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    @t_utumiiiii

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    @t_utumiiiii

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    リッパーとヘレナアダムスのお茶会 リッパーがヘレナアダムスのことを獲物認知してるので狭義のリパヘレです ※日記のないキャラの言動を捏造 ※実装されたハンター・サバイバーが荘園で生活をしており、試合外でハンターとサバイバーの交流もある程度ある荘園設定

    mouseion(リパヘレ) 午前中は降り続けていた小雨が午後になってあがり、窓の外からは明るい日差しの差し込む程の穏やかな天気になったことを、ヘレナは雨音がなくなった代わりに鳥の飛び立つ音が聞こえてきたことや、室温が僅かに暖かくなったことから知る。それと同じように、盲目のヘレナは「見ればわかること」を感じ取ることができない分、他人の纏う気配や臭いというものから多くを読み取ることができた。
     彼女は、失った視界の代わりに聞き取る音の反響を起こす白杖を脇に置いているときも、聞こえてくる足音や近づいてくるそれが纏う気配、そのにおいによって、誰がどこから近づいてきているか程度のことは、話しかけられるよりも先に、難なく察することができる。しかし、自らも文学者を志す読書家でもある彼女は、指先で文字をたどりながら本の内容に熱中しているとき、晴眼者と同じように、常に周囲に向けている意識というものが、疎かになることもある――今は「その時」だった。
     “最後の試合”が終わるまで荘園の敷地内に留められている招待客(サバイバー)が生活する屋敷の中、共用部として開かれ、一般的な図書館のように扱われている書斎室で黙々と本を読んでいたヘレナは、「ミス・アダムス」と声をかけられて初めて、自分の心臓がいつになく冷えており、さながら試合時のように強く脈打っていることに気がついた。
    「やっとお気付きですか?」
     わざとらしく呆れているような声は、背後から降ってくる。おそらく、彼女が腰掛けている椅子の背もたれに手を付きながら、こちらを見下ろしているのだろう。両手を本に向けていた彼女の手に、もちろん杖はない。しかし、常にどこか愉しげに歌うような気配のあるその声色と纏う雰囲気から、それが誰であるかはすぐに知れた。
    「リッパーさんですね」
     相手が誰であるかを知りながらも念のため、晴眼者であれば「見ればわかる」ことを口に出して反復するのは、ヘレナにとって最早特別な意味がある行為ではなく、単なる作業である。
    「ええそうですよ、ミス・ヘレナ」
     対するリッパーの返答には、言葉遊びに応じているかのような含み笑いが混ざっていた。
    「貴女に協力して頂きたいことがありまして、お願いできますか?」
     この章を読み終わるまで待って欲しいというのが、ヘレナの本音ではある。しかし、そもそも推奨されない行為である(らしい。サバイバーには知る由もないが、その手の縛りはハンター相手にも設けられているらしく、故に生真面目な気質があるハンターは、基本的にサバイバーの暮らす居館には寄り付かない。)サバイバーの生活範囲に立ち入った上、彼女を指名するこのハンターにそれが通用しないことを、ヘレナは既に知っていた。もしもここで少し待ってくれるように頼んだところで、リッパーは「それでは」などと言いつつ、それこそ試合の場と同じように慣れた手付きで、速やかにヘレナの首を掴みあげると、そのまま彼女を横抱きにして、鼻歌交じりに連れて行くだけだろう。
    「わかりました……」
     ヘレナが内心では多少不満に思いながらも探り当てた栞をページの間にはさみ、本を閉じたのを見て取ると、リッパーは満足げな溜息めいた声を漏らしながら「さあどうぞ」と続け、エスコートをしたがるように、銀色のアマルガム――通常衣装であれば、五指の代わりに刃を垂らす、異常に肥大した左手にあたる部分――を差し伸べる。
     色はわからないながらも兎角どろどろとしており、「人の手」とはとても言い難い、どちらかというと触手めいているそれを差し出されたことを察したヘレナは、一瞬迷ってから、仕方なくその柔らかな触手の上に、遠慮がちに自分の手を載せ、流体の中に取り込まれるような異質な感触に、つい上げかけた小さな悲鳴を押し殺す。
     ヘレナはどちらかというと頑固で、あらゆる物事に対し何かと自分の流儀を通したがる性質だが、このハンターの前では、自らの頑固さを意識的に抑えるように努めていた。
     自ら客人を選び招きながら、客人相手に奇妙な流儀を強いるこのハンターは、ヘレナがそれとなく自我を通そうとすると、矢張り試合の場と同じように速やかに、彼女の細い首筋に文字通り手をかけると、横抱きにして連れて行くことを知っているからだ。

