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    16natuki_mirm

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    16natuki_mirm

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    8/27の悪学で無配にしたもの。うぶうぶなさとあすが遊園地デートするお話。
    「Paradise on sea!」の、佐藤くん視点のサイドストーリーです。
    Paradise~の裏話的なお話なので、どちらから読んでも大丈夫なようにはなっていますが、Paradise~から読んで頂く想定で書いています。

    #イルアズ
    iluaz.
    #さとあす
    #IF人間界

    きみのいろをさがす デートである。
     やっとこぎ着けた、念願の、紛れもないデートである。
     編集者と作家としてだけの関係でしか無かった入間と有栖が、プライベートでも食事に行くようになったのはしばらく前のことだ。それから、仕事の取引相手と行くには随分とムードのある飲食店で、酒を交えた食事を重ねているのだから、これはもうほぼ、付き合っていると言っていい筈だ。
     明確に言葉にしたわけでは無いけれど、中高生ではあるまいし、社会人になってわざわざ「付き合ってください!」もないだろう――と、「編集者」と呼ばれる人種の中で過ごしている入間は考えている。
     はじめこそ、売れっ子作家と新人編集者という立場上、有栖のことは、ちょっと怖い、なんて思っていた入間だったが、あっという間にその、キツい言葉の裏に隠れた――もとい、全く隠し切れていない――本心とか、ふとした瞬間に見せる幼さの残る笑顔とか、仕事に妥協をしない姿勢とか、それから、ちょっとだけ、美味しいものをたくさん食べさせてくれるところとか、に夢中になった。夕方頃に校正用の試し刷りを持って行ったときなんか、分かりやすくそわそわと何かを期待するように落ち着かないそぶりを見せて、仕事が片付いた後食事に誘えば嬉しそうに承諾してくれる――口先では、仕方ないから付き合ってやる、なんて言うけれど、本心と裏腹のことを言うとき、必ず話し始めの一言を言い淀む、本人は気付いていないらしい癖に、入間はちゃんと気付いている――ところなんか、たまらなく可愛い。
     しかし、二人がそんな関係になって久しいというのに、一向に食事以外のところへ出掛けようという話にも、食事の後、もう少しどこかで、なんて話にもなったことがない。やっと二人で出掛けようという話になっても、有栖はすぐに取材を絡めてしまう。
     そんな中、やっとのことで、はっきりと「デート」という名目で、二人きりで、水族館と遊園地の合わさったようなアクアリゾートへ遊びに行こうということになったのだ。これはもう、逃すわけには行かない大チャンスである。
     というわけで入間は、行き先のアクアリゾートについて入念に下調べをした。二人が十分楽しめるルートを検討し、食事を食べる店もいくつか候補を決めておいた。それから、思ったよりも移動に時間が掛かりそうだったので、もしかしたら、日頃運動不足が祟っている有栖のこと、丸一日遊んだ後は疲れてしまうかもしれない、という心配半分――下心半分――、こっそり併設のホテルも予約することにした。宿泊費には二日分のパスポートがセットになっていたので、うまくことが運べば、二日とも遊べるかもしれない。
     それから、有栖の担当編集者という立場を大いに悪用して、締切を調整し、他の仕事が入らないように手回しし、土曜日日曜日二日間の有栖のスケジュールを空けた。もとより有栖から「私のスケジュールはキミ次第」と言われている。互いに公私混同上等である。編集長にバレたら大目玉だろうが。
     最初からホテルを取ってあるから一泊二日で、と提案することは、有栖の普段の言動を思うとなんだか憚られるような気がしたので、とりあえずホテルを取ってあることは伏せておいた。土曜日の夜、有栖が疲れたと言い出すか、或いは、うんと上手くことが運んだならば活用して、そうでなかったら、まあ、諦めるか、一人で寂しく泊まるかすればいいだろう、と。
     宿泊者向けのパスポートの受け取りは、滞在初日の開園時から、ホテルのカウンターで、とのことだったので、有栖と合流してから取りに行ったのではホテルを取ってあることがバレてしまう。そのため、集合時間を少し遅らせて、入間は開園と共にダッシュでホテルへ行ってパスポートを受け取り、駅まで戻って有栖と合流することにしたのだった。
     計画は実に上手く運んで、晴れて迎えた今日この土曜日、無事有栖にホテルの件はバレることなく、二人は広大なアクアリゾート施設を満喫している。



