Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    nbsk_pk

    @nbsk_pk

    @nbsk_pk

    文字を書きます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 87

    nbsk_pk

    ☆quiet follow

    Sco博。料理上手だった人の話。実際そこまで上手というよりは器用にいろいろ作れる人、くらいだったら萌える。

    #Sco博♂

    スプーンひとさじの幸せ「どうして君が作るとこんなに美味しいんだろう」
     同じ缶詰なのに、とぼやくドクターの手元で、年季の入ったステンレスのカップがからりと音を立てた。


     それがほんの短い期間であったとしても、荒野で生き延びるというのは苦難に満ちた行為である。たとえ十分な準備があったとしても、目の前に突如として天災が現れてしまえば何もかもが終わりであるし、そうでなくとも哀れな旅人の身包みを剥ごうと手ぐすね引いている連中など掃いて捨てるほどうろついている。だから、この頑強とは到底いえない元学者である男が荒野を渡るすべを知っているのは非常に奇妙なことだとScoutには思えたのだった。
     荒野に点在する小さな集落への交渉役にみずから名乗りを上げたのはドクターだった。古い知り合いがいるから、というのがその主たる理由で、あまり警戒されたくないのだという言葉に従い護衛は最小限、率いる小隊は近くの渓谷に待機してもらいドクターとScoutだけが数日かけて谷の底の集落へと向かっている。進むスピードこそゆるやかであったものの、ドクターの足取りはしっかりしたもので、むしろ斥候であるScoutの足によくついてきているものだと感心するほどだった。
    「研究者だからね、誰も行かないような場所はむしろ歩き慣れているんだ」
     君のガイドは頼もしい、と続けられたことばに緩んだ頬を見られなくて良かったと、この時ばかりは顔を覆ったスカーフに感謝する。そうして野営に適した場所を見つけた二人は本日は少し早めに準備を整えることにしたのだった。


     何か魔法でも使ったんじゃないかと言わんばかりの疑い深い眼差しに苦笑を返し、Scoutは何も持っていない空の両手を上げる。
    「作るところはアンタだって見てただろ?」
    「ポケットにこっそり道中で摘んだ香草が入ってたりしないか」
    「あのオリジムシの足跡ひとつない道でどうやってハーブを収穫しろっていうんだ」
     ドクターという男は頭が良すぎてときどき発想が巫王の玉座よりも高いところに飛んで行ってしまうことがある。なおも疑い深い眼差しがポケットを覗き込んでくるのを自由にさせながら、Scoutは自分の皿によそったスープをスプーンですくう。栄養価はそれなり、腹持ちはそこそこというこの缶詰は、糧食としてはギリギリ当たりの範囲にある。物心ついたころから食べているためもはや食べ慣れたという言葉で表現することすら憚られるそれは、テラ全土で広く流通している豆と肉の煮込み缶である。申し訳程度に野菜の切れ端も入っているし、味付けもシンプルで癖がないため何も考えたくない日の食事には最適だが、正直感動するほど旨いものでもない。誰が料理――などとたいそうな表現を使うほどでもなく単に温めただけにすぎないのだが――したところで味など変わるはずがない代物なのだが、しかしドクターには大いなる疑念が生じてしまったらしい。
     スプーンでひとさじ口に含んでは、ああでもないこうでもないと首をかしげている。この優秀な頭脳を独り占めしてしまっているようで、正直尻の座りが悪い。合成肉の破片を噛み切ろうと口を開けた際にのぞいた舌が焚火を映してやけに赤く見え、Scoutはできるだけすみやかに脳内からその画像を消そうと努力した。
    「とはいってもなあ、ドクターはいつもどうやってこれ作ってるんだ?」
    「どうって、蓋開けて火にかけるだけだが」
    「あー……それだ」
     なるほど、多忙な彼らしい作り方である。Scoutは足元の空になった缶を取り上げ、軽く底を叩いて見せた。
    「底に豆がたまってるから、温めるときにしっかりかき混ぜてやったほうがいい。でないと味のムラがな、アンタだってわかるだろ」
    「だいたい先に味付きの豆だけ食べてしまって、あとで味の薄いスープを惨めにすする羽目になる。そんなものだと思っていたが」
    「混ぜるときに豆をつぶしながらやるとな、いい感じになる。焦げやすくなるから水をちょっと足しながら根気よく混ぜるんだ」
     なるほど、と何度も頷いたドクターは、しきりに感心しながら自分の皿を眺めている。
    「飽きるほど食べてきたと思っていたが、まだまだ発見はあるものだな。勉強になった」
    「そんなたいそうなもんじゃないだろ」
    「いいや、大発見だ」
    「偉そうにご高説を垂れてはみたが、俺も別のやつからの受け売りだからな。料理上手なやつはもっと上手くやる方法を編み出してるだろうよ」
    「平和になったらコンテストでもやってみるか。優勝者には缶詰一年分で」
    「そりゃただの在庫処分を押し付けてるだけだろう」



