厄災リンリバ、リンクの誕生日編 もうすぐリンクの誕生日だ。今年で33才になる。
国主の誕生日なのだから盛大にお祝いしたり、何なら国家の祝日にしたらいいとリーバルは思うが、リンクは自分の誕生日というものに一切の興味がない。そのくせリーバルの誕生日はすごく大切にしていて、この国で一緒に暮らすようになってからはリーバルの誕生日を「碧玉の節」なんて名前をつけてお祝いする日にしよう、なんて言いだしたこともある。もちろんやめさせたが。
しかしこの国で暮らす民のほとんどは退魔の騎士であるリンクを慕って集まった者ばかりだ。リンクの誕生日など言われなくても自主的にお祝いする。どこから聞き出したのか知らないが当日になれば国民が集まり、首都の大広間でリンクのために礼拝をするのだ。
リーバルはその様子を自室から遠眼鏡で眺めたことがある。雪がちらつく中、地に伏せた国民達がリンクを崇拝する言葉を口にし、終われば満足気な様子で帰っていく。しかも人波は途切れることもなく、そういった礼拝者相手の出店なども出ているぐらいだ。
その時のリンクどうしていたかというと、子どものような顔でリーバルの膝枕で昼寝をしていた。リンクの頭をさらさらと撫でながら、自分の伴侶がこれだけ国民に慕われるのは嬉しいような、ちょっと怖いような、そんな感じがしたものだ。
とにかく、今年の誕生日である。
毎年リーバルはリンクの誕生日を祝い続けていたが、いつも言葉だけで記念に残るプレゼントを贈ったことがない。それはリーバル自身が自由に何かを買える身分ではないからというのもあるし、リンクに欲しいものを聞いても「じゃあ俺だけに歌を歌ってくれ」とか「昼寝をしたいから膝枕をしてくれたら」とか、そんなものしか欲しがらないのだ。そういえばこの男、はじめて会った時から物欲なんてほとんど無くて、腹いっぱい飯を食ってリーバルとセックスできたら満足でもう何もいらないという男だったのだ。基本的に、それは今でも変わっていないらしい。
しかしリンクがそうでもリーバルは違う。伴侶にプレゼントのひとつもあげられないなんて、リト族の名折れだ。ちょうど重臣から貰った賄賂……もとい「ご愛妾様の美しさを引き立てるための」プレゼントの宝石がある。イーガ団を通じてこれを売れば、やつらに手数料を払ってもそれなりの金にはなるだろう。それでリンクへのプレゼントを用意しよう。
もちろんリンクに言えばいくらでも金を用意してくれるのは知っている。けれどこれは「リーバルが」「リンクのため」に用意するプレゼントである。それならリーバルだけの力で用意したいではないか。
「それなら俺様達を頼るなよっ!!!何で毎度毎度そんなことで呼び出されなくちゃいけないわけ!?かわいそーに、みろようちのスッパなんかバナナを食ってた最中だったのに呼び出されてさ!」
「コーガ様、拙者のことは大丈ぶ…」
「このワガママリト!ガキ雛!弓だけが取り柄の……痛い!いひゃい!ヤメテッ暴力反対っ!」
「うるさいな!黙って僕に協力していればいいんだよ!」
今リンクは重臣達との会議中でリーバルの傍にいない。この隙にとリーバルはイーガ団のコーガとスッパを護衛という名目で呼び出し、中庭に集まっていた。ここはリンクが作ってくれたリーバル専用の中庭で、いつもリーバルの大好きなスミレが咲いているし夜光石で出来た亡き雛のお墓もここにある。リンクとリーバルがふたりで遊ぶためのおもちゃの弓矢や道具も設置されており、リーバルにとって、この城では自室と同じぐらいリラックスして過ごせる場所だ。
「だから協力してくれって言ってるんだよ!リンクの誕生日を僕はどうしてもお祝いしたいんだから!」
「ハ、ハア……(協力してほしいやつの態度じゃないだろ……)」
「実は何を贈るかも決めているんだよね」
リーバルがドヤ顔で言ってきた。すごくすごく聞いて欲しそうである。コーガは「面倒だから突っ込むのはやめておこう……」と思ったが、素直なスッパが素直に「ほう、何を贈るのだ?」と聞いてしまった。アウチ!
