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    mmmmmmochi

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    10月新刊になるはずのエピソード0(推敲途中)です!
    ロベルトと葬ちが疑似親子の転生パロ。でそののち台と葬ができそうな雰囲気の本になるはずです。
    書けなくて泣いているので尻叩き的にあげます。

    10月新刊「おっちゃん、また記者やっとんやな」
     頭のてっぺんから声が降ってきた。懐かしさを感じるイントネーションだ。
     声は変声期にほど遠い、丸みのある子供のものだった。ロベルトは取材のために走らしていた筆を止め、音の主を探して視線をあげる。
     エントランスから二階へと緩やかにのびる階段の最上段に子供が立ち、こちらを見下ろしていた。まだ片手ほどの年齢。園児と呼べる年頃の子供だ。真っ黒な髪に瞳。グレーのシャツと黒いパンツはからはほっそりとした手足がのびている。おさがりなのだろう、シャツ、ズボン共に裾が折られていて、服を着ているというよりは服に包まれているように見える。しっかりとこちらを見据える眼光は鋭く知的な印象をロベルトに与えた。
     ロベルトはこの子供の子を知っている。否、覚えていると言った方が正しいかもしれない。そして子供もまた、自分と同じように覚えているのだろう。先ほどの言葉がそれを根拠づける。
     探るような視線に応えようと、ゆっくりと瞬きをすれば子供は声もなく笑ってみせた。
    「ニコ。まだお昼寝の時間でしょ」
     自分と同じように少年を仰ぎ見た若い女性職員が窘めるように言った。どうやら子供はベッドを抜け出してきたらしい。
    「ねむとうないもん。別にええやろ騒いでへんし迷惑かけてないはずや」
     子供は拗ねた口調で反論する。口が達者な点も変わっていないらしい。
     職員は困ったようにため息をついて肩をすくめてみせた。これ以上子供を叱っても効果がないと諦めているようだった。
    「せっかくのインタヴュー中にごめんなさい。お邪魔しちゃって」
     申し訳ないと謝る職員にロベルトは首を振った。
    「いや、気にしないでください。最近の子供はしっかりしていますね」
     子供ではないからしっかりしているのかもしれないが。
     ロベルトは思ったことを口にはしなかった。ここでいらぬことを言って子供に危害が及ぶことは避けたかったからだ。
    「しっかりしすぎているんです。特にあの子は大人びているというか達観しているというか……もう少し甘えてくれてもいいはずなのに」
     ロベルトの考えなどまったくもって知らない職員は憂いのこもった瞳で言う。手を焼いてると言いつつも子供への愛情がにじみ出ているようだった。
    「彼に取材をしても? 子供目線でもこの施設について聞きたいので」
     ロベルトはどちらかといえば子供が苦手である。というよりも扱い方が分からなかった。自身は独り身であったし、甥や姪もおらず子供と接する機会などなかったためだ。孤児院の取材だって利用者である子供と話すなんて発想は一切持ち合わせていなかった。しかし、相手が前世からの知り合いとなれば話は別だ。
    「そういうことなら是非。ニコ、降りていらっしゃい」
     ロベルトと職員のやり取りを静かに見守っていた子供は名を呼ばれると、とんとんと可愛らしい足音を立てて階段を下りてきた。
     子供と正面から対面する。思ったよりも小さくて自分の腰ほどの身長である。
     さっそく職員が子供に挨拶を促した。
    「ご挨拶は?」
    「こんにちは。ニコラス・D・ウルフウッド、5歳です」
     子供は小さな右手を大きく開いて数字の5を作りながら挨拶をした。記憶よりもずっと幼いが彼に変わりはないらしい。名前を聞いてロベルトは確信した。視線を合わせるためにしゃがみこむ。普段取らない体勢に腰が変な音を立てた。彼と同じようにロベルトもまた出会ったころより10は若いはずなのにと心の中だけで自嘲した。
    「ニコラス君、始めましてロベルトだ。おじさんは孤児院のことを取材しに来てる。ここでどんなことをしているのか教えてくれないか?」
    「ええよ。ここのこといっぱい教えたる。せんせ、お庭案内してもええ?」
    「もちろん。お願いするわ」
     ニコラスの言葉に職員の顔がほころぶ。目線は優しく、幼い子供を見守る慈愛に満ちていた。彼女の瞳には取材を申し込まれて張り切っている様が可愛らしく映っているのだろう。
    「おっちゃん、行こう」
     ん。と手を繋ぐためにためらいなく伸ばされた右手を掬いあげる。ロベルトの拳にも満たない小さな手だった。包んだそれはあたたかく、子供特有のふくふくとした柔らかさがある。力をこめればすぐにでも潰してしまいそうだった。
     「おっちゃんに見てもらいたいもんがあんねん」そう言って歩き出した小さな歩幅に合わせるように足を進める。
     エントランスに立ち、玄関の戸を押し開く。鍵はかかっておらず、園庭にすぐ出ることができた。春の訪れを告げる柔らかい光が庭を余すことなく明るく照らしている。花の香りのする風がそよぎ、子供の髪がふわふわと揺れた。
     ニコラスが振り返って職員に手を振る。彼女も大きく手を振りかえした。
     
