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    レイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【聖なる夜、贈り物】

    ずっと渡せないものがある🦚の話

    明日からは あぁ、また増えてしまった。誰も立ち入らない部屋の隅にそれを積み上げてそんなことを独りごちる。独りごちるぐらいなら、購入時の目的通りに渡してしまえばいいのだ。もしくは消耗品にすればいい。そうすれば、渡さずとも自分で使い切ることができた。配り歩くことだってできたかもしれない。
    「……せめて、捨てられたら」
     できもしないこと。そんな戯言を呟いて、アベンチュリンはその部屋に扉で蓋をした。

     今日は『聖なる夜』というらしい。なんでもとある星のどこかの神が生まれた日、なのだとか。そしてそんな日の夜は、愛すべき人と共に過ごすのが普通らしい。辺境の星だ根付いた風習は何故か星の括りを超えて、このピアポイントでも既に浸透していた。
    「仕事お疲れ様。またひとつ論文を公表したんだって?」
    「既に事前研究が潤沢だったものだ。僕は特に何もしていない」
    「君がそれらを集めて出した結論が大発見だったから、今こんなに騒がれてるんだろうけど」
    「君こそ、つい最近ようやく帰ってきたと聞いたが」
    「あぁうん。いい星だったよ、債権者も従順で」
    「……それは何より」
     細長いグラスに注がれた液体がしゅわ、しゅわと気泡を水面まで押し上げている。いいシャンパンだ。香りも色も、口当たりも文句の付けようがない。さすがは彼の選んだ店なだけあるだろう。べリタス・レイシオという、自称凡人の天才の。
     『聖なる夜』、『愛すべき人と過ごす夜』。そんな日のディナーを共にしているのだからわかることだが、彼とアベンチュリンはそういう関係にあった。愛なんてものが似合わないはずの二人が、どうしてかそんなバグをお互いに抱えてしまったのだ。
     しかし人付き合いを嫌うレイシオのことだ。元々戦略的パートナーとして仕事をよく共にはしていたけれど、恋人になったからといって何かが大きく変わるわけもないだろう。アベンチュリンのそんな考えは、すぐに棄却されることになった。お互いの家を行き来する、食事を共にする、同じベッドで眠る。そんなことが当たり前になってもうどれくらいたっただろう。そして一番驚いたのは、彼が思いの外イベントごとを重要視する、ということだ。
     まずは誕生日を問われた。正確な日なんて分からないと正直に告げれば、それなら記憶に残る日でいいと言われた。その日は祝われるべき日なのだから、多いに越したことはないのだから、と。
     その次には、なんだかお菓子を送り合う日があった。なんでもとある豆の油脂を加工した甘い菓子を、想いを寄せる相手に渡す日なのだとか。彼は頭をよく使うから、糖分はそれなりに欲することが多いらしい。その最中で身につけた製菓スキルで作ったケーキを与えられた。とても、美味しかった。
     他にもアベンチュリンが大きな仕事を終わらせたあとや、レイシオの研究が実を結んだ時。少し小っ恥ずかしいと思ったのは、彼との関係を変えた日だから、と言われた時だ。恋人となった日の、その記念日は祝うべき日なのだという。珍しい彼の表情を見れた記念日にもなって、少しおかしくて笑ってしまった。
     そして今日。相も変わらず彼はこの『聖なる夜』を、当たり前のようにアベンチュリンと共に祝っている。彼はもっぱら豪華な食事とエスコートでそれらを祝うのだ。それは手作りの時もあれば、今日のようにどこかのレストランが予約されていることもある。
     そう、されてばっかりだった。もともと料理なんて自分ではせず、食事なんて簡易食で腹を満たすだけの行為。それが彼によって矯正されているのはいいとして、しかしそんなだったから彼の料理を手伝えるわけもない。だから、何か贈り物をと思ったのだ。それこそ誕生日は相手にプレゼントを渡すのが定番らしいし、されてばかりは性にあわないから。
     でも、ずっと考えているのだ。レイシオという人は世間でも有名で、多くの人を助けたお医者様だ。その知識を人々に与える学者でもある。そんな輝かしい彼と、奪うことしかできない、何ももたらすことができない自分。釣り合うわけが無い。きっとこの関係は間違いで、それにレイシオがまだ気付いていないだけ。だから気付いたら、気付かれたら、すぐに終わらせられるようにしなければならない。そんな時に、彼が言い出すまでの枷になってはいけないのだ。
     いや、違う。こんなのはただの言い訳だ。自覚がある。まだ彼と恋人ではなかった時、それを何度も渡そうとした。友好の証に、彼の利に、自分の価値に。そんなものを証明する、ために。しかし彼から返されたのは全て否だった。いらない、必要ない、間に合っている。研究で新薬の被検体が足りないと小耳に挟んで、それならばと自分自身を提供しようとした時は酷い形相で怒鳴られた。
     だから怖くなってしまったのかもしれない。彼への贈り物として選んだものは、決して全てが価値のあるものじゃない。彼の手に馴染みそうだと思った。彼のデスクに置かれ、使われることを夢見た。彼のバスタイムがより良いものになってくれればと願ったり、会えないような日に枕元にでも置いてくれればいいと考えたり。そんな、数多の贈り物に扮したこの心を、拒まれたら。あの時みたいに必要ないと怒鳴られたら。
    「アベンチュリン?」
    「っ、」
    「……体調が優れないなら、早めに部屋に上がろう。出張続きで疲労が蓄積しててもおかしくない」
    「あ、はは。大丈夫だよ、疲れてないから。今日もちゃんとサービス、するし」
    「何度も言うが、僕は君から見返りが欲しいわけじゃない。共にいられるだけでいいんだ」
    「でも……」
     準備したものは渡せない、手伝いだってできはしない。そうなると、アベンチュリンにできることなんてそれしかないのだ。ありがたいことにレイシオはこの身体を気に入ってくれているみたいで、だから喜んでもらえるのならばと。アベンチュリン自身、彼に触れてもらえるのは嬉しかった。だから決して苦ではない。それは、嘘じゃない。
     それだけしか渡せるものがない、というのは、少し心に染みを作りはするけれど。あぁでも、もしかしたら飽きられてきているのかもしれない。もういらないと思われているのかもしれない。じゃあどうすればいいのだろう。こういうのなんて言うんだっけ。マンネリ、だろうか。
    「……体調が悪い訳では、ないんだな?」
    「へ」
     手元に落ちてしまっていた視線をあげれば、眉間に深い谷を築いた彼がいた。しまった。考えに耽りすぎてちゃんと見ていなかった。誘われたこの場所で、ずっと尽くされるばかりで、なのに彼を不快にさせるなんて。失態だ。どうにかして弁明を。
    「顔色はそこまで悪くはないな」
    「……問診かい?」
    「そう思うのなら答えてくれ。不調は?」
    「……」
     ないよ。少し考えてから答えた。本当に、身体的な不調は何も無い。この程度の出張はよくあることだったし、彼に言った通り楽な仕事だったのだ。
    「なら、今君の心を占めているものはなんだ」
     赤がアベンチュリンを射抜く。ばれている、と思った。どこにも逃げられない、隠れられもしない。そう思わせるような視線だった。蛇に睨まれた蛙ってこういう状態なのだろうか。いや、別に命の危機を感じている訳ではないのだけれど。
    「上の空だったことは謝るよ」
    「そうじゃない」
    「……別に、君には、」
    「僕に関することだろう。『関係ない』なんて言葉が通じると思うな」
     でも実際、恐怖ではあるのかもしれない。自分でも面倒で回りくどい思考だとは思うのだ。レイシオがアベンチュリンにそういうことを求めていないのは知っている。『共にいられればいい』という言葉に偽りがないことも分かっている。勝手に、アベンチュリンが後ろめたさを感じているだけ。
    「本当に……なんでも、ないよ」
     これ美味しいね。その誤魔化し方はなんとも稚拙だった。十の石心アベンチュリンにあるまじき言葉遣いだ。仕事ならもっと上手くできただろう。声も、顔も、言葉さえも作りこんで完璧に。それが彼相手というだけでこんなにも脆い虚勢になってしまう。
    「……口にあったのなら何より」
     あぁ、気を遣わせてしまった。やっぱりお詫びという点でもあの時買ったプレゼントを持ってくるべきだったのでは。信用ポイントならいくらあってもいいだろうし、それなりに値の張るものを買ったから売ればある程度の足しにはなる。拒まれたらそれはそれで、アベンチュリンが『それ』を飲み込んでしまえばいいだけ。次からはそうしよう。そう、できるだろうか。今までずっと、それが怖くて渡せていないのに。
    「アベンチュリン」
    「あ、えっ何、」
    「今日は」
     今日までは、騙されてやる。また、いつの間にか落ちていた視線を上げさせられる。そして視線が絡んだと思ったら告げられた言葉。なんだろう。どういう。
     ついに絡んでいた赤は手元の料理へと向けられてしまって、だからその先を読むことが出来なくなってしまって。意味不明な彼の言葉の意味を理解するのは、そう遠くない未来である。
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    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【幸せのかたち、さよならから始まる】

