ちゅ いち 【フェヒュ】 ちゅっと音がした。サァサァとも音がする。
吐息が絡むと喉の奥で声が鳴った。
雨ではない。温かなこれはシャワーである。
ヒューベルトは顔に降り注ぐ雫で目を開けられずにいた。
浴槽内で背後から抱き込まれ、首と胸を後ろに捻った状態は案外と苦しい。
だが合わさった唇を解く気にはなれず、懸命に顔を伝って降りる雫ごと相手の唇を吸った。
唇がふやける経験はしたことはないが、今はそれに近いかもしれない。
深く交わると離れたくないのか己の唇が吸い付いたまま追いかけてしまった。
シャワーが止められると、顔に降りた前髪を丁寧な指先で拭われる。
目を開けようとすると瞼の上と目尻に溜まる水滴を、熱く弾力のある唇がぬぐっていく。
「好きだ」
自分もだと返そうとする言葉は取り上げられた。
声の代わりに響くのは掠れた吐息音で、それに己の喘ぎ声が混じれば羞恥心が募る。
先程までは、サァサァと音があったが。
どうにか浅い呼吸を繰り返して薄目を開けると、視界が滲んでいた。
瞬きで目尻から余分な雫を零し、もう一度開くが、直ぐに快楽による熱い雫で滲んでしまった。
舌先で口蓋を強く刺激されると腰が揺れ、ヒューベルトはまた目を閉じる。
涙が光りながら肌を下っていく様子に、フェルディナントの喉が鳴った。
「好きだ、ヒューベルト」
同じ気持ちだと返したいのに、可愛らしい音を奏でる唇への攻撃が止まらない。
こちらに言わせぬつもりかと舌先を噛むと、ようやく攻め手がやんだ。
ゆるりと瞳を開き酸素を取り込むと、フェルディナントを睨みつける。
「っ、フェルディ……ナント、殿」
はあ、と大きく息を吸えば、また、ちゅっと塞がれてしまった。
腰にある手のひらが下がるので、ヒューベルトはきちんと向き合い、相手の首に腕を回した。