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    水無月

    @kyo_trade

    煉猗窩小説置き場

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    水無月

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    祝🎊狂熱座狛2開催!

    半獣煉獄さん×人間猗窩座
    導入部分しか書けてないですが💧
    完成したら支部に上げ直します。癖強めのR18になる予定

    #煉猗窩

    seasons of love 仕事終わりに取るものもとりあえず駆けつけた、恋人の住むマンション。時計の針はとうにてっぺんを超えており、とても人を訪ねる時間ではなかった。けれどそんな事を気にしてなどいられない。

     猗窩座は取り出した合鍵を焦りながら鍵穴に突っ込む。鍵を開けるほんの少しの時間さえ惜しい。

     杏寿郎と連絡がつかなくなったのは三日前。

     互いに不規則な仕事と生活であるから、急に連絡できなくなるのは今回が初めてではない。だが事前の連絡なしで三日も音沙汰がないという事は今までになく、それが猗窩座を不安にさせていた。

     そして今日、仕事で一緒になった杏寿郎の事務所の後輩俳優から、猗窩座は思いがけない事実を知らされたのである。

     杏寿郎の話を振ると、彼は訳知り顔で答えたのだ。

    「あ、煉獄さんでしたらお休みです! この時期いつも取られる例の休暇です」

    「いつも? 例の?」

    「煉獄さん、昔大病を患われたらしくて。それから体を鍛えているけど、冬の終わりのこの時期だけはどうしても体調が崩れるそうなんです。ウチの事務所に移籍して来られた時も、わざわざご両親からご挨拶があったらしいです。迷惑をかける事になるけど、この時期だけは休ませないと命に関わるからよろしく頼みます、って」

     杏寿郎は毎年必ず冬の終わりに一週間程度休暇を取り、休暇明けには決まってひどくやつれているのだという。元々体力があるからその後はすぐ回復するが、誰よりも仕事に真摯で自己管理が完璧な杏寿郎が休暇の前後だけは極端に衰弱する為、事務所側もあらかじめそれを踏まえて仕事のスケジュールを組むのだそうだ。

     休憩時間にその話を聞いた時はショックだった。去年の夏から付き合い初めて八ヶ月。猗窩座は一度も杏寿郎からそんな話を聞いた事がなかった。杏寿郎の事だ、猗窩座に心配をかけまいと黙っていたのかもしれないが、水くさいではないか。

     それにしても、連絡ができない程杏寿郎は具合が悪いのだろうか?

     そこまで考えて、猗窩座の脳裏に新たな不安が頭をもたげる。

     季節の変わり目に体調を崩すというのは、特別珍しい事ではない。だか、春先の決まった一週間だけ、というのはあまり聞かない。

     まさか……杏寿郎の「体質」が何か関係しているのだろうか……?

     おそらくこれを知るのは、杏寿郎の親族を除けば世界で自分一人だろう。

     杏寿郎は、猗窩座の恋人は、人間ではない。

     煉獄一族は古くからヒトと共に生きてきた、ヒトとは異なる種族だ。普段は人に擬態しているから気づかれる事はないが、本来の姿は人間とは大きく異なる。

     猗窩座が初めてその姿を見、杏寿郎から素性を打ち明けられたのは、告白を受け入れた日の事だった。

     猗窩座は杏寿郎と、映画の撮影の稽古場出会った。煉獄杏寿郎といえば、日本でその名を知らぬ者はいない若手実力派俳優である。彼の主演映画に、猗窩座は現代殺陣の殺陣師として参加していた。

     猗窩座の本業はプロの格闘家だ。しかしまだデビューから日も浅く、そちらで食べていくのは厳しい。そのため猗窩座は、数ある空手の流派の中でも特に技が美しいと言われる素流の特性を生かし、殺陣指導を始めた。

     これが当たって、アクションシーンのある映画で度々呼ばれるようになり、最近では殺陣師の仕事が本業を食いかけているのが密かな悩みとなっている。

     杏寿郎とは初日こそ意見の対立で周囲が凍りつく大喧嘩をしたが、数日で険悪なムードは解消された。相手のプロ意識に気づき、互いに素直に敬意を払うようになったのだ。

     最初の印象が悪かったら、後は上がるしかない。猗窩座と杏寿郎の距離は急速に縮まっていった。映画のクランクアップの頃には、家を行き来してしょっちゅう泊まり合うまでになっていた。

     その頃から杏寿郎にはアプローチされていたが、何せ相手は飛ぶ鳥を落とす勢いで売れている俳優だ。無名の格闘家、しかも男の自分がおいそれと付き合える相手ではない。

     猗窩座も杏寿郎が好きだったし、恋愛対象として見られている事に内心では狂喜乱舞していた。だがその心を隠して、一時の気の迷いだ、お前にはもっと相応しい相手がいると、告白を躱し続けていた。

     そんな状態が二ヶ月程続いたある日。

     とうとう杏寿郎がキレた。

    「君が俺に惚れているのはわかっている。何故そうやって自分の心を偽る?」

     いつものように誘われて杏寿郎のマンションへ泊まりに行って、リビングに入ったところで壁ドン顎クイを食らった。

    「……随分と自意識過剰だな」

     猗窩座は激しい動揺を隠して杏寿郎を睨んだ。伊達に戦いを生業としている訳ではない。メンタルコントロールならお手の物だ。美しく整った猗窩座の大好きな男の顔が目の前にどアップで迫っていても、平静を装うのなど朝飯前だ。正直嬉しすぎて心臓が潰れるかと思ったが。

