腕時計「Scout、今は何時だ?」
亡霊のように気配のない上司というものはどんな職場であれゾッとするものである。それが護衛対象であればなおのこと。
「ドクター、何度も言っているが俺はアンタ専用の一一七サービスじゃない。とうとうその持ってる端末の右上の数字が見えないほど目が悪くなったのか?」
「年寄りだと言わないでくれ、さすがの私だって傷つく言葉くらいはある」
左肩にずい、と顎を乗せながら、出会った頃からまったく変わらぬ相貌の男はじっとこちらの左手首を見下ろしてきた。そこにあるのは高級でも高価でもないただの古ぼけた軍用腕時計で、頑丈さから買い替える機会を失ったまま長らく使い続けていた品だった。
「現在、午後の十七時三十七分四十秒。俺はアンタのコートのどのポケットに懐中時計が入っているのかもおぼえてるんだがね」
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