飽きた」

     部屋の中に、ぽつりと呟きが落ちた。持っていたシャーペンもぽいっと軽く放り投げる。テーブルの上には書きかけのノートと参考書が散らばっていたが、もうおしまいと片付けるのも億劫だった。
     休日、一緒に勉強でもしようと誘いかけ、幼馴染を自室に招いたのは魏無羨の方からだった。退屈な課題も気の乗らない受験勉強も、分かち合う相手がいれば少しは実のある時間になるだろうと思ってのことだ。が、結果として魏無羨は一時間足らずで早々に飽きた。
     課題は終わったし、そもそも必死に勉強しなければならないほど出来の悪い頭でもない。それは向かい合わせに座っている幼馴染──藍忘機も同じはず。ならばせっかくの休日、もっと有意義な時間を過ごした方がいいのでは? そう思いながら、じっと藍忘機を見つめてみたのだが。

    「……」

     彼はペンを滑らせる手を止めなかった。落ちてきた黒髪を耳にかけ、時折参考書のページをぺらりと捲っては、綺麗な字でノートにまとめ上げていく。魏無羨とは目も合わせてくれない。

    「あーきーたー」

     頬杖をつき、じとりと藍忘機を睨め付けながら訴えても、彼は「まだ一時間しか経っていない」と言うだけで頑としてこちらを見ようとしない。藍忘機は経験則で知っているのだ。魏無羨から見つめられ、ねだられると、最終的に抗えなくなってしまうのだと。だが、魏無羨は抵抗されればされるほど燃えてしまう性分だった。そちらがその気なら、とテーブルの下で足を伸ばし、綺麗に正座した藍忘機の膝を爪先でするりと撫でる。

    「っ、行儀」
    「仕方ないだろ、俺の足は長いんだ。ちょっと休憩したくて伸ばしただけだよ」

     軽口を叩き不服を装いながら、悪戯はやめない。行儀が悪いと評判の足でつつつと膝をなぞり、その丸みを堪能していれば、やがて藍忘機が折れた。

    「……休憩にしよう」
    「やった!」

     ようやく待ち望んだ言葉が出てきた。足を引っ込め、何する? ゲーム、漫画、いっそどこか遊びに行く? と矢継ぎ早に問いかける。

    「十五分だけだ」
    「えー……いいじゃん、課題は終わったんだしさぁ。俺たち頭はいい方なんだから、大丈夫だって」
    「備えは必要」

     む、この真面目ちゃんめ。
     そう膨れたものの、確か先週末も同じようなやり取りをして、その時は魏無羨の要望を呑んでくれたことを思い出した。これ以上譲歩させるのは手こずりそうだ。

    「……あ! じゃあさ、おやつにしよう! ちょうどいいものがあるんだった」

     ぱっと閃いた名案に、魏無羨は上機嫌で立ち上がる。おやつ、と首を傾げる幼馴染ににっこりと笑いかけ、「ちょっと待ってろよ」とだけ言い置いて部屋を出ると、早速支度に取り掛かった。
     
     
    「準備してきた!」

     ばたばたと階下で賑やかな音を立てた後、そう経たない内に魏無羨は部屋に戻った。テーブルの上の参考書類を雑に脇に寄せ、持ってきたトレーごと中央に置く。トレーの上には、氷で一杯にしたグラスと、ストロー、スプーンがそれぞれ二つ。それから、冷えたサイダー、バニラアイス、二種類のかき氷のシロップが乗っていた。

    「じゃーん。クリームソーダ!」

     得意気に披露して、魏無羨はペットボトルのサイダーの蓋を開けた。プシュッと空気の抜ける音がする。二人分のグラスに並々と注げば、透きとおった炭酸がぱちぱちと弾けた。

    「藍湛、作ったことある? 店で出るようなカラフルなやつ。実は簡単にできるんだよな。見てろよ……」

     魏無羨は、手に取ったブルーハワイのシロップをグラスの中へ流し入れた。深い青色が氷の間をとろとろと滑り落ち、底へ溜まる。それをスプーンでかき混ぜると、青がふわりと浮き上がり、透明に滲んで、やがてグラス一杯が爽やかな色で満たされた。仕上げにバニラアイスをひとすくい乗せ、ストローとスプーンを添えて、はいどうぞと藍忘機に差し出す。