    「先生、宝石探し、していきますか?」
     先ほどから前を何度か通ったその施設の前で入間は足を止めた。通りがかる度に有栖が興味深そうに看板を見ているのに気付いて。
    「い、いや……別に、やりたいわけでは」
     有栖は眼鏡のブリッジをくいと人差し指で持ち上げながらついと看板から視線を逸らした。が、入間にはその真意などお見通しである。
    「いいからいいから、折角なんだしやってみましょうよ!」
     有栖の背中をぐいぐいと押して、簡易な柵で囲われた広場のような施設の、柵の切れ目へと有栖を連れていく。
     係員に料金を払うと、お椀を二つ渡されて、柵の中へと案内された。
     柵の中には、大人の腰の高さほどの所に、金属で出来た、細長いタライ、というか、水槽と言えばいいのか、とにかく、水を溜められるようになっている、二人が両手をいっぱいに広げて並んだくらいの長さと、有栖の肩幅くらいの幅の、長方形のプールのようなものが、コの字に三つ設置されていた。
     中にはほどほどの高さまで水が満たしてあり、そこには砂が分厚く敷き詰められている。その砂の中に天然石が隠してあるから、それをお椀で掬って探せと、そういうことのようだ。二つ渡されたのは、一つは砂を救う用で、もう一つは見つけた天然石を避けておく用らしい。
     ざっと説明を受け、タイマースタートの合図と共に、二人は砂の中へとお椀を持った手を突っ込んだ。
    「天然石って、どんな感じなんでしょうね。うーん……これかなぁ……」
    「……砂金を探しているんじゃないんだ、そんな砂粒みたいな大きさじゃない。こういうのは、明確に大きいのが入っているものだ……ほら、こんな風に」
     お椀に取った砂粒を一つ一つ数える勢いでチマチマと掻き分けていた入間の前に、有栖の白い手がにゅうと伸びてくる。長袖の上着は珍しくたくし上げられ、透き通る様な白い素肌が見えている。その手の上に載せられた、親指の先ほどの大きな黒い石なんかより、そちらの方がよっぽど綺麗に見えた。
    「わ、ほんとだ、おっきいんですね、天然石って」
    「いや、だから、アトラクションとして楽しめるよう、大きな粒がわざわざ入れてあるんだ。……ほら、またあった」
     有栖は手際よく砂を掻き分けて、その中からまた大きめの石をつまみ上げた。今度は透明の石の中に、金色の欠片が見える。
    「ルチルクオーツだな。悪くない」
    「その石、ルチルクオーツって言うんですか?」
    「ああ。水晶の中に鉱物が入り込んだ珍しいものだ。まあ、珍しいといったって、これは十分五百円の遊びの景品に出来る程度のクオリティのものだが」
    「先生、詳しいんですね!」
    「……作品の参考に調べたことがあるだけだ。キミも編集者なら、これくらいのことは知っていてほしいんだがな」
    「あっ……すみません。どうもこういう、実生活に直結しないものって、あんまり馴染みがなくて……」
     思わぬ角度から飛んできた有栖のお小言に、入間は勉強しますねと苦笑いを浮かべながら、手にしたお椀の中を砂で満たした。それから有栖に倣って少しずつ砂を水槽の中に返していくと、砂と砂の隙間からひょっこりと、明らかに異質な塊が顔を出した。
    「あっ、ありましたよ!」
     思わずはしゃいだ声を上げながら、見つけたそれをつまみ上げる。すると、出てきたのは、ちゅるんと角の取れた、透明感のある桜色の石だった。
     何と言う名前の石なのかは分からなかったけれど、可愛らしい石だ。
    「ほう、ローズクオーツか」
    「これもクオーツなんですか?」
     くおーつ、という名前は先ほども聞いた気がして首を傾げると、有栖はちょっと満足そうな表情で頷いた。
    「日本語で言えば、紅水晶。ピンク色をした水晶をそう呼ぶ」
    「へえー、ローズクオーツかあ。……なんか、先生みたいな石ですね」
     ふふっ、と口元に笑みを浮かべながら、入間は桜色の石を持った手を、有栖の方へと伸ばした。入間から見える有栖の顔の横へと並べてみる。ちょっと澄ました様子とか、薄く色づいた頬の色とか、つるりとした質感とか、どことなく似ているように見えた。
    「もう少し、高貴な石に比肩されたいものだがな」
    「……あっ、す、すみません、宝石の価値とかあんまり知らなくて……」
    「冗談だ」
     有栖はニヤリと笑って、それからまた砂の中へと手を沈めた。
     それから二人は、何度か場所を移動しながら、いくつかの石を掘り出した。アメジストに翡翠、タイガーアイ、それから、有栖にも正体の分からなかった色々の石。
     一つ見つけるごとに思わず子どもみたいに歓声を上げると、有栖が「しょうがないな」とでも言いたげな笑顔でこちらを見る。一方で有栖は至って静かに掘っていた。どうも途中から、何か探したい石が決まったらしく、何かを見つけてもどこか残念そうな顔でお椀に入れたり、或いは気に入らなかったらしいものはそっと砂の中に戻したりしている。
    「先生、何か探してるのがあるんですか? 僕も探します!」
    「……ああいや……探していると言うほどではないんだが……ラピスラズリが入っているそうだから、どうせなら見つけられたらと思ってな……」
    「らぴすらずり?」
     聞き慣れない名前に、入間は首を傾げる。どんな石なのか有栖に説明を求めようとした時、終了の合図が鳴った。
    「……見つからなかったな。まあ、仕方が無い……」
     引き上げるとしよう、という有栖は、すっかり諦めた様子ではあるけれど、視線はまだ諦めがつかないという様子で水面を見つめている。のたのたとした足取りで出入り口の方へと戻る有栖の後を追って、受付へ向かった入間は鞄から財布を取り出して
    「もう一回お願いします!」
    と千円札を差し出した。
    「なっ、も、もういい、別に、どうしても欲しかった訳では」
    「そんなこと言って、先生、残念そうに水面見てたじゃないですか、僕も一緒に探しますんで!」
     幸い他に待っている人も居らず、二人のやりとりを微笑ましげに見ていた店員さんの案内で、二人は水辺へとUターンした。
    「それで、先生が探してるらぴ……なんとかって、どんな石ですか?」
    「……いい、一人で探す」
    「そうですか? 手助けが必要だったらいつでも言ってくださいね!」
     一人で見つけたいのは本心らしい。入間は有栖から少し距離を取って様子を見ながら、折角なのでお椀で砂の中を掬ってみる。またいくつかの石が見つかったが、有栖のお目当てではなかったようだ。
     時間はあっという間に過ぎていき、入間が二回目の延長をお願いしようかと、鞄から財布を出そうとしたときだった。
    「……あった……」
     有栖の小さな声がして、入間は弾かれた様に顔を上げた。
    「あったぞ」
     有栖は、歓声を上げるというほどの大声ではないが、ぱっと花の咲くような笑顔を浮かべ、入間の方へと顔を向けている。そのどこか得意げな様子が可愛くて、入間も釣られて笑顔を浮かべる。
    「やりましたね! どんな石を探してたんですか?」
     数歩有栖の方へと近づいて、その白い手の上へと視線を落とす。その上に乗っていたのは、青を基調に、白と黒が少しずつ混じり合って斑模様になった、小指の先ほどの小さな石だった。
    「これが、ら…………えっと……」
    「ラピスラズリ……瑠璃とも呼ぶな。まあ、これは少々混じり物の多い個体のようだが」
    「へぇー……綺麗な青ですね」
     入間がじっと有栖の手のひらの上の石を見つめていると、有栖は流れるような手つきで一度その石を握り込み、軽い動きで手首を返すと、その指先にラピスラズリを摘まんでいた。先ほど入間がそうしたように、青石を持った指先をこちらへと伸ばす。
    「……まるで、キミのようだと思ってな」
     そう言うと有栖は、子どもがイタズラに成功したときのような顔で得意げに笑った。



