パイナップルの棘は凶暴 きっかけはなんだったのか。
ハリーと一緒に、学校から同じ家へ帰ってきて、バーナードさんの用意してくれたフルーツをつまんでいた。それだけのはずだった。
果肉に埋もれていた棘が刺さって、痛む舌をハリーに見せた。友人として過ごしてきた日々と大して変わらない、そんな些細な戯れのはずだった。それだけだったのに。
×××
αだとかΩだとか、そんなものは関係なく、ピーターは俺の大事な親友だった。こんな関係を築ける相手はこの世に二人となく、俺にとって、ある意味唯一絶対の存在がピーターだった。
ピーターと出会うまで、俺にとっての世界は父さんの敷いたレールの先へ誤ることなく進むもので、それ以外はみんな雑音だった。つまり、俺の世界は、父さんとピーターだけで構成されているようなものだった。だから、父さんがピーターの事を気に入ってくれたのは俺にとって喜ばしいことだったのだ。ピーターは、父さんにも認められた誇らしい親友だった。
だけど、ピーターが、Ωだった事がわかるなり、父さんはピーターを引き取った。ピーターが父さんの物になるなんて、そんなのは耐えられない。
「棘が刺さったみたい」
そう言ってペロリと舌を出して見せたピーターの、その無防備さがいけなかった。
この、愛おしい、いとけない、俺を「オズボーン」ではなく「ハリー」と呼ぶたった一人の男は。俺だけのピーターのはずだったのに。
湧き上がってきた衝動のままに、吸い寄せられるようにして無防備に差し出された舌へ唇を寄せた。
舌の粘膜と粘膜が触れ合う濡れた感覚。至近距離に顔を寄せた時点で反射的に目を瞑ったピーターの震えている睫毛が視界を占める。
あぁ、一度距離を詰めてしまえば触れることはこんなにも容易い。
×××
僕たちは親友だった。そのはずだった。生まれつきαである事を約束されたハリーが、そうでない僕を気にかけてくれる理由はよくわからない。
第二次性徴が来て、クラスメイト達が顕現した自身の第二の性を話題にし始めた時も、その盛り上がりは僕には関係のないことだった。なんの変化もない平凡なβ。僕は、そんな平凡な、クラスに埋没した人種のはずだった。
あの日、クモに噛まれるまでは。