    「ドクターって変わった作り方をなさるんですね」
    「うん? これって普通じゃないのか」
     アーミヤの指摘に目をぱちくりと見開いたドクターは、火にかけていた缶を見下ろす。何の変哲もない肉と豆の煮込みには、見慣れた食品メーカーのロゴが躍っている。何度かパッケージデザインが変わったのだというそれは、今回のような小規模な出張任務においては頼れる味方だった。なにせ温めるだけで食べられるので、調理技能が壊滅的なドクターであったとしても――これについては記憶喪失を言い訳にしようとしたところ、以前からだったと皆が口を揃えて言い切ったのでもう諦めるしかないのだろう――食事にありつける、インスタントヌードルに並んでドクターの信頼厚い一品である。
    「身体がおぼえていたっていうか、ずっとこうやって作るものだと思ってたんだけど」
    「具を潰してしまうんですね」
    「見た目はあんまりよろしくはないね」
    「えっと、消化には良さそうですから、今のドクターには最適な食べ方かと!」
     かわいい愛娘に言葉を選ばせてしまった。なんてこと。だがよく考えてみればこんなもの、火にさえかければ食べられるのだからこんな手間をかける理由がない。少なくともドクターには思い当たる節がない。今のドクターには。
    「でもね、こっちのほうが美味しいんだよ」
    「そうなんですか?」
    「あっ信じてないね、豆の塩気と風味がスープに溶け込んで食べやすくなるんだって教えて、もらって……」
     誰に。一体誰に。ぽかりと空いた虚ろはいつだって唐突にその不在をドクターに突き付ける。教えてもらったということはわかるのに、それが誰なのかは思い出せない。そこにいたはずなのに、食に関心が薄いドクターが習慣に取り入れるほどの近さで教えてくれた誰かがいたはずなのに。ぱちんと閉じた瞼の裏で、誰のものかわからない無骨な指先が握ったスプーンが缶の中身をかき混ぜている。丹念に丁寧に、まるで大切な人にふるまうためであるかのように。
    「ドクター?」
    「ああ、うん」
     心配そうなアーミヤにぎこちない笑顔しか返せないなんて一体今日の自分はどうしてしまったのだろう。かぶりを振って無理やりに気分を切り替え、ため息の中にそっと幸福を逃がしながらドクターは言った。

    「きっと誰か、料理上手な人に教えてもらったんだろうね」

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭🙏🙏💖🙏😭😭😭😭😭😭🙏🙏🙏🙏😭😭😭😭😭😭😭😭😭💞😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    nbsk_pk

    DOODLE岳博ギャグ、自分のもちもちロングぬいぐるみに嫉妬する重岳さんの話。博さんずっと寝てます。絶対もちもちロングおにい抱き枕寝心地最高なんだよな…
    180センチのライバル 重岳は破顔した。必ず、この眼前の愛おしいつがいを抱きしめてやらねばならぬと決意した。重岳は人という生き物が好きだ。重岳は武人である。拳を鍛え、千年もの年月を人の中で過ごしてきた。けれども、おのれのつがいが重岳を模したもちもちロングぬいぐるみを抱きかかえて、すやすやと寝台の上で丸くなっていることについては人一倍に敏感であった。


    「失礼、ドクターはどちらに」
    「ドクターでしたら、仮眠をとると私室へ」
     あと一時間くらいでお戻りになると思いますが、と教えてくれた事務オペレーターに礼を伝え、重岳はくるりと踵を返した。向かう先はもちろん、先ほど教えてもらった通り、ドクターの私室である。
     この一か月ばかり、重岳とドクターはすれ違いの生活が続いていた。ドクターが出張から戻ってきたかと思えば重岳が艦外訓練へと発ち、短い訓練ののちに帰艦すれば今度はドクターが緊急の呼び出しですでに艦を離れた後という始末で、顔を見ることはおろか声を聞くことすら難しかったここ最近の状況に、流石の重岳であっても堪えるものがあったのだ。いや流石のなどと見栄を張ったところで虚しいだけだろう、なにせ二人は恋仲になってまだ幾ばくも無い、出来立てほやほやのカップルであったので。
    2835

    nbsk_pk

    DOODLE岳博、いちゃいちゃギャグ。寒い日に一緒に寝る姿勢の話。岳さんが拗ねてるのは半分本気で半分はやりとりを楽しんでいる。恋に浮かれている長命種かわいいね!うちの博さんは岳さんの例の顔に弱い。
    「貴公もまた……」
     などと重岳に例の表情で言われて動揺しない人間はまずいないだろう。たとえそれが、冬になって寒くなってきたから寝ているときに尻尾を抱きしめてくれないと拗ねているだけであったとしても。


