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    いつの時代なのか不明の松降
    別れようとする降と、それを許さない松のお話。
    松降が分かりません…

    #松降
    matsushita

     それは本当に偶然だった。

     事件でも起きていたのか、道路の向こう側に人が群がっており、近くにパトカーが数台停まっている。しかしもう解決したらしく、撤収しようとしているところだった。警察関係者が大勢忙しなく動いている、その中に彼がいた。

    (松田…あいつが出るような事件だったのか)

     他の警官と少し離れた所で煙草を吸い携帯を見る松田。事件が起きていたとは思えない緊張感のない様子に呆れて苦笑する。
     するとそこに、女性警察官が近づき松田に声をかけた。気を許している相手なのか、携帯から目を離してそれに応える彼が目に入る。何を話しているかわからないが、どこか親しげな様子に心がざわつく。浮気現場を見たというわけでもないのに、これ以上見ていることができずその場を後にした。


     自分でも驚くくらい、ショックを受けていた。ただ女性と話していただけ。たったそれだけなのに、ショックだった理由は松田の隣に女性がとても似合っていたから…

     松田と僕は、所謂恋人同士というやつだ。
    但し、それは誰にも打ち明けられない2人だけの秘密である。僕の立場をわかった上で、それでも良いと彼が言ってくれ、覚悟を決めて一緒にいることを選んだ。幸せなはずなのに、心の中にはいつもどこか不安があって、消えてくれることはない。
     僕がこういう立場でなくても、僕たちは男同士で、誰にも祝福されない関係である。きっとそれが引っかかりの原因だ。

     松田はどうして僕が良いんだろう。僕じゃなきゃいけない理由って何?わからない。何度考えても決して正解が出てくることはない。
     きっと僕に出会わなければ、松田はこれまで通り女性と出会って恋をして結婚して、家庭を作って…そんな人生が待っていたのだろう。いつか訪れたはずのごく普通のありふれた幸せを奪ったのは、間違いなく僕だ。僕がいなければ…という思いが頭の中を駆け巡る。

     ただ1つ言えることは、僕が松田との関係を終わらせなきゃいけないということー…







    「もう、終わりにしよう」
    「…は?」

     急に別れを切り出した僕に、松田は驚いていた。久しぶりに会ってようやく2人きりになれたというのに、こんなこと言われたら当然か。

    「松田は、大丈夫。僕がいなくても、僕じゃなくても大丈夫。松田の隣にいるのが僕じゃダメなんだ。僕といても、松田は幸せになれない。」
    「ちょっと待てよ、何、いきなり何言い出すんだよ…」
    「僕じゃなくても良いなって思ったんだ。逆になんで僕なんだろうって。松田を好きな女の子なんてきっといっぱいいる。そう考えたら、僕じゃなきゃダメな理由ってないなって。僕は男だしこんな仕事だし、本当に必要なときに支えてあげることだってできない」
    「おい、」
    「僕なんかと付き合わなかったら、きっともっと穏やかで安心できる恋ができていたんだろうな。松田の相手は僕じゃなかったんだ」
    「……」
    「僕じゃ誰にも祝福してもらえない。僕は松田を大切に思ってる人に祝福されて生きてほしい。前に、僕がいたら幸せって言ってくれたことあっただろ?嬉しかった。だけど、それじゃダメなんだ。こんないつ何があるかわからない僕なんかじゃなくて、ずっと松田のそばにいることができる女性を見つけて、付き合って…結婚して家庭を持って子どもができて、そうしてみんなに祝福されて…僕はそういう未来をお前に歩んでほしい。だから僕は一緒にいられない」

     全部松田のためなんだ。分かってくれるよな。松田は僕と離れた方が良いんだ。



    「…………ふーん、で?」
    「え…」

     予想していなかった言葉に息が詰まる。松田はじっと僕を見ていて、身の置き場がないのに目を反らすことができなかった。

    「お前、本当にそれで良いのか?」
    「だから、良いって言ってる…」
    「じゃあ、なんで泣いてるんだ?」
    「え…?」

     自分の頬に触れると、そこは濡れていた。自分でも気が付かない間に涙が流れていた。泣き顔を見られたくなくて必死に涙を止めようとしても嗚咽が漏れて次から次へと涙が出てくる。

    「俺が女と結婚して子どもを持って、それがお前の幸せなのか?」
    「だからっ、そう言ってる」
    「お前はそれで幸せなのかもしれない。でも、じゃあ俺は?ここで零を諦めても俺は幸せになれない。零は俺のこと幸せにしてくれねぇの?一緒にいてくれねぇの?全部を捨てたって、俺はお前のそばにいたい」
    「っそれがダメなんだ!だって、捨てなくて良いんだ。捨ててほしくないんだ。松田には全部手に入れてほしいって思ってるんだ…!僕じゃ何もあげられないし誰にも祝福されない。僕のせいで、松田が軽蔑されるのはいやだっ」

     松田と永遠を共にする夢を見た。松田と一緒にいる時間はとても穏やかで自分の知らない感情に出会うたびに戸惑いもあったけれど、それは何にも代えられない幸福だった。松田はたくさんたくさん僕に愛をくれた。大勢の人に愛されるべき彼の愛を、僕なんかが独り占めしたらいけないんだ。こんなに綺麗な人の愛を独占してるのが僕だなんて知られたら、きっと彼の名前に傷が付いてしまう。僕が諦めれば全て叶うことだ。だから僕が、手放すしかないんだ。




    「来い」

     急に手首を掴まれ、引っ張られながら寝室に連れていかれベッドに放り投げられた。そして僕の上に松田が跨る。顔の横に手があって、逃げることなんてできなかった。


    「やだよ、零。そのお願いは聞いてあげられねぇ」
    「松田の、ためなのにっ…!なんで、わかってくれないんだ…!」
    「わからねぇ。お前のことやっと手に入れたのになんで離さないといけないんだ?俺がどれだけ零を好きで零を必要としているか、お前は何もわかってない!」
    「まつ…っ」

     強引に唇を塞がれた。無理矢理口を開かされて舌を吸われ、肩が跳ねる。力の差は変わらないはずなのに、離そうと肩を押してもびくともしない。漸く離れたと思ったら、そのまま首筋を舐められた。

    「まつだっや…っ、だめっ」

     松田の手がシャツの中に入ってきて僕の身体を弄る。器用なくせにぎこちなく僕に触れるいつもの松田とはまるで別人で、恐怖を感じた。ぶっきらぼうで意地悪だけど、決して乱暴なことはしない松田がこんなことするなんて…という驚きを隠せず戸惑っていると、シャツを捲り上げ、そこに唇を落としてきた。



    「別れねぇよ」
    「え」
    「やっと手に入れたんだ。離してなんかやるもんか」
    「松田…」

    「一生俺のものだ、零」



     あぁ、せっかく僕から開放してあげようと思ったのに。バカだな、松田。大人しくわかったって言って僕から離れていけば幸せになれたのに。

     こうなれば、2人で一緒に堕ちるところまで堕ちようか。



     壊れるくらいに愛してもらえたら、それでいい


     これは天国なのか、それとも地獄の始まりか……


    fin.
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