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    @t_utumiiiii

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    @t_utumiiiii

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    ※謎時空探偵パロ(1990年代を想定)
    Mr.ミステリーが男やもめのレオ・ベイカーの依頼を受けて失踪した娘の行方を探す二次妄想です(還…パロ)
    レオ・ベイカーが“羊飼い”の助けを借り、娘を助けに行く回です。

    🔥🔥 信徒が祈りを捧げるスペースよりも奥にあり、供えられた蝋燭の灯りによってようやく周囲の輪郭が知れるほど暗い祭壇を前に、痩せた背中を丸め、暗い部屋でいっそう黒々とした祭服で膝を折って、真摯に祈る格好を取っていた“羊飼い”は、確かに何かを聞き取ったような確信に満ちた横顔をあげると、先刻までの堂に入った祈りのポーズを、あからさまに俗っぽく崩しながら立ち上がる。
    「主に、お伺いを立てた……」
     “羊飼い”が跪く祭壇を前に、信徒は床に座して待つことになっている。見事な体格を縮こめるように床に座るレオを、彼と比べれば惨めといっても差し支えない程に痩せ細った体躯の“羊飼い”は、冷徹に見える程無関心な様子で見下ろしながら続けた。
    「これは、い、因果だ。因果応報の、報い、報いだな」
     “羊飼い”の祈祷が終わったことを察し、痺れた膝を抱えながら立ち上がりかけているレオを顧みず、“羊飼い”はすたすた歩いて祭壇の部屋から出ると、その出入口に置かれている待機用のベンチに腰を下ろし、膝の上に自分の片足首を載せるだらしのない座り方をしながら、やれやれと言わんばかりに、タバコに火を点け出した。

    「あんた、娘を蔑ろにしたろ?」
     そこで平然と続く“羊飼い”のその言葉に、出し抜けに頬を張られたような心地になったレオが初めて顔色を変えたのをみると、“羊飼い”は警戒するように首を竦め、自分の細やかな顎髭を落ち着かなげに手で擦りながら、「じっ、自分でもさ、か、考えてみろよ……」と、見るからに居心地の悪そうに言った。
    「あんた、娘さんの前で、一度も怒鳴り合いをしなかったてさ、誓えるか? 違う部屋に居たっていうのは、言い訳にならねえぞ。大の大人が怒鳴ってりゃ、よっぽどでかい家でもなけりゃ、い、嫌でも、嫌でも聞こえるもんだ。それで、妻に出ていかれたと。その女が子供に、どんなことを吹き込んだかもわからんが、あんた女はそれっきりで、新しいのも見繕ってないんだろ? それで、ベイカーさん。あんたは仕事に掛かりきり、あんたんとこのガキは……娘さんは、日中家に一人ってことだ。そういや、ここんとこ見てねえな。ここに連れ出して来られないぐらい、体調が、悪い。どうだい?」
     そのようにつらつらと言葉を続けていた“羊飼いは、”伏せた顔を上げないレオを見やり、それから、勝ち誇るようにふんと鼻を鳴らし、得意げに顎を上げていた。しかし、床の一点をじっと見つめているレオの目に、その俗っぽい仕草は入らなかった。

     駆け落ちをして家を捨てたあの女が、やたらに工場の経営に――男の領分に口を出すことに腹が立ったのは、そうだ。女が仕事のことに口を出すなんて、あるべきことではない。だから、そのたびに叱り付けた。あの女がそういうつまらないことを言うのは、いつだって家でのことだった。あの女がいるのは家だから。あの女が俺の家にいるのは、あの女はその時、俺の妻だったからだ。
     だというのに、何かと理由をつけて家を空け、家のことを――女の仕事を、ただでさえ蔑ろにしながら、俺の仕事に文句をつけるのか。他所で仕事の真似事なんかして、みっともないと思わないのか。娘を一人にして、可哀想だとは思わないのか。
     あの女は「そうは思わなかった」から、俺たちを、家族を捨てたんだろう。あとに残ったのは借金だ。それから俺は何をした? 出来る限り、何も考えないように……まるで機を見計らったかのように破綻した工場の経営を、家族を捨てた女のことを、荒れるに任せられた家を、(それで、リサはどこに行ったのか?)

    「何、ベイカーさん。そう、そうな、落ち込むんじゃない。大丈夫だ。そうだろ?」
     今や通路の床に額づいて呆然としているレオの肩を、“羊飼い”の、節が浮くような手が叩いた。
    「私がついている。私は、ハハ、自分で言うのも、まあ何だが、“本物”だよ……」
     貧相な顎髭を擦りながら、“羊飼い”は得意げというには卑屈な笑い声をひっ、ひひひひ、という具合に漏らしていたが、続く言葉には含み笑いもせず、妙な真面目臭さのある調子で、淀みなく言った。
    「心を込めて願えば、願いは必ず叶う」
     それが、この男の生業である。迷えるものを導く、真の預言者にして本物の祈祷師、ホワイトサンドの“羊飼い”。ベンチに座っていたその男は、まるで持っていた重い荷を下ろすように溜息を吐いたついでに煙草の白い煙を吹くと、座っていたベンチの裏で煙草の火をもみ消してから、吸い殻を慣れた手つきで、袖に隠しながら立ち上がる。
     そして、相変わらずがっくりと項垂れているレオの前に立った“羊飼い”は、元より光の入らない地下に造られた礼拝堂、過剰な光背を背負った羊頭の受難像を掲げる装飾過多な祭壇を背に、レオを見下ろして笑った。
    「それで、願い事は決まったか?」
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    Replies from the creator

    @t_utumiiiii

    DOODLE弁護士の衣装が出ない話(探偵と弁護士) ※荘園設定に対する好き勝手な捏造
    No hatred, no emotion, no frolic, nothing.(探偵と弁護士) 行方不明となった依頼人の娘を探すため、その痕跡を追って――また、ある日を境にそれ以前の記憶を失った探偵が、過去に小説家として活動する際用いていたらしいペンネーム宛に届いた招待状に誘われたこともあり――その荘園へと到達したきり、フロアから出られなくなってしまった探偵は、どこからが夢境なのか境の判然としないままに、腹も空かず、眠気もなく、催しもしない、長い長い時間を、過去の参加者の日記――書き手によって言い分や場面の描写に食い違いがあり、それを単純に並べたところで、真実というひとつの一枚絵を描けるようには、到底思えないが――を、眺めるように読み進めている内に知った一人の先駆者の存在、つまり、ここで行われていた「ゲーム」が全て終わったあと、廃墟と化したこの荘園に残されたアイデンティティの痕跡からインスピレーションを得たと思われる芸術家(荘園の中に残されたサインによると、その名は「アーノルド・クレイバーグ」)に倣って、彼はいつしか、自らの内なるインスピレーションを捉え、それを発散させることに熱中し始めた(あまり現実的ではない時間感覚に陥っているだけに留まらず、悪魔的な事故のような偶然によって倒れた扉の向こうの板か何かによって、物理的にここに閉じ込められてもいる彼には最早、自分の内側に向かって手がかりを探ることしかできないという、かなり現実的な都合もそこにはあった。)。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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