お題:ハロちゃんの肉球をふにふにする降風 上司の家に行ったら彼の愛犬が真っ先に飛び付いてきた。
「やあ、ワンちゃん。おはよう」
靴を脱いで上がってから、すぐにしゃがみこんで頭を撫でる。
「あれ。僕より先に迎えに出たのか」
肩にタオルを引っかけた降谷が、風見にまとわりつくハロを見て言った。
「おはようございます、降谷さん」
「おはよう、風見。朝からすまないな」
「いえ。登庁まではまだ余裕があるので大丈夫です」
そう言って、風見は持参した資料を降谷に差し出した。
「ありがとう。今日中に確認しておくよ」
「よろしくお願いします」
仕事の話をするふたりを、ハロはキョロキョロと見比べていたが、しばらくしてムムッと顔をしかめ、前足を風見の足に乗せた。
「どうしたんだい、ワンちゃん?」
ぽふぽふ、と足を叩いてくるハロに、風見が不思議そうに問いかける。
「はは。どうやら、君に構ってほしくて拗ねたな」
降谷はハロの様子を見て笑うと、受け取った資料をテーブルに置いた。
「登庁まで余裕があるんだろう? もう一仕事、して行かないか?」
「は?」
突然の降谷からの申し出に、風見はきょとんとした。
*
ハロが、気持ち良さそうに寝転がっている。
「そうそう。いいぞ、風見」
ニコニコとこちらを見守る降谷に、風見はやや緊張した面持ちで頷いた。
「肉球にも手入れが必要とは知りませんでした」
「ああ。犬や猫の肉球と言うと、可愛らしさや触った時の気持ち良さを記号化されているが、本来は体温調整や衝撃吸収に必要だからついている機関だ。それだけにきちんとケアしてやらないと」
淀みない降谷の説明を聞いて、風見はなるほど、と感心する。
マッサージを受けているハロはすっかりリラックスして、風見に身を任せている。その顔を見ていると、こちらまで何だか和やかな気持ちになってくる。
ハロも気持ち良さそうだが、マッサージしている風見も肉球のふにふにした感触が癖になりそうだ。
「降谷さん。これ、仕事と言うよりご褒美では?」
「はは。そんなに気に入ったか」
「犬猫を飼ったことがないものですから、こんなに気持ちいいとは知りませんでした」
「じゃあ、今日から君を専属マッサージ師に任命しようかな」
珍しくおどけて言った降谷だが、風見としては喜んで拝命したい。
そのあと、うとうとし出したハロにつられた風見が大きな欠伸をしてしまい、寝不足について説教を受けたのは、また別の話。