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    長谷高

    何度か別れの危機があった2人のお話

    ※大学時代から付き合っていた2人
    ※全て幻覚で捏造
    ※なんでも許せる方向け

    #長谷高

    幸せを重ねる*


     あれは長谷部が大学を卒業する、前の日の夜のこと。


     卒業式当日は実家に帰らなければならないと高明に告げると、「では前日に伺っても良いですか?」と聞かれた。断る理由などないためもちろんと頷き、学生最後の逢瀬を交わした。

     この日の高明は珍しく甘えたで、行為の最中も長谷部が少しでも体を離すとそれを許さないとでもいうようにしがみついてきた。夢中になっていたからその意図を汲むことはできなくて、ただ可愛いな、くらいに思ってしまっていた。

     高明の様子がおかしいことに気付いたのは、行為が終わっても長谷部から離れようとしなかったからだ。後処理をするだけだよ、と言っても首を振って離れようとしない高明に、仕方ないなぁなんて言いつつベッドに逆戻りする。

     明日で長谷部は大学を卒業し、学生ではなくなる。4月から働く先は未知の世界で、どんな生活が待っているのか予想もつかない。これまでほど自由な時間も少なくなり、高明とも会いたいときに会うことは難しくなるかも知れない。離れ難いのは長谷部も同じで、甘やかす振りをしていつもよりも強く抱き締めた。


    「先輩、ご卒業おめでとうございます」
    「ありがとう」
    「僕たちの関係ですが……」
    「言っておくけど、俺は別れる気はないからね」
    「……え」
    「そもそも、なんで別れるなんて思うのかわからないんだけど」
    「だって……先輩はこれから就職されて広い世界を見るでしょうし…それに、ご家族のことだって……」
    「それは俺にとって別れる理由にはならないよ」
    「ですが……」
    「大丈夫だよ」
    「………」
    「大丈夫。ずっと好きだよ」


     なんの根拠もなかったけれど、手離す気はないということは伝わって欲しくて、引き寄せて抱きしめた。

     高明は何も言わなかったが、長谷部の腕の中から逃げることはなかった。



    *



     一度だけ、喧嘩をしたことがある。


     喧嘩、と言うには違うかも知れないが、長谷部の仕事が始まり、立場や生活のリズムが変わり、多忙を極め高明とすれ違うことが増えた。慣れない仕事と、高明に会えない焦り、まだ若かった自分は、きっと不安だったのだと思う。
     予定を決めても長谷部の仕事の都合で変更になることが多くて、高明には「ごめん」と言うことが増えた。それでも高明はいつも「仕事は仕方ないです」と淡々と言うだけで、物分かりがいいと言えばそうなのだが、自分だけが残念に思っているのではと、不満が募ってしまったのだ。


     ようやく高明に会えたのは、それから何度目かわからないスケジュール変更をした後で、最後に会ってからもう数ヶ月が経過していた。
     会えると言っても、いつもよりも少し早く退社することができたというだけで翌日も仕事で、少しの時間だったが会えるのならと思い高明に連絡を取った。どこかで食事でも、と思っていたが、高明があなたの家に行きたいですと言うので渋々了承した。



     長谷部の住むマンションの最寄り駅を伝えて、高明と待ち合わせる。電車を降り指定した出口のある改札に向かうと、高明は既に到着していた。人の邪魔にならない場所で、背筋を伸ばして立ち、本を読んでいる。その姿を見て、高明くんだなぁなんて安心する。そこだけ世界が違うのではと思うような美しい空間がそこにはあった。


    「高明くん」
    「あ……」
    「ごめんね、待った?」
    「いえ、お仕事お疲れ様です」
    「高明くんもお疲れ様。ここ来るの初めてでしょ?乗り換えとか大丈夫だった?」
    「えぇ」
    「良かった。高明くん、もうご飯食べた?俺まだでさ、通り道にスーパーあるから寄ってもいい?家何もないんだ」
    「あ、はい……」


     高明に自宅マンションまでの道を案内しながら2人並んで歩く。案内と言っても、朝は家を出るのが早く、帰ってくるのは夜遅い時間のため近所の散策などはできておらず、知っている店と言えば夜遅くまでやっているスーパーくらいだ。
     目的のお店が近付くと、高明に一声かけて一緒に中に入る。買い物カゴを手に取ると、すぐに食べられる物、食器がいらないもの、を中心にカゴに入れた。レジに行く前にお酒が売っている場所に行き、缶ビールをいくつか手に取る。仕事を始めてから、お酒を飲む頻度も量も増えた。仕事の付き合いでも飲み、家でも飲み、良くないことはわかっていても、1番手っ取り早いストレスの発散方法なので、やめられずにいる。