     ――それから二人は丸一日リゾートを満喫した。
     案の定、帰らねばならない時間になって、有栖が足が痛いと弱音を吐いて、何万かかろうがタクシーで帰るなどと言い出すものだから、ごく自然にホテルへと案内することが出来た。
     が、部屋がダブルだったことは有栖には想定外だったらしく、入間はショックと共に一夜を過ごす事になるのだが――それはまた、別の話。

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    16natuki_mirm

    DONE1/28の悪学で無配にしたセパソイです。イルアズしてるイルマくんに片思い?しているソイソイと、そんなソイソイに片思いしているセパくんによる、いつかセパソイになるセパソイ。
    【セパソイ】あなたと、あなたのすきなひとのために「先輩」
    「ぅわっ!」
     突然後ろから声を掛けられて、ソイは思わず羽を羽ばたかせた。
     ちょっぴり地面から離れた両足が地面に戻って来てから振り向くと、そこには後輩であるセパータの姿があった。いや、振り向く前からその影の大きさと声でなんとなく正体は察していたのだけれど。
    「……驚かせましたか」
    「……うん、結構」
    「すみません。先輩、自分が消えるのは上手いのに、僕の気配には気づかないんですね」
     セパータが意外そうな顔を浮かべる。それに少しばかり矜持を傷付けられたソイは、ふいっと顔を背けると、手にしていた品物へと視線を戻した。
    「……自分の気配消せるのと、他人の気配に気づくが上手いのは別でしょ。……いやまあ、確かにね、気配消してる相手を見付けるのも上手くないと、家族誰も見つからなくなるけどうち。だから普通の悪魔よりは上手いつもりだけど、今はちょっと、こっちに集中しすぎてただけ」
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     明確に言葉にしたわけでは無いけれど、中高生ではあるまいし、社会人になってわざわざ「付き合ってください!」もないだろう――と、「編集者」と呼ばれる人種の中で過ごしている入間は考えている。
     はじめこそ、売れっ子作家と新人編集者という立場上、有栖のことは、ちょっと怖い、なんて思っていた入間だったが、あっという間にその、キツい言葉の裏に隠れた――もとい、全く隠し切れていない――本心とか、ふとした瞬間に見せる幼さの残る笑顔とか、仕事に妥協をしない姿勢とか、それから、ちょっとだけ、美味しいものをたくさん食べさせてくれるところとか、に夢中になった。夕方頃に校正用の試し刷りを持って行ったときなんか、分かりやすくそわそわと何かを期待するように落ち着かないそぶりを見せて、仕事が片付いた後食事に誘えば嬉しそうに承諾してくれる――口先では、仕方ないから付き合ってやる、なんて言うけれど、本心と裏腹のことを言うとき、必ず話し始めの一言を言い淀む、本人は気付いていないらしい癖に、入間はちゃんと気付いている――ところなんか、たまらなく可愛い。
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