Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    16natuki_mirm

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 52

    16natuki_mirm

    ☆quiet follow

    ナルシスノワールするイルアズのお話のリリーちゃん視点。
    何でも許せる人向けなので、心配な方は「ナルシスノワール」で検索してパロ元の歌詞をご覧頂ければ……
    いつか長編にしたいんですよ。

    #イルアズ
    iluaz.
    #メリバ
    meliva

    【イルアズ】さいわいをさがす 家は、もうずっと暗いままだ。
     あの日から、ずっと。
    「只今戻りました、お母様」
     扉の閉まったままの部屋に声を掛けても、誰も何も答えない。広くて空っぽの屋敷に、私の声が空しく響くだけ。
    「……おかえり、リリー」
     この家でたった一人、姉のビオレはなんとか会話に応じてくれる。でもそれも、いつもほんの一言か二言で。母の部屋の前ですれ違ったけれど、ビオレはそのままふらりとどこかへ行ってしまった。
     お父様も、もう長いこと帰ってこない。
     ずっと昔、まだ私がほんの小さな子どもだったころは、誰も彼もこんな風じゃなかった。
     大きな屋敷には沢山の使用人がいて、いつも暖かな笑顔に溢れていた。庭には薔薇が咲いて、私もビオレもいつもそこを駆け回っていた。
     そう、あの日までは。

     ――アリス兄様が、この家から消えてしまった、あの日までは。

     アリス兄様は、私達の、いや、家族みんなの自慢だった。
     お母様の血を濃く継いだ真っ白な肌に、大きな瞳に長い睫、整った顔。身長だってすらりと高くて、成績は学校で一番で、特別な学級にだって選ばれていた。気高く、そして優しくいらっしゃって、いつだって私達のことに心を砕いてくれていた。私達は、薔薇の美しいあのお庭で、兄様にたくさん遊んでもらった。いつだったか、転んで泣いた私を部屋まで背負って運んでくれた、優しい兄様。
     ある日、兄様が家にお友達を連れてきた。同じ学級の方と紹介されたそのひとは、イルマ、と名乗った。
     アリス兄様は、そのお友達のことを「イルマ様」と呼んで慕っていた。あの兄様が――誇り高く気高い兄様が――まるで召し使いのように傅こうとするその姿が受け入れがたくて、おまけに、兄様は「イルマ様」が来ているときは私達と遊んでくれないものだから、私もビオレも最初は彼のことが大嫌いだった。
     けれど、私は少しずつ、彼に心を開いていった。兄様よりずっと小さいのに、元気よく動き回る身体。きらきらと無邪気な笑顔。それになによりも、アリス兄様と同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に、私達に優しく声を掛けてくれる姿。
     アリス兄様は、兄様とイルマさんが一緒に居るときに私達が仲間に入ろうとするのを嫌がったけれど、イルマさんはいつだって優しく迎えてくれた。
     いつの間にか、私は彼のことが兄様と同じくらい好きになっていた。
     あれが「恋」と呼べる感情だったのかは、今でも分からない。ただの憧れだったのかもしれない。けれど、とにかく、私はイルマさんに振り向いて欲しくて、その視界に入りたくて、何くれと二人のあとをついて回った。
     ビオレは、イルマさんが来ると部屋に籠もってしまうことが多かったし、彼に関わるのは止しなさいと言われ続けたけれど、私はなんとか二人の遊びに混ぜて欲しくて必死だったから、ビオレがどうしてそんな風に言ったのかなんて考えもしなかった。ただ、ビオレはイルマさんに兄様を取られて悔しいんだわ、と思っていただけで。
     でもきっと、ビオレはとっくに気付いていたのだと思う。
     彼の目には、はじめから兄様しか映っていないんだってことに。
     私がやっとそのことに気付いたのは、ある日、二人が入って行ったお部屋の扉が細く開いたままになっているのに気がついた時のことだった。いつもならきちんとノックをしてから開けるのに、その日は、ドアが開いていたから。
     その隙間から、見えてしまったのだ。
     まるで恋人同士のように抱きしめあう、二人の姿が。
     転んだところを抱き留めただけ、とか、物語の中の男女によくあるような勘違いではなかった。カーテンの隙間から差し込む西日に明々と照らされた二人は、ぴたりと一つに寄り添って、まるで彫像のようにずっと長いことそのまま動かなかったから。
     それから、私には聞こえないくらいの小さな声で何かを囁きあった後、ゆっくりと唇を重ねたのだ。
     あまりの出来事に、私はそのまま踵を返して逃げ出すことしか出来なかった。
     「ああ神様、どうかあの二人のことを見つけないで!」と、心の中で必死に必死に祈りながら。
     神に仕えるべき私たち天使が、その教えに背くことなど、絶対、絶対に許されない。きっと二人が神様に、いいえ、私以外のほかの誰かに見つかってしまったら――その後のことなんて、考えたくもない。
     本当なら、背徳を見つけてしまった私は、正しく神の御元に報告しなくてはいけない。けれど、大好きな兄様と、大好きなイルマさんが、ああして互いを慈しんでいることの、一体何が罪だと言うのだろう。互いにそこに在ることが当たり前のように寄り添っている姿は、西日に照らされて絵画のようにその輪郭を浮かび上がらせていたあのひとときは、あんなにも美しかったのに――