    「珍しいですね。確かワインがお好きでしたよね?ビールはあまり飲まれないのかと」
    「まぁね。けど、家に帰ってすぐ飲めるのってやっぱりこういうのだから」
    「そうですか」
    「高明くんも何か飲む?」
    「いえ、僕は大丈夫です」


     外で待っています、という高明の言葉に頷き、会計を済ませて店を出ると、再び並んで歩く。高明に最近あった大学での出来事を聞いていると、つい数ヶ月前まで学生だったのになんだか無性に懐かしさを感じ、普段は全くそんなことは思わないのに、少しだけあの頃に戻りたくなった。

     そうしてる間に長谷部の住むマンションに着き、エントランスのオートロックを解除して部屋に案内する。「どうぞ」と扉を開けると、高明は「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げて中に入った。
     就職を機に職場から数駅のマンションに引っ越し、新しい生活をスタートさせたが、良く言えば片付いている、悪く言えば生活感がない殺風景な部屋だった。ほぼ寝に帰っているという状態で、人を招くのはこれが初めてだった。


    「綺麗にされていますね」
    「そう?まぁ散らかすほど家にいないからね」
     
     部屋を見渡していた高明の視線がある一点で止まる。つられてそちらを見ると、上の人間にそういう店での酒の席に付き合わされた際に渡された、そこで働く女の名刺だった。

    「これは……」
    「あぁ、付き添いで行ったお店だよ。上の年代の人はこういう店が好きだからね」

     高明が目にしていた名刺を手に取りゴミ箱に捨てると、高明は「そうですか」と興味があるのかないのかわからない温度のない返事をした。特段気にすることもなく、ソファに座るよう促し、隣に腰掛け買ってきたものを広げて手を付ける。ただ味の濃いだけの食べ物はあまり食べる気にもならず、少しだけ口にしてすぐに缶ビールを開けた。


    「いつもスケジュール変更ばかりでごめんね?会えてもゆっくりできないし……」
    「いえ……お仕事は仕方ないですよ」
    「もう少ししたら、ちゃんと時間作るから」
    「……大丈夫です。お忙しいと思いますので、僕のことは気にしないでください」

     淡々と発する高明に、蔑ろにされている気がして、不満が蓄積されていたのもあり少し頭に来てしまう。


    「……君は俺がいなくても平気なんだね」
    「それはあなたの方では?」
    「……何それどういう意味?」
    「………」

     言うつもりはなかったのだろう。自分の発した言葉に驚いた顔をする高明は、視線を彷徨わせて長谷部に背中を向けた。


    「もういいです」

     そう言って部屋から出て行こうとする高明の手首を咄嗟に掴み、引き留める。


    「ちゃんと言葉にしてくれないと、わからないよ……」


     逃げようとする高明を、それは許さないとでもいうように手首を掴む力を強くする。乱暴なことはしたくない、優しく触れたいと常に思っているが、今はそんなことを考えている場合ではない。ここで帰したら絶対に駄目だと長谷部は思った。
     抵抗しても無駄だと悟ったのか、高明から力が抜けていく。大人しくなった高明に、長谷部も掴む力を緩めた。



    「………あなたに相応しい人は、僕じゃない……」
    「何言って……」
    「…………僕は、あなたの足を引っ張っていませんか?」
    「どうしてそんなこと思うの」

    「……あなたが、いつも謝るのが…心苦しいんです…。僕と付き合わなかったら、そんなふうに言わせることもなかったのに、と…。お忙しい中、連絡をいただいたり、お時間を取っていただいたり……自分の存在があなたの負担になっているのではと思ってしまうんです」
    「そんなことないよ、俺が高明くんに会いたいだけだよ」

     高明がもう逃げないことがわかると、一歩近付き、そっと肩に触れてこちらを向かせる。


    「……それに、嫌なんです」
    「何が?」
    「あなたを疑ってしまう自分が……です」

     どういうことかわからなくて黙ると、高明が言葉を続ける。


    「仕事なのはわかっています。だけど、本当に仕事なのか?なんて思ってしまう自分もいて……あなたが誰とどこで何をしているか、気になって仕方ないんです。信じたいのに、嫌なことばかり考えてしまう。あなたは身を粉にして働いていて、不誠実な人ではないとわかっているのに、こんなことを思ってしまう自分が、愚かで、惨めで……自分の気持ちを制御できなくて、どうすれば良いのかわからない……」