     ヘレナの感覚を通して視えるリッパーが纏う気配やにおいは、例えるならば、微かに湿った霧と都市のスモッグが混ざり合って冷え冷えとした夜の大気と、その裡に隠し難い、誰か、哀れな犠牲者による流血の気配。こうして試合外で顔を合わせるときはそれらに加えて、意外にも、焼き菓子や砂糖のにおいを纏っていることが多い。
     いつだったか、荘園の主からヘレナ宛に、「甘いケーキ」と題された衣装――それは、ある結婚式における花嫁の失踪を題に取った作品から着想を得たものらしい。荘園主はそうやってあるストーリーに基づいた衣装を作っては、適当な「配役」をあてがわれた客人に宛てて衣装を贈ることが度々あった――が贈られたのと同時期に、「パティシエ」という名を冠する衣装を贈られていた彼は、それ以来(あくまでヘレナが聞くところによると)料理を趣味の一つとしているらしく、よくお菓子を「作りすぎ」てしまうらしい。ただでさえ気まぐれな者の多いハンター陣営の内で分け合うのにも限度がある。とりわけ甘いものを好んでいるヘレナは時々リッパーから「お願い」されて、彼が余らせてしまったと言うお菓子のご相伴に預かっていた

     シロップをたっぷり吸ったシフォンケーキを、リッパーは慣れた手付きで――まだ辛うじて人らしい形を保っている方の手に持った小型のナイフで、型から網の上に取り出しながら、「詩作の方は順調ですか」と、何気ない態度でヘレナに問いかける。
    「はい、お陰様で……」
     微笑みと言うには思うところがありつつも、苦笑いというには強張りなく笑いながら返したヘレナはこのところ小品集の作成に励んでおり、日々時間を作って詩作や自己添削に励んでいた。
     時折詩作の筆が乗ると、彼女は読書をするときと同じように時間を忘れて手を動かすことに没頭するのだが、その集中は必ず、きまって夜半を過ぎる頃に一度、ノックの音とともに途切れていた。
     出し抜けに没頭から引き戻された彼女が、水遊びをしたあとのような気だるさを覚えながら、着ている寝間着の上に野暮ったいが実用的な上着を羽織りつつ不用心にもドアを開けると、そこには誰もいない。そこには夜中の来訪者の代わりに、どこから融通してきたのか小さめのワゴンと銀製の盆、その上に載せられたマグカップに注がれた暖かなココアとマシュマロ、時に、蜂蜜入りのホットミルクとジンジャークッキー等、ちょっとした夜食のようにして、甘味が置かれているのだった。
     当初、ヘレナはそれを警戒して手を付けなかったのだが、翌日の試合で遭遇したリッパーがロケットチェアに座らされたヘレナを相手に『昨晩には召し上がって頂けませんでしたので……自信作だったんですけどねぇ』と、至極慇懃に、心なしか傷付いたような様子で、しかし、やはりどうにも愉しんでいるように続けながらも乱暴な手付きで、彼女の口の端を指先、もとい、五指の代わりに、件のハンターの異形の手にぶら下がっている獲物であるナイフの切っ先で切り付けてまで、無理やりに乾いたショートブレッドを押し込んできた。それ以来、ヘレナは真夜中に饗された夜食を、大人しく口に入れることにしている――後の面倒がないように。

