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    レイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【胸キュン】

    初デートでとある星に来た🧂🦚の話

     癪だ。隣を歩く男を盗み見ながら口を尖らせてそんなことを思う。だってそうだろう。彼の人と成りを知っているからこそ、彼の行動の全てが癪なのだ。
     二人並んで歩いているだけの今だってそうだ。隣の彼とは身長差があり、つまりは歩幅に差があり、そして体力にも差がある。なのにアベンチュリンが意識をせずともずっと隣合って歩いているのだ。普通に歩けば歩幅のせいで、彼の方が先に進んでしまうはずなのに。
     それにさっきも。アベンチュリンがとある商店の前で歩調を緩めた時、当たり前のようにその背後に陣取った。そして人の流れから守るように引き寄せて、そしてさらに商店の前へと一歩誘導して。それの全てを当たり前のようにやっていた。
     食事中だって、食べるのが遅いはずのアベンチュリンと同じタイミングで食べ終わった。食べたものや量は同じだったから、きっとそれらを全て合わせていたのだろう。一人で食べ終わって急かすことのないように。しかもドリンクがなくなる前に必ず声がかけられた。それも、「僕は頼むが君はどうだ?」という聞き方で。
     全てが癪だ。彼の、レイシオの行動の全てが。だってまるでそれを慣れているかのように当たり前にこなすのだ。アベンチュリンはずっと、気まずくならないように喋り続けることくらいしかできないのに。
    「……どうかしたか」
    「うん? なんでもないよ」
     その言葉だって、決して本心じゃない。退屈させないようにあることないことを喋り続ける。レイシオにとって都合のいいことを、彼が不快にならないような言葉を。だって彼はこんな風に尽くしてくれるのに、それを捻くれてしか受け取れないなんて知られたくない。
    「君、」
    「あ、もうホテルに行くかい? いっぱい良くしてもらったんだし、今夜はたっぷりサービス、」
    「アベンチュリン」
     遮られて、言葉が止まる。止めないで欲しい。だってそれくらいしかできることがないのだ。恋人である彼と一緒にとある星までプライベートで訪れて、それで渡せるものがこの身体しかないというのはあまりにもお粗末だけれど。でも、だって、彼がこんな風にたくさん準備をしてくれるなんて思わなかった。歩く速さも、見て回る商店も、食事も全部アベンチュリンのためのもの。返さなければと思うのに渡せるものが何もない。
    「君が疲れたのなら早めにホテルに行くのもいいだろう。ホテルの中にバーがあるんだ、この星の特産でもある酒を多数置いているらしい。……君の上司や部下への土産を探すのにも適している」
    「ぅ、」
    「アベンチュリン?」
    「な、んでそんなに、」
     癪だ。ずっと癪だ。だってどこにも隙がないのだ。きっと緻密に組まれているであろうそのプランは、アベンチュリンの小さなわがままさえ内包してしまう。それくらいに彼はアベンチュリンという人を正しく理解し、そのためにこのプランを立てている。
     人と出かけることに手馴れている。それが癪だった。でもその所々に『アベンチュリンのため』というのが散りばめられていて、それに気付いてしまってどうしようもなく気恥しいのだ。これは他の誰かのプランを流用したんじゃなくて、ちゃんとアベンチュリンと一緒に出かけるためのもの。
    「……何か不都合があったなら教えてくれ。次回までに修正する」
     あるわけないだろう、そんなもの。叫びたくなって、叫ぼうとして彼を振り返る。そこにあるいつも通りの彼を、見て。
     いつも通りじゃなかった。本当に不安そうに、しかしそれを隠そうとしている。アベンチュリンという人を楽しませられなかったかもしれないという不安、次があるのかどうかという不安。どういう気持ちで彼が、今日のプランを立てていたのかが分かってしまうような、顔。
     あぁ、癪だ。それを見て分からないほど浅い関係じゃない。癪だ。心臓がずっとばくばくしている。さっきまでは一瞬ぐぅっと早くなって、うるさくなって、でもすぐに落ち着いていたのに。ずっと、癪だ。
     その全てを知ってしまって、だから彼に惚れ直しそうで。その全部が、アベンチュリンには癪だとしか言い表せないだけだったのだ。
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    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【こぼれ話】

    🧂が語る、取るに足らない話
     ひとつの大きな仕事が終わった。カンパニーに不利益を被らせた大罪人の処刑、という大きな仕事だ。今はもう死刑なんてボタンひとつでできるようになっていて、だからレイシオがやったことといえばそれを押すことだけなのだけれど。でも、やっぱり精神的にきているのかもしれない。だって大罪人とはいえ、死刑囚とはいえ、元奴隷とはいえ。ずっと一緒に仕事をしてきた人だったから。
    「にゃう?」
    「……すまない、朝食の時間だな」
    「にー!」
     みっつの生命体に急かされて、持ったままだったそれを皿に移してやる。食事をするようになったのは彼の影響らしい。彼らの面倒を見ていた彼、その処刑された死刑囚の彼は、なんとも美味しそうに食事をしていたのだとか。最初は得体の知れない棒状の何かを口に突っ込んだり、パックの口から何かを吸い上げたりするだけのところしか見たことがなかったのに。でもそんな彼がいつからか大切そうに抱えられるくらいの包みを持って帰ってくるようになって、それを楽しそうに開いて、その中のものを口元を綻ばせながら食べて。だからどうしても気になってしまったのだと。ビーコンで翻訳された彼らの言葉は、如実にそれを伝えてくれた。
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    DONEレイチュリ🧂🦚

    打算で付き合っていた🧂の話
    「打算だった」
     聞こえてきた声に反射的に息を潜めた。何でって、彼と自分の関係に対する話題だったからだ。レイシオと、それから上司であり身元引受人にもなっているジェイドの会話。たまたま彼女に用があって、執務室にいるという話を聞いたから訪れた彼女の部屋だ。アポをとるほどのものでもなかったから、ジェイドでさえアベンチュリンがここにいるとは思っていないだろう。
    「ふぅん。どこからか聞いても?」
    「彼からの想いに応えたところからだな。それだけで彼の行動が多少はましになるのなら必要な犠牲だろう」
     犠牲、犠牲か。あぁでも確かに、彼からしたらこれは犠牲になるのか。だって潔癖だと自称するレイシオにとって、他者との接触なんてストレス以外の何物でもないだろうし。でもそれはアベンチュリンの想いに応えたら、つまり恋人という関係を持つなら避けて通れない。でも、じゃあ、その犠牲を経て彼が得たものって何なのだろう。『アベンチュリン』を得て手に入るものなんて幸運か、信用ポイントか。恋人だろうと仕事関係の情報なんて渡せないことは彼も理解しているだろうし、そうなるとそれくらいしかないと思うのだけれど。
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