     それから何日か経った日のことだった。
     兄様はお父様と酷い喧嘩をして、そのまま家を出て行った。
     少ない荷物を手に、家を出て行こうとする兄様を見送ったのは私だけで。引き留めるだけの力は、私にはなかった。最後にせめて「どうか、これからも兄様の上に幸いがありますように」と告げたら、兄様は優しく、けれど、悲しそうに笑って、私の頭を撫でてくれた。「リリーの上にも」と答えてくれたその声が、私が聞いた最後の兄様の声だった。
     遠くなっていく兄様の背中の向こう、遙か道の先に見えた小さな影は、きっとイルマさんだった。

     その日から、二人の姿は街から消えた。

     あの家からは背徳が出たらしい、という噂は、小さな街の中にあっという間に広がった。
     お母様はすっかり正体を失ってしまって、お部屋から出て来なくなった。
     お父様は仕事をなくし、隣町まで働きに出ていてほとんど帰ってこない。
     使用人たちはみんな辞めていった。
     ビオレもすっかり塞ぎ込んで、家でお母様のお世話をしなくちゃと云って、外に出かけなくなった。
     私は。
     私だけは、胸を張った。だって、兄様は背徳など犯していないのだから。誰かと誰かが愛し合うことは素晴らしいことだと神様は説くのだから。
     ……お父様に逆らう、というのも、充分に背徳だと云われたらそうかもしれないから、その分だけは慎ましくしたけれど。
     そうして、気がつけば何年も何年も経って、私も学校を卒業する歳になった。
     神の慈悲の名の下に、学校を放逐されることはなかった。級友には避けられ続けたけれど、私は神の教えを学ぶことを辞めなかった。兄様たちを神が許してくださる、どうにかその理由を見つけたかったから。そうすればきっと、兄様たちはここに帰ってきてくれると信じて。
     でも、学べば学ぶほどに、神の教えの頑なさを知るばかり。卒業後のことは、まだ何も決まっていない。たぶんこの街に仕事はないだろう。
     ある夜、いつものようにビオレと二人で静かな食卓を囲みながら、私はそっと切り出した。
    「ねえビオレ、私ね、家を出ようと思うの」
    「……そう」
    「遠くの街で、仕事を探すわ。どれだけお金をもらえるかはわからないけれど、必ず仕送りするから、お母様をお願いしてもいいかしら」
     ビオレは黙ったままで小さく頷いた。行かないで、と言われたらどうしようと思っていたから、私は少しホッとして、気がゆるんでしまった。
     そう、気がゆるんでしまったとしか言いようがない。
    「……遠くの街まで行けば、もしかしたら、どこかでアリス兄様に会えるかもしれないし」
     兄様の名前は、今やこの家の中では絶対的なタブーだった。でも、今部屋にいるのはビオレだけだし、ビオレは私の決心を受け入れてくれたし、大丈夫だろうって。
     でも、それは間違いだった。
    「リリーの馬鹿ッ! 何も、何も知らないくせに!」
     ビオレは急に顔色を変えて、声を荒らげ、机を叩いた。すっかり青ざめた唇が、ぶるぶると震えている。握りしめた拳が、机の上で所在なく固まっていた。
    「ねえビオレ、ビオレッタ、落ち着いて、あなたは何を知っているというの、私が何を知らないというの。伝えてくれなければわからないわ」
    「ああ、馬鹿なリリー。あなたは小さすぎたのよ。真実を知るには幼すぎたんだわ。だから何も知らないままに、ぬくぬくと育ったんだわ。私も何も知らないままで居られたなら良かったのに!」
    「ビオレ、ねえビオレ、落ち着いて。私はもう子供じゃないわ。真実を受け止めきれないほど幼くはないわ。だから教えて頂戴、ビオレが何を知っているのか」
