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    yuduru_1957

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    yuduru_1957

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    リーマンパロの類司🎈🌟
    エンジニア🎈(30)と新人社員(21)🌟のお話。

    #類司
    Ruikasa
    #パロ
    parody
    #年齢操作
    ageManipulation

     ——開始十分で、やられたと気付いた。
     目の前に座る、ビールの入ったコップを片手に、唾を飛ばす勢いで喋る上司の口から何度同じ話が繰り返されただろうか。
     根が真面目な天馬司は適当に話を聞き流しながら相槌を打つこともできない。司が生返事をしないことも上司の機嫌を高調させる要因になっているのかもしれない。
     話したがりの酔っ払いは総じて、機嫌が良くなるとさらにお喋りになる。
     以上が入社一ヶ月の天馬司が、初めての酒の席で胸に刻んだ教訓である。
     ***
     この四月から入社した新人社員の歓迎会は、地方に約一ヶ月間の研修に赴く必要があったため、五月の連休を経て開催された。都心にある本社に配属されたのは、司を含めて四人。他の三人は全員四年生の大学を卒業しているが、司は二年の短期大学卒だ。つまり他の三人より年齢が二歳若い。
     だが、司は持ち前の明るさと人懐っこさで歳の差の壁を感じさせない。少々風変わりな発言や態度も距離を縮めるきっかけになったらしい。新人研修を終える頃には、すっかり四人は仲良くなっていた。
     司達の内、二人は営業部に、残りの二人は企画部に配属された。司は本人の希望もあって、営業の方に回される。営業に回りたいなんて変わっているな、と先輩達は揶揄するも「営業が一番人と関われる部署だと思ったからです!」とハツラツとした笑顔で返されては、舌を巻くしかなかったという。その実、司は人と仲良くなるのが上手かった。馴れ馴れしいわけではない、適切な距離を取りながら相手の許す最も近いスペースに入り込むのが上手いというべきか。
     大方の先輩や同僚達は司を可愛がり、関係も良好だったが少数ではあったが彼をやっかむ者がいるわけで。表立って嫌がらせの類いをされることはなかったが、不穏な気配を感じ取っていた同僚達からは「気を付けた方が良いぞ」と忠告はされていた。だが、この天馬司、人の好意は敏感に感じ取るものの、人の悪意にはめっぽう鈍感だった。正確には、司は悪意を悪意と捉えない、かもしれないが。
     実害もないし、同僚達の心配は杞憂だろうと放っておいた結果がこれならば、今後はもう少し他人の話には耳を傾けなければならない。と司はこっそり胸の内でため息を吐いた。
     過去に思考を巡らせ、現実逃避をしていた司だったが、相変わらず顔を真っ赤に染めてマシンガントークを繰り返す上司は変わりがない。気付いた時には誰もかれも綺麗さっぱりいなくなって、自分の部屋に帰っていたら——どれほど良かっただろう。と司らしからぬ考えが浮かんでしまうほど、彼は参っていた。
    「それでだね、天馬くん! 私が若い頃なんてものはね……。ああ、コップが空になっているぞ。さあ、遠慮せずにもっと呑みなさい!」
    「あ、ありがとうございます……頂きます」
     ヘラヘラと笑顔を浮かべていれば、取り敢えず怒鳴られることもない。それだけが唯一の救いだった。
    (む……胃がムカムカしてきた。気分も、悪い気がする……)
     向かいの上司は司の体調の変化に気付いているはずもなく。助けを求めて視線を彷徨わせるも、上司と自分の隣にはわざとらしく空けられた一人分の席があり、徒労に終わる。
    「ほら、もっと呑みなさい!」
     これは、一気飲みを強要されているのだろうか。先程ビールをなみなみと注がれたばかりで、さらに飲めとは。司の意識は遠退きかける。おまけに、学生時代はバイトと学業に全力を注いでおり友人達と酒の席を囲むことも殆どなかった。身体が許容する飲酒量を把握しないまま、かれこれ上司と司が空けたビール瓶は既に六本目。
    「……い、頂きます」
     コップに唇を付け、意を決してグイッと一気に飲み干そうとしたその瞬間——。
    「おや、若い子ばかり可愛がらないで、僕も相手して下さいよ、企画部長」
     思わず瞑っていた目蓋を上げると、司の隣に見知らぬ男が座っていた。紫の髪に空色のメッシュが目を引く、整った顔立ちの男だった。歳は司より少し上だろうか。だが、見た目の若さと纏う空気がちぐはぐだ。司の印象よりも男は歳上なのかもしれない。
    「神代君! 久しぶりじゃないか! さあ、駆けつけ一杯!」
    「フフ、いつも企画部が無理難題を押しつけてきますので、技術部は大変なんですよ? ええ、頂きます」
     注ぎすぎて泡がコップの壁を伝い零れている。なみなみとビールが注がれたコップを受け取り、神代と呼ばれた男は一気に飲み干した。喉元が上下し、コップの中の黄金色は着実に量を減らしていく。
    「いい飲みっぷりじゃないか! もう一杯!」
     上司の興味は完全に司から神代に変わったらしい。目を丸くしながら青褪める司に、神代は小さくウィンクを返して、立て続けに二杯目のビールを飲み干した。
