お題:お餅の話お題:お餅にまつわる何か
宅配の段ボール箱の重さに、もうそんな時期か……と、風見は顔をしかめた。
キッチンに置いてガムテープを外し、ふたを開ければそこにはぎっしりと白い餅が詰まっていた。
「うわぁ……」
やっぱりな、とうなだれながら、餅をひとつ手に取る。
年末になると、実家から餅が届く。
料理をしない息子でも餅なら焼くか煮るかすれば食べられるだろう、年末年始スーパーが閉まっていても大丈夫だろう、という親心は理解する。
理解はするが、嬉しくはない。
まず、年末年始にカレンダー通りに休める仕事ではない。
次に、ただ焼くだけ煮るだけでは、飽きやすい。
そして最後の問題。毎年、結局消費し切れなくてカビを生やす。
「どうするかな……」
はあ、とため息をついていた風見だが、ふと、自分と違って上手く消費できそうな相手を思い出した。
*
「結構多いな」
袋に入れた餅を見て、降谷は苦笑いを浮かべた。
「これでも半分です。いつも、食べきれずに困っていて……」
「なるほど。因みに、いつもはどんな食べ方を?」
降谷に尋ねられ、ええと、と風見は目を泳がせた。
「トースターで焼くか、インスタントのおすましに入れて雑煮っぽくするかですね」
「そればかりだと飽きるだろう」
「でも、他に思い当たらなくて。降谷さんならどう食べますか?」
風見が問いかけると、降谷は顎に手を当ててしばらく考え込む。
「そうだな。焼くだけでも、醤油や海苔やきなこで味を変えれば何パターンか楽しめる。汁物は雑煮もあればお汁粉もある。他には、ピザやグラタンにもできるし、春巻の皮でくるんで揚げても美味しい。元の味があまりないから、アレンジし放題だ」
「そりゃ、降谷さんから何でも作れますよね……」
そもそも、降谷なら飽きずに消費できるのではないかと思ったから、こうして半分持参したのだ。
と、そこまで考えたところで、ようやく風見は降谷がじっとこちらを見ていることに気がついた。
「すみません、ご迷惑でしたら持って帰ります」
「いや、そうじゃなくて。風見、チョコレート持っているか」
「は………?」
「持っているなら、出してくれ」
「……………はい」
何でバレたんだろう……としょげながら風見が隠し持っていた板チョコを取り出すと、降谷はそれと餅を手にしてキッチンに向かった。
風見がポカンとしていると、降谷がサッと戻ってきて言った。
「風見。ハロの散歩を頼む」
「え。……えっ? 今からですか?」
「今からだ。三十分帰ってこなくていいぞ」
「ええ………?」
唐突な上司命令に、風見は目を白黒させつつも、大人しく言われた通りにした。
「ただいま帰りました」
まだはしゃぐハロの足を拭いていると、降谷が玄関まで出てきた。
「おかえり。ちょうどできたところだ。ほら、風見」
そう言うなり、降谷は風見の口に何か投げ込んだ。
何だ!? と驚いた風見だったが、続けて口の中に広がった甘みに首をかしげた。
「チョコレート……?」
「ああ。君の板チョコと餅で、こんなのを作ってみた」
そう言って、降谷はサイコロ状に小さく切り、ココアパウダーをまぶしたお菓子を見せた。
「チョコ餅だ。餅はこんな風に、スイーツにも変身できる」
「なるほど……さすが降谷さん」
誤って食いついたりしないよう、ハロをしっかと抱き抱えて、しみじみ呟いた風見に、降谷はきっぱりと言い切る。
「これくらいは、ネットにも餅の大量消費レシピとしていくらでも載っている。君でも実践できそうなのもな」
「はい……すみません」
風見は、しょぼ……と眉を下げた。
が、降谷は、怒っているわけじゃない、と前置きして言った。
「だから、ええと……アレンジで色々試すから、君も食べるのを付き合ってくれ」
「えっ、いいんですか? ご馳走になっても」
「元は君がもらった餅だからな」
「では遠慮なく、いつでもいただきます。ありがとうございます」
嬉しげに言った風見を見て、降谷はほんのり口元を緩めて軽いため息をついた。
全く、これだから作り甲斐がありすぎて、楽しいけど困るのだ。