短髪杉と阿国「高杉様、いつまであの方に隠しておくおつもりで?」
阿国が問う。
「隠す?誰に、何を」
ごほ、と咳を1つして、高杉が阿国の問いに問いを返した。
「もう1人の高杉様に、貴方の身体のことを」
「いつまでも」
今度こそ阿国の問い対するに答えを口にして、高杉は目を閉じた。背もたれにして寄りかかっていた桜の木の根元にしゃがみ込むと、横になり背を丸める。こほ、こほ、と時折肩を小さく揺らしながらうとうとしている様子の高杉を、阿国が見下ろす。陽を背に立つ阿国の影が、高杉の上に落ちた。
「いっそ私が伝えてしまいましょうか」
「好きにしたらいいさ、僕が死んだ後でならね」
「何故今言わないんです」
「言ってどうなる」
「何か解決方法を一緒に探せるやも」
「別に僕はそんなもの探してない」
「後で知ったらあの方はどう思うでしょう」
「さあ?別に気にしないんじゃないか」
「本当にそう思ってます?」
「ああ」
「でしたら、先に言ってしまっても構わないのでは」
「なんで」
「後で知って気にしないのなら、今知ったところで変わらないでしょう」
「……気にしない、かもしれないが」
「が?」
「万が一にもあいつの顔がそれで曇るのを僕は見たくない」
「……」
「心配なんてされたくない。気を遣われるのはごめんだ。僕はただ、あいつと過ごせるこの時を、何の憂慮も無く楽しみたい」
阿国が溜息をつく。
「意地っ張りですねえ、全く」
「僕がそうだって、とっくに知ってたろ」
「ええ、まあ」
阿国が、高杉の頭の隣に座る。
「いい景色ですねえ」
伸びをしながら、眼下に広がる野を眺めて阿国が話す。
「そうだろう」
目を閉じたまま、高杉は微かに笑んだ。
静かな風が、木々を揺らして春色の花弁を舞わせている。