    失ったものが降ってきた🦚の話
     それは、遠い昔になくしてしまったものだった。日中は熱すぎるくらいなのに陽が落ちると途端に寒くなって、そんな中で口にする薄味のスープ。具材なんてほとんどない、いっそ湯を沸かしただけといってもいいくらいのものだ。けれどそれを飲みながら過ごす日々は決して地獄なんかじゃなかった。血のつながった家族がいて、二人でそれを飲みながら他愛もない話をする。明日がどうなっているかも分からないのに、それでも確かに満たされていた。
     地獄というのならその後、そんなたった一人の家族を亡くした時から始まったものだろう。どうして生きているのかも分からない、どうして死ななかったのかも分からない。ただこの『幸運』のおかげで生きながらえていて、この『幸運』のせいでまだあのオーロラの下には行くことができなくて。でも『幸運』以外にも、一族全員の命がこの生の土台にあるのだ。だからそれを自ら手放すなんてあってはならない。そんなことをしたら、オーロラの元で再会するなんて夢のまた夢だから。そんなことばかりを考えて、死ねなくて、ずっと生き続けて。
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    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【賽は投げられた、カウントダウン】

    🦚が投げた賽とその末路
     ピアポイントまで戻る遠征艇の中でアベンチュリンは頭を抱えていた。いや、確かにそれの原因を作ったのは自分だけれど。だからある程度の報復というか、仕返しというか、そういうのがあるだろうと覚悟はしていたけれど。でもこれは、決してアベンチュリンの想定内には収まらない。
     どうしよう。どこかに時間を巻き戻すような奇物はないだろうか。もしくは対象者の記憶を消す薬とか方法が落ちていないだろうか。後者ならメモキーパーに依頼すれば、どうにか。アベンチュリンなんていう石心の依頼を受けてくれるようなガーデンの使者がいるとは思えないけれど。
     本当に、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。でも仕方がなかったのだ。だって今回の遠征はそれなりにリスクがあって、だからもし言わなかったらそれを後悔するんじゃないかと、思って。ピノコニーの時はまだそういう関係ではなかったから何も言わなかったけれど、今はそうじゃないからそれなりの礼儀があってしかるべきだろう。彼という人が心を明け渡してくれたのだから、アベンチュリンも同じものを差し出すくらいの気概はある。
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