     ハンターからの度々の、それも、彼女の都合をあまり考慮しているとは言えない誘いや親切ごかした行為は厄介ごとのひとつではあったが、ヘレナが甘いものを好んでいるのも事実だった。この荘園では「最後の」試合が終わるまで、誰一人としてここから出ることはできないし、ハンターが試合の規定外でサバイバーに危害を加えることは、基本的に禁止されている。ヘレナの口に無理やりショートブレッドを含ませた行為も「危害」にカウントされたらしく、試合後速やかにリッパーに対する「ペナルティ」が課されたらしい。
     このように、ヘレナは客人として時折構われ、何かと奇妙な水準を要求されながらも、大してリッパーを危険視しているわけでもなかった。彼が何かと気まぐれの多いハンターだということはヘレナも知っていたし、それがハンターの中でも「狩り」を好む危険な性質を持っていることも知っていた。しかし、この荘園にいる以上、誰もここから逃れられない。ほんとうの意味で死ぬこともない。大きく切り分けられ、生クリームをたっぷり掛けられた見事なシフォンケーキを差し出されたヘレナは特段警戒もせず、渡されたフォークを手探りに掴むと、甘い匂いのするそれを切り崩して口に運ぶ。糖蜜の風味が口の中にぷんと広がり、ヘレナは思わず笑みをこぼした。
    「おいしいです!」
     こればかりは屈託なく年相応に笑うヘレナに、平生より仮面を被っているリッパーは「それは良かった!」と、さも喜ぶように返しつつ、笑い返す顔を持たないながら、愉快がっているような声と身振りとともに、手――銀のテンタクルと称されたこの衣装を着ている限りにおいては、銀と黒の混ざった色をしたアマルガム――を伸ばすと、咀嚼のたびにもちもちと動く彼女の丸い頬を、水銀めいて柔らかな表面で器用に抓む。
    「遠慮なさらずに、沢山召し上がってくださいね」
     その方が裂き甲斐がある、とまでは言わない。
     見目は野暮ったく取り立てて花のない、しかし、自分に才があると信じ、事実として才を持ち、自らに備わった才を理解し、ある種誇りにしている女というものは、一通りの芸術に関する教育を受け、素材にはこだわりのある彼の「作品づくり」にあたって重要な素材となりうる存在であり、芸術家にとって傅くに値するミューズそのものでもある。
     彼の芸術に重要な要素は、所謂「女の華」と言われる美しい容姿などにはない。そんなもの引き裂いてしまえばなんだって同じだ。彼にとって重要なものは内面であり、そして質量であった。つまり、逆境の中ですら鼻につくようにプンとにおい立つ女の才と、それに鼻に掛け自らに自信を持った芯の強い眼差し、そして何より女を女たらしめる、柔らかな肉の感触だ。肉は多ければ多いほど良い。その方が、「お楽しみ」の時間が延びる。いつか、この娘が今少し丸くなった暁には、全盲という途方もない弊害を乗り越え、高等教育を望むほどの才を磨き上げ、結晶させたこの女の“作品”の上で、その肚を切り裂きぶち撒ける、最良の瞬間のため!
    「でも、あまり食べると、太ってしまいますから……」
     彼の愉しい空想を遮るように縮こまり、ばつの悪そうに続けられるヘレナの言葉に、リッパーは呆れからフンと鼻を鳴らすような音を立てながら「何を寝惚けたことを仰いますか」と、これもまたどこか大袈裟に芝居がかった、そして、少しばかり非難するような調子で、からかうように返した。
    「風船ごときで吊り下げられるような細っこい身体なんですから、気にするまでもないでしょう?」

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    Replies from the creator

    @t_utumiiiii

    DOODLE公共マップ泥庭

    ※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定
    一曲分(泥庭) 大勢の招待客(サバイバー)を招待し、顔も見せずに長らく荘園に閉じ込めている張本人であるのだが、その荘園主の計らいとして時折門戸を開く公共マップと言う場所は、所謂試合のためのマップを流用した娯楽用のマップであり、そのマップの中にもハンターは現れるが、それらと遭遇したところで、普段の試合のように、氷でできた手で心臓をきつく握られるような不愉快な緊張が走ることもないし、向こうは向こうで、例のような攻撃を加えてくることはない。
     日々試合の再現と荘園との往復ばかりで、およそ気晴らしらしいものに飢えているサバイバーは、思い思いにそのマップを利用していた――期間中頻繁に繰り出して、支度されている様々な娯楽を熱狂的に楽しむものもいれば、電飾で彩られたそれを一頻り見回してから、もう十分とそれきり全く足を運ばないものもいる。荘園に囚われたサバイバーの一人であるピアソンは、公共マップの利用に伴うタスク報酬と、そこで提供される無料の飲食を目当てに時折足を運ぶ程度だった。無論気が向けば、そのマップで提供される他の娯楽に興じることもあったが、公共マップ内に設けられた大きな目玉の一つであるダンスホールに、彼が敢えて足を踏み入れることは殆どなかった。当然二人一組になって踊る社交ダンスのエリアは、二人一組でなければ立ち入ることもできないからである。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定