    「俺はイチゴにしようっと」

     残った一方には赤いシロップを入れ、同じようにアイスを乗せて完成させた。藍忘機のものと並べると、青と赤の対比的な色合いもあって一層おいしそうに見える。我ながらいい出来だと自賛し、ストローに口をつけた。甘くてつめたい。じわじわと暑くなり始めた季節にはぴったりだった。
     藍忘機の方は、すくい取ったアイスのひと匙を口へ運んでいる最中だった。シロップの色が移ってわずかに水色がかったアイスクリームが、慎ましやかに彼の口内へ消えていく。

    「どう? おいしい?」
    「……甘い」
    「それだけ?」

     藍忘機らしい淡白な感想に、魏無羨はむっと口を尖らせた。けれど、その後に続いた言葉を聞き一転、笑みを浮かべることになった。

    「綺麗な色」

     藍忘機の視線がグラスの中身に注がれている。今もぱちぱちと泡を弾けさせている、透明な、淡い青色のソーダ。気に入ってくれたのなら良かった。夏が来るたびに買っては余らせてしまいがちなかき氷のシロップの、有用な使い道だ。

    「いろんな味のシロップ買ってきてさ、混ぜたりしても楽しそうだよな」

     メロンにグレープ、レモン、最近だとコーラ味なんかもあるらしい。混ぜ方によってはグラデーションも作れそうだ。藍忘機は食べ物で遊んではいけないと小言を言うだろうかと想像し、自然と口角が上がった。

    「あ、色といえば。かき氷のシロップって舌に色が着かないか? ほら、どう?」

     べ、と何気なく舌を出して見せると、藍忘機はなぜかぎょっとした顔になった。怪訝に思いながらもそのままでいると、ごほんと咳払いした彼が「少しだけ赤くなっている」と答える。ただ、その間に魏無羨は気付いてしまった。耳たぶにほんのりと差した赤みに。

    「……ふーん」

     にや、と魏無羨の片頬が上がる。目を逸らしている藍忘機は、その悪巧みに気付いていない。これ幸いとテーブルの上にぐっと手を突き身を乗り出す。邪魔な勉強道具が騒がしい音を立てて床に転げ落ちた。

    「もっとちゃんと見て」

     口を開き、もう一度、今度は見せつけるように舌を出した。透きとおるソーダへと彷徨い逃げていた藍忘機の視線が、魏無羨の真っ赤な舌に戻り、留まって逃げられなくなる。薄い色をした瞳がゆらゆらと危なっかしく揺れて、けれど食い入るように。その眼差しの強さの理由を、意味を、魏無羨はもう知っている。
     この男に好きだと言われた。魏無羨は未だに明確な答えを返せてはいないけれど──無意識に、テーブルが軋むほど乗り出した体を近付けながら思う。
     もっと近付きたい。
     小さなテーブル分の隔たりがわずらわしい。
     だけどまだ、少しだけ、この距離をなくしてしまうのが怖い。
     魏無羨の身も、心も、藍忘機だけがこんな風にままならなくさせる──

    「魏嬰、……っ」
    「ん、」

     衝動に突き動かされるがまま、気付いたときには藍忘機の唇をぺろりと舐めていた。バニラアイスとサイダーの味。舌先にほんのわずか残る甘さを口の中で転がして、何かを堪えるように固まってしまった幼馴染へ囁きかける。

    「そっち、行ってもいい?」

     自分でも驚く程ふわふわと頼りなく情けない声になった。藍忘機は頷かず、ただ一言だけを魏無羨に返した。

    「君が決めて」

     こく、と唾を飲み込む。最もな言葉だった。藍忘機はもうとっくに気持ちを伝えてくれている。彼が魏無羨に向ける「好き」がどんなものか、あのホワイトデーの日から丁寧に、解きほぐすように。だから、あとは魏無羨次第。
     ──もう少し。もう少しだけ、近く。
     自身に言い聞かせながら魏無羨は立ち上がり、テーブルを回り込んで、藍忘機の正面に膝をつき合わせるようにして座った。伸びてきた彼の手がぐっと魏無羨の手首を掴む。今はまだ冷たいままの、甘く爽やかなクリームソーダ。それとは対照的な熱が、藍忘機の指先に灯っている。
     唇を触れ合わせる直前、どちらから先に顔を寄せたのかは、魏無羨にはわからなかった。
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🍆💘💞💯💴😍🇱🇴🇻🇪💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞❤❤❤❤❤❤👏👏👏👏💖💖💖💖💖☺🙏🙏🙏🙏©®🇪🅰♏💲🅾▶🅰😝
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works