     彼と私が寝台をともにし始めてから季節が三つほど巡った。彼と初めて枕を交わしたのはまだ春の雷光が尾を引く暗い夜のことで、翌朝いつものように鍛錬に向かおうとする背中に赤い跡を見つけ慌てたことをまだおぼえている。それからほどなくして私の部屋には彼のための夜着がまず置かれ、タオルに歯ブラシにひとつまたひとつと互いの部屋に私物が増えていき、そして重ねる肌にじっとりと汗がにじむような暑さをおぼえる頃には、私たちはすっかりとひとかたまりになって眠るようになったのだった。彼の鱗に覆われた尾にまだ情欲の残る肌を押し当てるとひんやりと優しく熱を奪ってくれて、それがたいそう心地よかったものだからついついあの大きな尾を抱き寄せて眠る癖がついてしまった。ロドスの居住区画は空調完備ではあるが、荒野の暑さ寒さというのは容易にこの陸上艦の鋼鉄の壁を貫通してくる。ようやく一の月が眠そうに頭をもたげ、月見に程よい高さにのぼるようになってきた頃、私は名残惜しくもあのすばらしいひんやりと涼しげな尾を手放して使い古した毛布を手繰り寄せることにしたのだった。だが。
    2030

    related works

    nbsk_pk

    DOODLESco博、成り行きで衆人環視の中でキスする話。
    「…というわけで私と彼の初キスはコーヒーとドーナツの味だったんだ」「キャー!!その話詳しく!!」(背後で盛大にビールを噴くSc)
    キスの日記念日「本日は『キスの日』ですので、スタッフの前でキスをしていただきますとペア入場券が半額になりまーす」
    「は?」
     びしりと固まったScoutの視界の端で、形の良い頭がなるほど、と小さく頷いたのが見えた。


     どうしてそんな事態に陥っているのかと呆れられたところでScoutに言えることはひとつしかない。ドクターに聞いてくれ、である。次の会合場所の下見のためにドクターとScoutがクルビアのとある移動都市に到着したのは昨日のことだった。しかし入管でのトラブルのためにドクターが持ち前の頭脳と弁舌と少しどころではない金銭を消費した結果、『些細な記載ミス』は無事に何事もなく解決し、しかし二人が街に放り出されたのは既にたっぷりと日も暮れた頃だったのである。ずいぶんと軽くなってしまった懐を抱えながらもかろうじて取り戻せた荷物を抱えて宿へとたどり着けたときには、あのドクターですら口を開くのも億劫といった始末であったので、定時連絡だけを済ませてこの日は二人とも早々にベッドの住人となることにした。そして翌朝、道端のスタンドで買ったドーナツとコーヒーを片手に地図を広げて予定を組み直していたドクターは、食べきれなかったドーナツの半分を(この時点でScoutは二つ目をすっかり平らげ終えていたというのに!)Scoutのスカーフに覆われていない口元に押し付けながら、まずはあの展望台に行こうと言ってこの都市のどこからでも見える高い塔を指さしたのであった。
    2725

    nbsk_pk

    DOODLESco博。料理上手だった人の話。実際そこまで上手というよりは器用にいろいろ作れる人、くらいだったら萌える。
    スプーンひとさじの幸せ「どうして君が作るとこんなに美味しいんだろう」
     同じ缶詰なのに、とぼやくドクターの手元で、年季の入ったステンレスのカップがからりと音を立てた。


     それがほんの短い期間であったとしても、荒野で生き延びるというのは苦難に満ちた行為である。たとえ十分な準備があったとしても、目の前に突如として天災が現れてしまえば何もかもが終わりであるし、そうでなくとも哀れな旅人の身包みを剥ごうと手ぐすね引いている連中など掃いて捨てるほどうろついている。だから、この頑強とは到底いえない元学者である男が荒野を渡るすべを知っているのは非常に奇妙なことだとScoutには思えたのだった。
     荒野に点在する小さな集落への交渉役にみずから名乗りを上げたのはドクターだった。古い知り合いがいるから、というのがその主たる理由で、あまり警戒されたくないのだという言葉に従い護衛は最小限、率いる小隊は近くの渓谷に待機してもらいドクターとScoutだけが数日かけて谷の底の集落へと向かっている。進むスピードこそゆるやかであったものの、ドクターの足取りはしっかりしたもので、むしろ斥候であるScoutの足によくついてきているものだと感心するほどだった。
    2854