    マーサが香水使ってたらエブリンさん超怒りそう みたいな
    嫌いなもの:全ての香水の匂い(広義のウィラマサでエブマサ) チェス盤から逃れることを望んだ駒であった彼女は、空を飛び立つことを夢見た鷹の姿に身を包んでこの荘園を訪れ、その結果、煉獄のようなこの荘園に囚われることとなった。そこにあったのは、天国というにはあまりに苦痛が多く、しかし地獄というにはどうにも生ぬるい生活の繰り返しである。命を懸けた試合の末に絶命しようとも、次の瞬間には、荘園に用意された、自分の部屋の中に戻される――繰り返される試合の再現、訪れ続ける招待客(サバイバー)、未だに姿を見せない荘園主、荘園主からの通知を時折伝えに来る仮面の〝女〟(ナイチンゲールと名乗る〝それ〟は、一見して、特に上半身は女性の形を取ってはいるものの、鳥籠を模したスカートの骨組みの下には猛禽類の脚があり、常に嘴の付いた仮面で顔を隠している。招待客の殆どは、彼女のそれを「悪趣味な仮装」だと思って真剣に見ていなかったが、彼女には、それがメイクの類等ではないことがわかっていた。)――彼女はその内に、現状について生真面目に考えることを止め、考え方を変えることにした。考えてみれば、この荘園に囚われていることで、少なくとも、あのチェス盤の上から逃げおおせることには成功している。
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    @t_utumiiiii

    DOODLEクリスマスシーズンだけど寮に残ってる傭兵とオフェンスの象牙衣装学パロ二次妄想ですが、デモリー学院イベントの設定に準じたものではないです。
    the Holdover's Party(傭兵とオフェンス ※学パロ) 冬休み期間を迎えた学園構内は火が消えたように静かで、小鳥が枝から飛び立つ時のささやかな羽ばたきが、窓の外からその木が見える寮の自室で、所持品の整理をしている――大事に持っている小刀で、丁寧に鉛筆を削って揃えていた。彼はあまり真面目に授業に出る性質ではなく、これらの尖った鉛筆はもっぱら、不良生徒に絡まれた時の飛び道具として活用される――ナワーブの耳にも、はっきりと聞こえてくる程だった。この時期になると、クリスマスや年越しの期間を家族と過ごすために、ほとんどの生徒が各々荷物をまとめて、学園から引き払う。普段は外泊のために届け出が必要な寮も、逆に「寮に残るための申請」を提出する必要がある。
     それほどまでに人数が減り、時に耳鳴りがするほど静まり返っている構内に対して、ナワーブはこれといった感慨を持たなかった――「帝国版図を広く視野に入れた学生を育成するため」というお題目から、毎年ごく少数入学を許可される「保護国からの留学生」である彼には、故郷に戻るための軍資金がなかった。それはナワーブにとっての悲劇でも何でもない。ありふれた事実としての貧乏である。それに、この時期にありがちな孤独というのも、彼にとっては大した問題でもなかった。毎年彼の先輩や、或いは優秀であった同輩、後輩といった留学生が、ここの“風潮”に押し潰され、ある時は素行の悪い生徒に搾取されるなどして、ひとり一人、廃人のようにされて戻されてくる様を目の当たりにしていた彼は、自分が「留学生」の枠としてこの学園に送り込まれることを知ったとき、ここでの「学友」と一定の距離を置くことを、戒律として己に課していたからだ。あらゆる人付き合いをフードを被ってやり過ごしていた彼にとって、学園での孤独はすっかり慣れっこだった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE象牙衣装泥庭二人とも怪我してるみたいで可愛いね🎶という趣旨の象牙衣装学パロ二次妄想(デモリー学院イベントの設定ではない)です
    可哀想な人(泥庭医 ※学パロ) 施設育ちのピアソンが、少なくとも両親の揃った中流階級以上の生徒が多いその学園に入学することになった経緯は、ある種“お恵み”のようなものであった。
     そこには施設へ多額の寄付したとある富豪の意向があり、また、学園側にもその富豪の意向と、「生徒たちの社会学習と寛容さを養う機会として」(露悪的な言い方になるが、要はひとつの「社会的な教材」として)という題目があり、かくして国内でも有数の貧困問題地区に位置するバイシャストリートの孤児院から、何人かの孤児の身柄を「特別給費生」として学園に預けることになったのだ。
     当然、そこには選抜が必須であり、学園側からの要求は「幼児教育の場ではない」のでつまりはハイティーン、少なくとも10代の、ある程度は文章を読み書きできるもの(学園には「アルファベットから教える余裕はない」のだ)であり、その時点で相当対象者が絞れてしまった――自活できる年齢になると、設備の悪い孤児院に子供がわざわざ留まる理由もない。彼らは勝手に出ていくか、そうでなければ大人に目をつけられ、誘惑ないしだまし討ちのようにして屋根の下から連れ出されるものだ。あとに残るのは自分の下の世話もおぼつかないウスノロか、自分の名前のスペルだけようやっと覚えた子供ばかり――兎も角、そういうわけでそもそも数少ない対象者の中で、学園側が課した小論文試験を通ったものの内の一人がピアソンだった。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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