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    @7_kankankan_100

    気の赴くままに書き物。今はエク霊、芹霊。(以前の分はヒプマイどひふです)
    正しい書き方はよく分かっていません。パッションだけです。
    書きかけ多数。

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    @7_kankankan_100

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    どひふ版深夜のワンライのお題「貯金」で書いたどひふです。中学生時代。

    #どひふ
    servant

    中学生の頃、一二三はある物を見つけてしまった。
    独歩の部屋の棚の奥、惑星や鉱物、植物や生物の図鑑の後ろに隠れるようにそれはあった。夏休みの自由研究の調べ物に独歩の本を借りようとしただけだ。探るつもりはなくて全く偶然の事だったので一二三はなんの悪気もなくそれを図鑑の後ろから取り出す。クッキーかチョコかが納まっていただろう繊細な花柄が描かれた缶箱。そのままにしておけなかったのは『一二三の……』と太字の油性ペンで書かれた文字を見つけたから。その先に続く文字があるらしいが本に隠れて見えなかったのだ。
    独歩はこんな所に『一二三の……』何を隠しているのだろうか。もしかしたら悪口かもしれない、と一二三はちょっとヒヤリとした。学校で時々独歩にしつこくくっつくなと怒られたりするのを思い出すと、その可能性はあり得る。
    でも仕方がない。独歩にくっついていると落ち着くし、いないとなんだか寂しくてやっぱり側に行ってしまう。眠る時にお気に入りのぬいぐるみを離さない小さい子のようなものなのかもしれない、と一二三は自分で思っていた。これが大人だったら、タバコやお酒のようなやめたくてもやめられないものだろうか。まだ大人でないので分からないけれど。
    本の隙間から缶箱が姿を表すと、『一二三の……』に続く書かれていた文字は『指輪』だった。
    一二三の指輪?一体何の事なのかさっぱり分からない。中に指輪が入っていそうな音もしないし、カサカサと紙が入っているような音はする。フタを開けてみると、千円札が数枚入っていた。
    とその時、お茶を取りに行っていた独歩がちょうど戻ってきた。
    「ひ、ひふみ!それ」
    独歩のあまりの驚きぶりに一二三はギクッとした。友達の部屋の物を勝手に触ってお金を手にしているだなんて決定的瞬間だ。
    「違う違う!俺っち盗もうとしてたんじゃなくて!」
    「いやそんなこと思ってないけど……見た?」
    「え?一二三の指輪ってやつ?」
    瞬間、驚きに歪んでいた独歩の表情が真顔になり、手にしていたお茶をやけに丁寧にテーブルの上に置いたかと思えば、一二三の前に正座で座ると深々と頭を下げて床に向かったくぐもった声で、忘れてください、と言ったのが聞こえた。隙のない一連の動作に一二三は独歩のつむじを見るまで声をかけるタイミングすらなかった。
    「なんで?やっぱりこれ悪いことなん?呪いの指輪でも買うの?」
    「どうしてそうなるんだ」
    「だって、最初俺っちの悪口が溜めてあると思ったし。忘れてほしいほど隠したいことなんだろ?」
    一二三は口をツンと尖らせて、話しながら目が潤んでいく。もしかしたら独歩に嫌われてるかもしれないと思ったら悲しくなってきたのだ。
    「いつもベタベタしてごめん……気をつけるしうるさくしないから一緒にいてよ」
    「待って。俺、本当に怒ったりしてないし、一二三のことそういうふうに思ったことないからな」
    独歩は一二三を不安にさせないように両肩を優しくぽんぽんと叩いた。いつもポジティブな一二三が前向きの象徴みたいな指輪をそんなふうに捉えるなんて、学校で注意しすぎたと反省した。
    くっついてくるのは別に嫌ではないのだ。ただ恥ずかしい。独歩は小学校の時はなんともなかったことが、最近はやけに恥ずかしかった。そのせいで一二三をこんな顔にさせてしまって、秘密の貯金を忘れてほしかったのもいつか一二三にあげる指輪を買う為なのになんて勘違いをさせてしまったのだろう。
    予定ではもう少し後に言うはずだったが、今言わない選択肢はなかった。独歩は一二三の肩を力強く握り直すと、ひふみ、と呼んだ。すると涙に溶けてしまいそうなレモンキャンディみたいな瞳がこっちを向いて、なに?、と問う。
    「そ、その……俺、ひふみのことがっ」
    独歩の顔が真っ赤になって、最後の一言が言えずにぎゅっと目をつむってしまった。一二三の肩に触れている手が震えている。
    「え、なに、どうしたの独歩」
    「ひ、ひふみのことがっ……好き」
    言えた!と思った瞬間独歩は一二三を好きな気持ちがどんどん溢れ出して一二三をぎゅうぎゅう抱きしめた。
    「そーだったの⁉︎よかったぁ〜〜」
    一二三も独歩を抱きしめ返して安心しきった声だった。
    「あのお金は指輪を買うための貯金で、一二三にプレゼントしたくて」
    「え!好きってそういうこと⁉︎」
    さすがの一二三でも指輪をプレゼントされる意味くらいは分かる。でも独歩が自分のことをそういうふうに考えていたなんて夢にも思っていなくてびっくりした。
    「でもいいや、俺っちも独歩が好きだし一緒にいられるならなんでも」
    「ん?いや、なんでもはダメだろ」
    一二三の不穏な一言に独歩は急いで離れると、涙はすっかり引っ込んで笑顔を見せる一二三と目があった。好きと一言言っただけで、さっきまでよりももっと一二三が輝いて見える。気持ちを言葉にするというのは、こういうことなのだろう。
    「俺は、キスとか……そういうのもしたいと思って、る」
    「んえ!き、キス?とか、は…なんか恥ずくね?」
    一二三が急に照れてふいっと横を向いたので独歩もつられて恥ずかしくなってしまった。でも一二三は意識したのか唇を手の甲で隠してしまって、いつか本当にその唇の柔らかさを知りたいと独歩は思った。
    「まだしないよ。……そうだ!指輪。指輪をプレゼントした時に、とか」
    「それ、いつ溜まるの」
    「分からない。でも、多分、まだ先だし……大丈夫、うん」
    自分で期日を決めてしまって、独歩はしまったなと思った。それまで意識せざるを得ない。こんなに一二三への好きを抱えたまま我慢できるのか分からなかった。

    だがしかし、これをきっかけに意識し始めた一二三が、夏休みが終わる前に独歩の唇を奪うことになるのを今の二人はまだ知る由もなかった。
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