愛が届きますように/きみは、かわいい【中佐の部屋にある少尉が朝飲む野菜ジュース編】
こだわりがあったわけではない。
たまたま手に入りやすく、身体にも良く、習慣にしているだけで、1日くらいなくても死にはしない。
外での仕事の時には、実際買っている時間もないから飲まないし。
その程度のものだ。
ばこん、と音が鳴る。
振り向くと、据付の冷蔵庫から、水を取り出す姿。もう水を片手に持っているのに、まだ何かを取り出そうとしている。
「はい、これ、飲むでしょ」
「……ありがとうございます」
いつからか、彼の部屋に朝までいると、出てくるようになったパックのジュース。まじまじと手の中のそれを見つめる。
マルチビタミン配合、などと書かれていて、やや胡散臭い気もする。毎日飲んでいても、こんなふうにきちんとパッケージを読んだことがなかった。
ストローを外し、包装を剥く。パッケージに挿して、中身を吸い上げた。
「……わざわざ、準備してくれなくてもいいんですよ。どうせ外出するときは飲んでいないし」
「でも、習慣なんでしょ?
巡り巡って、それを飲まなかったから、何かが起きた、なんてこともなきにしもあらずですよ」
「……そんなことあります?」
「あったら嫌でしょう?」
ずご、とほとんど飲み終えたあたりで音が鳴った。
「いい飲みっぷりですね」
「どうも」
こういうとき、この人の愛は、自分にも、多少は向かっているんじゃないか。
追いかけている人のことばかりじゃなくて、僕のことも少しくらいは−−。
そんなことを考えて、いつもくるしい。
***
【少尉の部屋にある中佐が毎朝愛飲している野菜ジュース編】
たまたま体調が整う気がして始めた習慣だった。艦内の食堂用として積まれた商品の一つ。ゆえに、コロニーには違う商品がたくさんあるのだろうし、それを知ってしまえば、揺らぐ程度の選択。
「お水、もらいますね」
勝手知ったる何とやら。返事も待たず、彼の部屋の据付の冷蔵庫を開けた。数本の水、数本の黄色い野菜ジュースのパック。そして。
「……これ、もらっても?」
取り出して、パッケージを見せると、彼はどうぞ、と短く返事した。
彼が毎日飲むのは決まって黄色いパッケージだった。その中に一つだけ、必ず緑のパックが混じって、冷蔵庫には鎮座している。
彼は野菜ジュースならば何でもいい、というタイプではない。だから、一本だけ混じっている緑のパッケージは、本来ここになくてもいいはずのもの。
そうこうしているうちに、彼も気だるげな顔で近寄ってきて、冷蔵庫を開け、いつもの黄色い方を手に取った。
ず、と音を立てながら飲んでいる。
「……わざわざ、私の分まで用意しないでもいいんですよ、自分でなんとか出来ますし」
「でしょうね」
こともなげに返事した。
最近はすっかり可愛くなくなってしまった。互いに慣れた、と言えば聞こえはいいけれど、こういうことを言われた時、拒絶と捉えて、すぐしゅんとしていた姿を思い出す。
「……でも、毎回こうやって準備してあると、愛を感じますね。エグザベくんの」
大きく、ずご、と音がして、それから彼は咳き込んだ。
いい気味。やっぱり可愛いところは可愛いままで、少しホッとする。