お題:小さな喧嘩をして、いつのまにかイチャイチャ仲直りしてる降風 まとわりつく女の強い香水に、内心辟易する。
情報を引き出す為だと己に言い聞かせ、完璧な笑顔を貼り付け、「バーボン」はチラリと少し離れた位置に目を向けた。
長身でスリムなバーテンダーと一瞬目が合うが、すぐに逸らされる。
と。
「あら。どうしたの? こわい顔をして」
「いえ、別に何も」
かぶりを振って返しながら、バーボンは女ににこりと笑いかけた。
*
酔ってしまった女をタクシーに乗せ、運転手に釣りは要らないと告げて金を渡す。
必要な情報は引き出せたから、これであの女に用はない。女の連絡先ごと全てのデータを削除し、プリペイド式のスマートフォンをゴミ箱に放り捨てた。
バーボンはそのまま駐車場に向かい、停めておいた愛車に乗り込む。
「お疲れ様です」
「ああ。君もご苦労だったな」
助手席に座るバーテンダー姿の部下に答え、降谷は車を発進させた。
「で。何で無視した?」
運転しながら降谷が尋ねると、風見は眼鏡をかけながら、じっと降谷を見つめた。オールバックにしていた髪をわしわしとかき乱して、いつもの顔に戻す。
「情報入手の邪魔になるかと思いまして」
小憎らしいくらい淡々と答えた風見に、降谷はムスリと唇を歪めた。
「態度で察しろよ。あんなにしなだれかかられて、僕が嫌がっているのがわからなかったか?」
「わかりませんでした。スタイル抜群の美女でしたし、むしろ嬉しいかと」
「はあ?」
冷ややかすぎる風見の声に、降谷はムッとして。
「……まさか、嫉妬していたのか?」
ピタ、と風見の動きが止まる。
表情は変わらない。だが、わずかに特徴的な眉が動いた。
「ふうん、そうか。妬いていたのか。存外可愛いな、君も」
「は? 何で自分が嫉妬するんですか。単なるハニトラ相手に」
「なら別に助け船出してくれたら良かっただろ。それに、さっきの言い方。棘があったぞ」
ぐ、と風見が唇を噛む。
もうひと押し、と降谷が攻勢を強めようとした時、風見が言った。
「今日は随分と感情的ですね。あなたこそ、俺に嫉妬してほしかったんですか?」
渾身の一撃である。
どうだ、と少し胸を張りつつ、風見は降谷がどう出るかと身構えた。
が。
「そんなの、妬いてほしいに決まっているだろう」
あっさりと、潔く降谷が認める。
風見はポカンと口を開けて、一度深呼吸をして、何か言い返そうとして。
「………ずるいですよ」
真っ赤な顔を俯けて、やっとの想いで一言だけ搾り出す。
降谷はニヤニヤと笑い、路肩に車を停めると風見の手を握った。
「さて。これで今日の仕事は終わりだが、君はどうする? 何なら家まで送るが」
「……………そこで俺に選ばせるんですか?」
「もちろん」
そう言って、降谷は笑う。安室の甘い笑顔でも、バーボンの怪しい笑顔でもない。
降谷零が獲物を見つけた時の、不敵な笑み。
風見は観念すると、返答代わりに、噛みつくようなキスをした。