    「ごめんね、割り込んじゃって。上司二人に挟まれてなんていくら無礼講と言えど羽を伸ばせないよね」
     滅相もない! 寧ろあなたが来てくれて助かりました! とは当然言えず。折角なら、と司は新しい縁を大事にしようと思い直す。
    「いえ、初めてお会いする先輩とお話できるなんて、ラッキーだな、と思っていました!」
    「おや、それは嬉しいことを言ってくれるね。君の名前は? 僕は神代類、技術部に在籍しているんだ」
     神代類先輩、頭の中でその名を反芻して、司はほっと息を吐いた。柔和な雰囲気を醸し出す穏やかな微笑みと、司の考えすぎでなければ酒を勧められたところを庇ってくれた気遣いと。おまけに司に自己紹介をしながら、類は三杯目のビールを飲み干していた。顔色ひとつ変えずにビールを飲む姿が、端的に言えば格好いい。落ち着いた大人の余裕を持ちながら、酒が強いとくれば——司が憧れるのも無理はなかったのかもしれない。彼は分かりやすい格好良さに弱いのだ。
    「あ、オレ……ぼ、僕は天馬司と言います! か、神代先輩は技術部に在籍しておられるのですね! 技術部の方とは普段あまり話す機会がないので、今日お席をご一緒できて嬉しいです!」
    「ふふっ、オレで良いよ。話しやすい話し方で良いからね。おや、ずいぶんお上手だね。これは企画部長が気にいるのも分かる気がしますよ」
    「そうなんだよ! 彼、かなり仕事ができるんだ……」
    「おっと、危ない……。おや、眠ってしまったみたいだね」
     先に潰れたのは上司の方だった。数分前からかくかくと首が据わっていなかったが、限界を迎えたのだろう。そういえば、司以上に酒を飲み、類の登場から時間がほとんど経っていないにも関わらずグラスを空けていた。
    「ごめんね。企画部長は酒癖が悪くて……。いつも新入社員が犠牲になっているんだ」
     ——君を守れて良かったよ。
     少女漫画のヒーローが言いそうな甘いセリフ。それでもこの男が言うと実に様になる。自分の頬が熱くなるのを司は自覚し、つい俯いてしまった。
    「フフ、可愛いね。ああ……でも、ちょっとやっぱり気分が悪いかな。朝から何も食べていなくて……」
     確かに、類の顔色は白を通り越して蒼い。空腹の胃にアルコールを一気に注げば仕方ないだろう。よく見れば下目蓋を隈がくっきりと染めているではないか。技術部は大変だと類も言っていたと司ははたと思い出す。責任感の強い司は、罪悪感に苛まれた。
    「あ、お、オレの所為ですよね……取り敢えず水を……」
    「すまないね……。フフ、格好付けすぎてしまったかな」
     そんな司の性格を読み取ったのか、責任を感じさせないように微笑んで類は水を一気に飲み干した。顎が上を向き、筋張った首筋の凹凸が上下に動く。
    「い、いえ! さっき神代先輩……あ、類先輩が来てくれていなかったら、オレ……」
     想像しただけで恐ろしい。急性アルコール中毒になっていてもおかしくなかったのかもしれない。
    「だから、本当にありがとうございました! このお礼は、必ず返したいので連絡先を教えて頂けませんか?」
     スマホを握り締め、司は類に詰め寄る。だが、類はその柳眉を下げ、バツが悪そうに頬を掻いた。
    「ああ、とても嬉しい申し出なんだけど……今日は家にスマホを忘れて来てしまってね。タブレットがあったから仕事には支障は出なかったんだけど……」
    「先輩って意外と可愛らしいところもあるんですね。っと……すみません、失礼なことを」
    「あまり揶揄わないでおくれよ……」
     これが俗に言うギャップ萌えか、と司は妙に納得した。可愛いと言われて類の白い顔に僅かに赤みが差す。
    「すみません。でも、それならちょうど良かったです!」
    「ちょうど良い?」
    「はい、そろそろお開きみたいですので、オレが先輩の部屋まで送ります! そうすれば連絡先も教えてもらえますから」
    「……そう? じゃあ、お言葉に甘えようかな」
    「はい、任せてください!」
     一瞬の沈黙は気になったものの、遠慮しようとしたのだろうと、この時司は特に深く考えなかった。
     ***
    「本当に助かったよ……。玄関先で連絡先の交換なんて味気ないから良かったら上がって行って?」
    「すみません……。その、無理に押しかけてしまったみたいで」
     居酒屋を出る時、気分は悪そうだったものの、タクシーに乗って類の部屋に辿り着く頃にはすっかり酔いが醒めているようだった。
    「気にしないで。二次会に行くつもりはさらさらなかったからね。おや、大丈夫かい?」
    「あ、れ……すみません、足元が……」
     ふらり、と司の千鳥足を支えて類は微笑んだ。
    「あれだけ飲んでいたんだ。仕方ないよ。休んで行って?」
    「あ……はい、ありがとうございます……」
     なんと優しい先輩なのだろう。初対面の司を酒ハラスメントから庇い、酔った司を介抱してくれるという。あの酒を強要してきた上司とは大違いだ、と感動しながら司は類の肩に腕を回した。
     
     ——ああ、本当にかわいい子。
     
     その〝優しい先輩〟が蛇のように鋭い瞳で舌舐めずりをしたことを、司はついぞ知ることはなかった。そして、彼の本性に気付くのは翌朝一糸纏わぬ姿で類のベッドで目を覚ました時だと言う。
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