お題:イベント ついに来た。
人が溢れ返る会場で、風見は万感の思いに浸っていた。
今日は待ちに待った、怪コレの周年記念フェスである。ゲームのリアルイベントに参加するのは初めてで、この日の為に仕事を必死にこなし非番の日程を合わせ、当日に向けて体調を整えた。
そうして、無事に会場に到着したが、アイドルフェスの時はヨーコさんの出番直前に降谷に呼び出されるという憂き目に遭った。今日はそんなことはないと祈りたい。
「さて、どう回ろうかな……」
グッズ列に並ぶか、人が増えてくる前に展示を見るか……と掲示されている会場内マップに近寄る。
と。
「……………ん?」
マップを見上げる人影に、風見は目を細めた。
すらりとした立ち姿。キャップをかぶっていても、そのモデル並みの顔立ちとスタイルは到底隠しようがなく、周囲の客がひそひそと「公式レイヤーさん?」だの「取材に来たタレントじゃない?」とチラチラ気にしている。
いや、うん。「REIさん」とは確かに昨日チャットで周年イベントの話はしていたのだが。
これだけ広い会場だ。一度離れてしまえば、そうは顔を合わせることもあるまい。見つからないうちに……と風見はこそこそとその場を離れようとして、
「風見?」
あっさり、見つかった。
本名ーーー! と叫びかけたが、そもそもチケットは本名で申込済みなので別に問題はない。
「………おはようございます」
風見は観念して、こちらにやってくる降谷に挨拶した。
「君、どうしてここに」
降谷は風見をさりげなく人の少ない方に誘導しながら、そう尋ねてきた。
「……………友人が、急遽来られなくなったので、代わりにグッズを買いに」
風見は咄嗟にそう誤魔化したが、降谷は特に嘘と見破った素振りはなかった。
「ふ………安室さんは?」
「僕も似たような理由だ。ポアロの常連さんが、急に冠婚葬祭が入って来られなくなってな」
これはさすがに本当だろう。ゲームはしても、リアルイベントまでは降谷は参加するまい。
「ただ、こういうイベント会場は初めてだからな。君と会えて良かった」
「グッズ売場ならあっちです。ひとりごとの購入個数に制限かけてあるけど、人気グッズだと早くなくなりますよ」
「なるほど。……詳しいんだな」
「………友人から聞きました」
眼鏡を押し上げる手で顔を隠しながら、風見はそう付け足す。
「じゃあ行こうか」
そう言うと、降谷は手にした簡易マップを見ながら歩き出す。
こうなっては逃亡不可能。「友人の代わりに」と言ってしまった手前、降谷と別れるまでは展示や特設ステージは見られないが、仕方ない。
早くにグッズを買って、早く別れよう。
そう決めて、降谷に同行した風見は、この一時間後、会場で起きた不可解な事件に巻き込まれてしまいことをまだ知らない。