     消えてしまいそうな弱々しい声で話す高明が、本当に自分の前から消えてしまいそうな錯覚を起こす。自分よりも少しだけ背の低い高明が、いつもよりも小さく見えた。見たことのない彼の姿を目にして、思い切り抱き締めたい衝動に駆られるが、今はまだそのときではない気がしてグッと堪える。


     本人に伝えたことはないが、長谷部はいつも、高明の気持ちがわからなくて不安だった。想いをあまり口にしてくれない高明は本当のところ自分のことをどう思っているのかわからなくて、自分の想いや願望を伝えることで繋ぎとめておきたかった。ずっと好きだと、口に出せば叶うのではないかと、呪文のように何度も何度も彼に吹き込んだ。



    「……こんな僕、嫌いになりましたか?」
    「まさか」
    「嫌いにならないでください……愛想尽かさないで……」
    「それは絶対にないから大丈夫」


     初めて聞く高明の弱音に、自分の気持ちをぶつけるだけでなく話を聞いていれば良かったと、後悔が押し寄せる。自分ばかりが好きだと思っていたけれど、彼はこんなにも自分を想っていてくれた。気付いていなかったのは、信じていなかったのは、自分の方だったのかも知れないと、長谷部は思う。
     

     高明自身、長谷部と離れてる間の心の不安定さに戸惑っていた。長谷部のことになると、自分は弱くなる。みっともない自分も、感情をコントロールできないほど恋焦がれる自分も、長谷部に出会ったから知った己の姿だ。
     自分のことを忘れないでほしいと思うのに、長谷部の邪魔にはなりたくないと思う。会いたいと願うことすら許されない気がして、口にすると嫌われてしまう気がして、感情を全て飲み込んだ。願いを伝えると、そのまま零れ落ちて消えてしまうかも知れないと思うと怖くて、物分かりの良い恋人でいることしかできなかった。
     だけど、本当はずっとー……



    「高明くん、俺に会えなくて寂しい?」
    「………寂しい、です。もっと会いたいです」
    「うん。俺も寂しい。一緒だね。嬉しい」


     長谷部が高明の手を取り力を込めると、恐る恐る、高明も同じ力で握り返す。ひんやりと冷たい高明の手が温かくなっていくにつれ、高明の口角も上がっていった。


     その日は何もせず、ただ手を握って、寄り添って眠った。

     翌朝、目が覚めてお互いの姿を確認すると、なぜだが初めて身体を重ねた日のような気恥ずかしさがあり、2人して笑った。



    *



     高明の涙を見たのは、あの日が最初で最後だった。



    「長野に帰ろうと思っています」


     高明の卒業が近くなり、進路について尋ねてもはぐらされるばかりで、決まったら何か言ってくるだろうくらいに考えていた。地元への想いが強いこともわかっていたから、もしかしたら長野に帰るのかも…なんて全く考えなかったと言えば嘘になる。もしそうなったとしても笑って送り出して、関係も続けていける、そういう信頼関係が構築されていると思っていた。だけど、そう思っていたのは長谷部だけで、高明は違っていたのかも知れない。


    「僕たちの関係ですが……」
    「高明くんが遠距離でも良いっていうなら続けよう」

     言い出しにくかったのかも知れないけど、相談くらいしてほしかった。そんな意味を込めて、少し意地悪な言い方をしてしまう。


    「……では、無理なので別れます」


     そうきっぱりと言って、高明は下を向いて動かなくなってしまった。黙ったまま動かない高明に、これは地雷を踏んでしまったかと狼狽える。
     しかし、暫くしてすんと鼻を鳴らす音が聞こえきて、高明が今どんな感情でいるのか察した。これは長谷部の言葉がどうこうというよりも……

     長谷部が一つため息を吐くと、怒っていると思ったのか、高明の肩がピクリと跳ねる。



    「……ねぇ」
    「……」
    「高明くん」
    「……」
    「顔上げてよ」
    「……嫌です」

     言い方を間違えてしまったなと反省するが、それよりも、別れるという自分の言葉に傷付いて静かに涙を流す高明のことがたまらなく愛しくて、隣に移動して肩を抱き寄せた。


    「本当に……可愛いよね、高明くん」
    「可愛くないです」
    「ねぇ、泣かないでよ」
    「………長谷部さんが、あんなふうに言うから……」
    「そうだね、ごめんね」

     様子を見ながら、安心を与えられるように肩や背中を優しくさすってやる。呼吸が落ち着いてきたのがわかると、怖がらせないように声をかけた。


    「どうして今まで黙っていたのか、聞いても良い?」
    「……言ってしまったら、終わってしまう気がして、言えませんでした」
    「うん」
    「離れるなら別れると、あなたに言われるのが怖かった……今自分で口にして、本当にあなたを失うのだと思うと、想像していたよりもずっと、心が痛かった……」
    「……うん」