     激高するビオレの手を取って、静かな声で問いかける。けれど、ビオレは光のない瞳で私をじろりと見上げて、まるであざ笑うように口の端を歪める。
    「本当に? 本当に平気でいられるというの? あの男はね、ああ、もう兄様と呼ぶのも悍ましい、あの男はね、決して許されない背徳を犯したのよ」
     ビオレの言葉は予想通りのものだった。だから、知っているわ、それの何がいけなかったの、と、言い返そうとした。
     でも、それより早くビオレは続けた。
    「色欲に魅入られて、二人で泉に身を投げたの。堕天したのよ。もう魂すらも、どこにも居ないんだわ!」
     叫ぶように言うと、ビオレはそれきり黙ってしまった。
     私にはただ、嘘でしょう、と乾いた声で答えることしか出来なかった。
     兄様は幸いを探しに行ったのだと、きっとどこかで、神様に見つからないどこかで、必ずイルマさんとふたり、ひっそりと幸せに暮らしているのだと、ずっと信じていたのに。
    「二人が姿を消してから、ほんの何日か後だったわ。泉で亡骸が見つかったのよ。分かるでしょうリリー、自ら命を絶つなんて、一番重い背徳だわ。もう二度と魂は神の寵愛を得られないで、魔界に墜ちるのよ。その証拠に、ふたりの亡骸の翼は、もうすっかり黒く朽ちていた! そんなこと、まだ幼かったあなたに教えるのは酷すぎるって、お母様もお父様も口をつぐんだのよ。ああ、私もそんなこと、知らずに居たかったのに!」
     ああ、とその場に崩れ落ちたビオレを置いて、私は部屋を飛び出した。頭の中が焼け付くように熱くて、痛くて、真っ白で、ただ衝動のままに逃げ出した。
     静まりかえった屋敷の中に、足音だけが響く。足音は幾重にも反響して、真っ白な頭の中でうわんうわんと鳴る。
     行く宛などなかった。足が動くまま駆けて、駆けて、たどり着いたのは町外れの泉だった。
     ビオレの話が本当なのだとしたら、兄様たちはここに身を投げたのだ。
     そんなこと信じたくは無かったけれど、でも、それならば、お母様の憔悴の様子、辞めていった使用人たち、町に仕事さえ失ったお父様、その全ての出来事に――同性愛は確かに背徳だけれど、それでも、そんな仕打ちを受けるほどのことだろうかと思っていたことの全てに――納得がいく。堕天は、何よりも重い罪であり罰、最も許されざる背徳だから。
     泉はそんな悲劇が起きたことなどすっかり忘れてしまったように、木漏れ日を受けてキラキラと光る水面がただ静かに揺れているだけだった。ほとりには色とりどりの花が咲いて、穏やかな風に身を委ねている。
     柔らかな下生えを踏み分けながら、水辺へと近付いてみる。そこに兄様の魂など残っているわけがないと分かっていても、それでも、微かな面影を求めて。
     すると、かさり、とつま先に何か、草花以外のものが触れる音がした。しゃがみ込んで草をかき分けてみると、雨風にさらされてボロボロになった封筒を踏んでいた。
     もしかして、と思って、震える手でその封筒を取り上げる。長い間そこで忘れられていたのだろう封筒は、泥に塗れ、酷く波打ち、触れれば崩れていってしまいそうに見えたけれど、しっかりと閉じられていた封を慎重に、慎重に開けてみれば、中の便箋は封筒に守られていたためか、封筒よりは少し元の面影を残していた。
     何枚か重なった便箋をそっと開くと、そこには懐かしい兄様の文字で、細かな文字が綴られていた。

     親愛なるリリー。

     書き出しの一行目にどきりとする。思わず封筒を見ると、泥汚れの下に微かに、私の名前が見て取れる。どうして私に、と思いながら、私は便箋に綴られた文字を目で追い始める――