「耳飾りだよ!」
またドヤ顔。
「そういえばリンクはいつも耳飾りをつけておるな」
「しかもね、ただの耳飾りじゃないの!この僕の羽と翡翠を使った耳飾りだよ!どう?素敵だろ?」
なるほど、翡翠は自分の眼の色……つまりこれでもかと自分色のものをプレゼントするわけだ。リンクへのプレゼントなんだから自己アピールはもっと控えめにしろと思わなくもないが、リーバルらしくてむしろコーガは安心してしまった。
「でもお前、そんなアクセサリー作る技術ねえだろ?」
「だからね、君達の知っている中で腕利きの職人を紹介して欲しいわけ!この間僕にくれた簪なんかなかなか良い出来栄えだったよ?あの職人なんかいいんじゃないかな?」
「うーん…………まあ、紹介できなくもないが………」
「コーガ様、あやつだけはやめておいたほうが……」
「スッパもそう思うか?だよなあ」
「聞こえてるよ!!なんで僕に紹介できないのさ!?君達の仕事は受けるんだろ!?僕に紹介できない理由がわるわけ?」
「いや、そういうわけではない……」
スッパが答えたが、いかにも言いにくい、という雰囲気だ。いつもブーブー文句を言うコーガならともかく、スッパがそんな反応をするなんて珍しい……リーバルはちょっと心配そうな表情になった。
「なに……じゃあどんなわけ?」
「うーん、言いにくいんだが……」
コーガは頭をぽりぽりかくと「実はな」と前置きしてこう言った。
「すっっっっげえスケベなんだよ、その職人」
「…………………は?」
街中を歩く若い男女。いろんな店を冷やかしてデートを楽しんでいたが、ふと素晴らしい細工のアクセサリーを並べている店を発見した。値段も手ごろだし喜んで入ろうとすると
「いらっしゃい……どっちもかわいいねえ、あんたたち」
奥から現れたのは男とも女とも分からない店主。デレデレ目じりをさげ、ヨダレが出そうな勢いでカップルを眺めている。
「最近の子はええのう、ええのう」
カップルは嫌な気配を察したのか「ヒャ~!」と悲鳴をあげながら店から逃げてしまった。「あう……なんじゃ、どっちもよさそうだったのに……」と言いながら店主は店の奥に戻り、読んでいたエロ本をまた読み始めた。
「……………とまあ、こういうヤツなんだよ」
コーガの話を聞きながらリーバルは「うげえ」という顔をして舌をベーッと出した。
「このオッサン……いや性別は分からねえからオバサンかもしれねえが、腕はとびっきり良いんだが、とにかくスケベ。しかもストライクゾーンが広くてなァ、成人前の子供を除いた老若男女、民族は問わないときた。やってきた客をいつもジロジロ眺めてはヨダレを垂らしニヤニヤしてる。おかげで店には客が寄り付かねえ。ま、俺達みたいな依頼客がふんだんにいるから食うには困らねえって話だが」
リーバルは右翼で額をおさえると、思わずハーッとため息をついた。百歩譲って客をそういう眼で見るのはいい、心の中だけで収めておけばいいものを、口に出したり態度に出すからいけないんだろう。
「君達っていつも仮面をかぶってるけど、やっぱり君達もそういう眼で見られるの?」
リーバルが聞くとコーガが渋い顔をしながら「チッチッチッ」と人差し指を振った。なんかムカつく。
「仮面がなんだってんだ、世の中にはそういうのこそソソる――!!ていう層もいるんだぞ、なあスッパ?」
「コーガ様のおっしゃる通りござる………」
「へえ……じゃあいつも依頼の度にヤラシー眼で見られてるワケ?」
「いやもう俺達は最近はもっぱら郵便で依頼してるからさ」
厄災ガノンが封印されてから、リト族による郵便事業は飛躍的に広がり、今ではハイラルのどこにでも格安で手紙を送れるようになった。
「なんだ♪それでいいなら僕も手紙を書こうっと。耳飾りのイメージ画は出来てるんだよね、同封したらいいよね?」
しかし上機嫌のリーバルとは反対に、コーガもスッパもウーン……と腕を組んで唸っている。
「いや多分なあ……無理じゃねえか?」
「なんで?」
「郵便で依頼なんて、後回しにされるのは間違いない。最悪忘れられるだろう」
スッパの言葉にリーバルはえっ!と驚き羽を逆立たせた。
「何でさ!?」
「まあ上位貴族からも依頼のある職人だからなあ……一応売れっ子ってことになってるんだよ。しかもそういう貴族はその職人の好みに合わせた外見のやつを使いに寄越すだろう?そしたら依頼順なんてすっ飛ばして、自分の好みが持ってきた依頼を優先しちまうのさ」
「リーバル、リンクの誕生日はいつなのだ?」
「大体2ヶ月ぐらい先だけど……」
「それなら厳しいな」
「そんな!なんとかならないの!?」