     だけど、と高明が続ける。

    「……無理だな、という気持ちがあるのも本当で……あなたをこれ以上縛りつけても良いのかと、あなたのことを思うなら別れを選ぶ方が良いのではないかと…何が正解かわからなくなるんです。これまで以上に会えなくなるのに、この関係を続けられるのか、あなたに好きでいてもらえるのか、あなたを好きでい続けられるのか……自信がないんです………」
    「……そうだね。でも、なんでもさ、やってみないとわからないよ。今慌てて結論を出す必要はない。無理だったらそのとき考えよう」

     就職してすぐの頃、高明に会うことができず不満を募らせていたのはどこの誰だと咎められそうだが、今だけは忘れてほしい。


    「それに、案外悪くないかもよ?遠距離恋愛」

     「たまにヤる方が、盛り上がるでしょ?」なんて冗談めかして言うと、ようやく顔を上げてくれた高明に、『あなたって人は…』と声が聞こえてきそうなジトリとした目で睨まれる。ごめんごめん、と頭を撫でていると、次第に高明の表情が柔らかくなり、長谷部の肩に凭れかかってきた。



    「長谷部さん……」
    「ん?」
    「……好きです」
    「うん。俺も好きだよ」
    「だから、別れたくないです。でも、長野に帰ることもやめたくないです。どちらも諦めたくないんです。こんな僕でも、あなたの恋人のままでいても良いですか?」

     こちらを見上げる高明の瞳は揺れていて、まだ不安が残っているのがわかる。上手くはできないけど、何度だってその不安を拭い去ってやりたいと思った。


    「もちろんだよ」



     長谷部が大学を卒業するときに口にした言葉。あのときはただ離したくない一心で、繋ぎ止めておきたくて必死で、大丈夫だと自分自身に言い聞かせるためのものだった。だけど、今なら自信を持って高明に伝えることができる。

     内緒話をするみたいに、耳元で「ずっと好きだよ」と告げると、高明は微笑んで、また少し泣いた。



    *



     宣言通り長野に戻った高明との遠距離恋愛が始まり、もう10年以上経つ。恋はいつしか愛に変わり、燃え上がるような恋愛感情ではなく、一緒にいると落ち着く穏やかな関係になった。

     いつだったか、「あなたのことを諦めなくて良かったです」と言った高明の言葉が忘れられない。
     言葉を間違えて、傷付けてしまう日もあった。それでも、高明は長谷部と歩むことを選んでくれた。長谷部は心から、彼を愛しいと思う。


    「どうかされましたか?」


     本を読んでいる高明のことを見つめていると、視線に気付いた高明が顔を上げる。
     なんでもないよ、と告げると、彼の隣に座り、腰を抱いて身体を寄せた。





    fin.





    ここまで読んでくださってありがとうございました!
    途中何度もこの2人誰!?となりましたし、今でも誰?ってなっています…全て幻覚……
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    usmlk_ii

    MOURNING長谷高
    長野で再会した2人のお話
    ※長谷高が同じ大学の先輩後輩
    ※大学時代と現在
    ※まだ付き合ってない
    ※映画のネタバレ含みます
    ※捏造しかありません

    少しでも楽しんでいただけると幸いです。
    手を繋ぐから始めませんか?*


     長谷部陸夫が諸伏高明と初めて出会ったのは、東都大学のキャンパス内にある図書館だった。人がまばらな時間帯に訪れたそこで、彼を見つけた。

     窓から光が差し込む端の席で、背筋を伸ばし静かに本を読む凛とした姿に、目を奪われた。
     彼の周りだけ輝いていて、時が止まっているのではと錯覚してしまいそうなほど美しく、まるで絵画のようだった。他を寄せつけないその様が、絵になって綺麗だと思った…

     中性的な顔立ちに透き通るような白い肌、綺麗な黒髪と長身だけど線の細い身体。儚げで、触れると消えてしまいそう、それが諸伏高明に抱いた最初の印象だった。

     彼に興味を持った長谷部は、すぐに声をかけた。突然初対面の男に話しかけられ、最初は不審に思われ避けられていたが、毎日彼を探し繰り返し声をかけるうちに、徐々に心を開いて様々なことを話してくれるようになった。彼のことを「高明くん」と呼べば、いきなり下の名前で呼ぶのかと怪訝な顔をされたことを覚えている。
    5854

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