     親愛なるリリー
     この手紙が、お前の元に届くことを祈っている。
     ただ一人、私たちの幸いを願ってくれたお前の元へ。まだ幼いお前のことだから、今はまだ難しい文字は読めないかもしれないが、きっといつか読めるようになるときが来たら、本当のことを知っていてほしいと思う。
     とはいえ私たちには、全ての出来事を書き残しておく程の時間は、もう残されていない。手短になるよう善処しよう。
     イルマ様とは、神学校の入学式で出会った。神の法を守ることしか知らず、頑なであった私に、イルマ様は「愛」という感情を与えてくださった。隣人を愛し、慈しみ、隣人の幸いのためにならば、時に法に背くことも厭わない、イルマ様のその姿勢は、私にとってあまりにも衝撃的であった。
     しかし、それは神の大切な教えの一端でもあるはずだ。神は、我々の、そして人々の幸いをこそ大切にするのだと説くのだから。幸いを成すために法があるのであって、法を守ることが幸いなのではない。イルマ様は、そのことに気付かせてくださった。
     それ以後、我々は親しくなり、互いの幸いを願った。
     私の幸いはイルマ様の隣にあった。その事に気付くまでにそう長い時間は要さなかったし、私がその事に気付く頃には、イルマ様もまた、その幸いを私の隣に見いだして下さった。
     ああ、だからリリー、お前には謝らなくてはならない。私たちが二人で過ごしていたとき、私がお前を邪険にしてしまったことを。イルマ様がお前に取られてしまってはたまらないと思っていたのだ。どうか子供じみた愚考を笑ってくれ。それでも私の幸いを願ってくれたリリーに、どうかこの先の幸いがありますように。私たちに残されたただ一つの道が、お前の未来に影を落とすことが無いか、それだけが気掛かりだ。
     神の法のもとには、どうやら私たちの幸いはないようだ。
     最後まで探し求めるつもりでいたが、イルマ様との関係を父上に知られてしまった。私に残された道は最早、背徳を悔い改めたと告解することしかないが、どうして自分の心に嘘を吐けよう。イルマ様に全てを話し、二人で町を出ることにしたが、それすら町の者達に勘付かれてしまった。町から背徳を出すわけにはいかぬと追い詰められ、私たちは神の法のもとでは幸いを見出すことは出来ぬと知った。
     私たちは神の手を逃れ、その法の及ばぬ世界へ、幸いを求めに行こうと思う。
     だからリリー、どうか悲しまずにいてくれ。この翼の、黒く染まったのを見たとしても。それは私たちにとっての福音であるから。それはまさしく、私たちが神の手を逃れられた証なのだから。
     どうかリリーの上に、これからも幸いがありますように。



     アリス、と見覚えのあるサインで手紙は結ばれていた。
     ああ、と嗚咽が喉から漏れる。なんということだろうか。
     私にはただ、目蓋を下ろすことしか出来なかった。ビオレの云っていた、「二人の翼はすっかり黒く染まっていた」という一言が、私の目の前をあんなにも暗く閉ざしてしまった一言が、今はただ、私の上にただひとつ燦然と輝く希望に思えた。二人はきっと、違いなくその願いを遂げたのだ。神の手を逃れて、幸いを探しに行ったのだ。だからそう、何一つ、何一つ悲しくなんて無いはずだ。
     だのにどうして、涙が、止まらないのだろう。
     或いはそれは、世界への絶望だったのかもしれない。
     あの高潔な兄様が、そして、あの優しくひたむきであったイルマさんが、ただ、互いを想い合ってしまったというただそれだけで、生きていくことすら赦されなかった、こんな不完全な世界への。
     もう、私に神の徒たる資格はない、いや、そんなもの、こちらから願い下げだ!
     ああどうか、私も兄様たちの求めた幸いにたどり着けますように。
     私の幸いも、きっと神の手から逃れた先の、そこにあるのだから。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖👏👏👏😭😭😭😭😭😭👏👏👏👏👏👏👏👏😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    16natuki_mirm

    DONE1/28の悪学で無配にしたセパソイです。イルアズしてるイルマくんに片思い?しているソイソイと、そんなソイソイに片思いしているセパくんによる、いつかセパソイになるセパソイ。
    【セパソイ】あなたと、あなたのすきなひとのために「先輩」
    「ぅわっ!」
     突然後ろから声を掛けられて、ソイは思わず羽を羽ばたかせた。
     ちょっぴり地面から離れた両足が地面に戻って来てから振り向くと、そこには後輩であるセパータの姿があった。いや、振り向く前からその影の大きさと声でなんとなく正体は察していたのだけれど。
    「……驚かせましたか」
    「……うん、結構」
    「すみません。先輩、自分が消えるのは上手いのに、僕の気配には気づかないんですね」
     セパータが意外そうな顔を浮かべる。それに少しばかり矜持を傷付けられたソイは、ふいっと顔を背けると、手にしていた品物へと視線を戻した。
    「……自分の気配消せるのと、他人の気配に気づくが上手いのは別でしょ。……いやまあ、確かにね、気配消してる相手を見付けるのも上手くないと、家族誰も見つからなくなるけどうち。だから普通の悪魔よりは上手いつもりだけど、今はちょっと、こっちに集中しすぎてただけ」
    5097

    related works

    recommended works