    「それにいつも言っているだろう、お前と俺は最初合わなかった。その反動で好きになったと勘違いしているだけだ」

    「生憎と、恋と他の気持ちを間違える程子供ではない。わかった。君は俺を信用できないんだな」

     杏寿郎の目がすっと細まる。猗窩座は違う、と咄嗟に叫びそうになるのをぐっと堪えた。

    「俺は君以外欲しいと思わない。その証明として、君になら俺の秘密を打ち明けても良い」

    「…………秘密?」

     訝しむ猗窩座の前で、杏寿郎の姿が揺らぐ。輪郭がぼやけた気がした次の瞬間には、その姿は大きく変化していた。

     顔立ちは変わらない。しかし猗窩座を見つめる炎の目の中心の瞳孔は、猫のような縦長のそれに変わっていた。頭部には髪と同じ色の三角の耳。杏寿郎の後ろからふわりふわりと見え隠れしているのは、狐のようなふさふさの尾だった。これまた金色で尻尾の先だけが赤い。体はひと回り大きく厚みを増して、いつも着ている服が窮屈そうだ。

     手を伸ばしかけて躊躇い、しかし杏寿郎が避ける様子もないので、猗窩座はぴんと立った耳にそっと触れてみた。艶のある毛で覆われた柔らかな耳は、猗窩座の手から逃げるみたいにぷるりと震える。杏寿郎の髪を撫でながら彼の輪郭を辿っていくと、本来耳がある筈の場所は髪で覆われていた。

     次いで杏寿郎の背を覗き込む。部屋着のスウェットから、窮屈そうに太い尾がはみ出していた。猗窩座が手を出すより早く、その長い尾が手首にすり寄ってきた。巻きつくのかと思えばするりと逃げて、揶揄うように、遊ぶように戯れてくる。

     片手で尻尾の相手をしつつ、猗窩座は逆の手で杏寿郎の手を取った。幼い頃から剣道を嗜む杏寿郎の手は大きく力強く、常に爪を綺麗に整えている。しかし今は、全ての爪は長く伸びて先が鋭く尖っていた。

     杏寿郎の体に触れ、変化を確認して、猗窩座は大きく息を吐いた。最初に出てきた感想は「素晴らしい」、その次に「美しい」だった。いつもの姿も猗窩座の目を奪ってやまないが、この姿はもう、何というか、文句のつけようがない。

    「見ての通り、俺は人間ではない。この事を知っているのは一族の者だけだ。そして、一族以外で本当の姿を見せるのは、つがいにする相手だけだ」

     俺と番え。

     鼻先が触れ合う距離で、腰にクる声で命じられて、頷く以外に猗窩座に何ができただろう。

     杏寿郎がその姿を見せたのは一度きりだが、それ以降、折を見ては彼の種族に関わる話を聞かせてくれるようになった。

     もし何か杏寿郎を悩ませる事があり、それが彼の種族に由来するものならば、分かち合えるのは自分しかいない。

     ただの人間の自分では力不足かもしれないが、少しでも杏寿郎の負担を軽くする努力はしたい。それが杏寿郎の命に関わるなら尚更だ。猗窩座にできる事はないのかもしれない。それでも杏寿郎が苦しい時こそ、せめて杏寿郎の側についていたい。彼の「つがい」として。

     鍵をかけ、靴を脱ぎ捨てて猗窩座は廊下を走った。杏寿郎の部屋の扉を開くと、カーテンの隙間から漏れる僅かな街灯に照らされた部屋の、窓際に置かれたベッドが真っ先に視界に飛び込んでくる。こんもりと盛り上がった毛布の山が、ベッドの上でもそりと動いた。

     寝返りを打ったのか、人の気配を察して目を覚ましかけているのか。具合が良くないのなら、起こさない方がいいだろう。

     息を殺して杏寿郎の様子を伺っていると、毛布の山の動きがぴたりと止まった。すん、すん、と匂いを嗅ぐ音がして、くぐもった声が「……猗窩座?」と呟いた。

     常より掠れて低い声ながらしっかりした様子に、猗窩座はほっと肩の力を抜いてベッドに駆け寄ろうとする。

     その足を止めたのは、再び毛布の下から発せられた鋭い声だった。

    「……何しに来た! 出て行け! 早く!!」

     突き放すような大声に、猗窩座はそれが自分に対してのものだと最初理解できなかった。予想していたどの言葉とも違う。

    「こっちに来るな! さっさと行け!」

     何が起こったか訳がわからず立ち尽くす猗窩座に、杏寿郎が更に追い討ちをかける。杏寿郎は自分に言っているのだ。この部屋から出て行けと。

    「嫌だ……」

     ショックで頭が真っ白になりながら、足を踏みしめ、猗窩座は声を絞り出した。

     今まで杏寿郎と何度も喧嘩をしてきた。お互いに一歩も引かず、同じ部屋に居たくないとどちらかが出て行く事もあった。けれど杏寿郎は一度だってこんな風に、一方的に猗窩座を遠ざけるような真似はしなかった。必ず先に話し合いを持とうとしていた。

     つまり、それだけ杏寿郎は切羽詰まっているのではないのだろうか。

    「嫌だ! 俺は出ていかないぞ!」

    「駄目だ! 早く行け!」

     猗窩座の必死の訴えは、即座に却下される。それでも猗窩座はその場を動かなかった。

     ぎりりと歯をくいしばる音と、喉の奥から発せられる唸り声。杏寿郎は明らかにいつもと様子が違う。だからこそ引き下がる訳にはいかない。

     猗窩座は思い切ってベッドに近づいた。そのまま毛布越しに、杏寿郎の体をぎゅっと抱きしめた。

    「杏寿郎、俺はお前のつがいだろう? 側にいさせてくれ」

     毛布の中の杏寿郎の体が大きく震えた。振りほどかれるかもしれないと、猗窩座は腕に力を込める。

    「……どうなっても知らんぞ……」

     溜息交じりに杏寿郎が言った。





    to be continued
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