    「ニコラス君やって。おどれも仕事やとそんな風に言うんやな」
     外に出て、職員の眼がなくなるや否や生意気な表情でこちらを仰ぎ見たニコラスはそう言った。
    「そのまんま返してやる。本当に可愛らしい子供に見えたぞ」
    「せやろ。わい、演技派やねん」
     ふふんとニコラスは得意そうに言い、胸を張った。
     繋いだ手は解かずに、ぽつりぽつりと会話を交わしながら園庭を歩く。庭は保育園や幼稚園を思わせる造りだった。砂場にジャングルジム、滑り台と遊具が一定の距離をあけて設置されている。
     取材によればこの孤児院には未就学児だけが集められているらしい。先ほど職員が言っていたようにみな昼寝中なのだろう。園庭には自分達以外は誰もいなかった。
    「ここなら大丈夫やろ」
     ニコラスが庭の真ん中にあるブランコへと腰かけたので、ロベルトもそれにならって隣のブランコに座った。
     そこからは孤児院の外観がよく見えた。建物の真ん中には大きな時計があってその下には真新しいペンキで不思議な模様が描かれている。丸い円に沿うように左右対称に一本線が伸びている。円の上下にも線が伸びているがこちらは先ほどとは違い、真ん中に長い一本線。その両端にそれよりも少し短い線が伸びている。上よりも下へと伸びる線がやや長く、見ようによっては十字架にも見える。忘れもしないミカエルの眼のマークだ。ニコラスが言っていた見てもらいたいものはまさしくこのマークのことだろう。実際、自分がここへと取材に来たのだってこのマークを見かけ居ても立っても居られなくなったからだ。
    「何べん見てもけったいなマークや」
     ブランコの鎖をぎゅっと握っていたニコラスの右手が鎖からほどかれ、すっと伸びた中指がマークを指す。
    「縁ちうもんはあるんやろうな」そう前置きしてニコラスは孤児院に入ってから今日までの出来事について説明してくれた。といっても物心ついた時には孤児院にいたこと、その時にはすでに前世の記憶があったこと。今年に入って急に園長が変わり次の日には、ミカエルの眼のマークが描かれていたことくらいだが。
    「園長が変わってということは職員みんなグルか?」
    「いや、そういうわけやない。ミカエルの眼の関係者は園長だけ。他は前からおる人ばっかや。さっきオドレが話とった先生もや。なあんも知らへん。ただ、子供が好きなだけや。だからみんななついとる。ワイかてな。ちなみに園長は白衣のジジイな」 
     思わず身を乗り出しそうになるのをこらえた。鎖がたわみ、座面がぐにゃりと波打つ。
    「コンラッド」
     ぐっと奥歯に力が入り、唸るようにロベルトは因縁の男の名を呼んだ。
    「せやで。なんやオドレはよう覚えとるな」
    「オドレはってことはコンラッドはお前の事を覚えていないのか」
    「何回か話したけどわいを完全にガキ扱いしとるあたり覚えてへんみたいや。新しくできた病院のお偉い先生らしいで」
     ニコラスの口から飛び出した病院名にくらりと眩暈を覚える。最近自社の紙面一面に広告を載せた病院だ。最新医療の提供を謳っていた記憶がる。
    「ワイの説明は終わり。ほんでおっさんはなんで取材に来たんや?」
     ニコラスの問いかけにロベルトは口を開いた。
    「ちょうどネタを探して歩いていたらあのマークが見えてな。気づいたらインターフォンを鳴らしていた」
    「飛び込み取材ちうやつか? 記者の勘がさえとるな。ちょうどええネタがあるで」
    「いいニュースか?」
    「んなわけあるかボケ。せやけどオドレにとっては出世の大チャンスや。もうじき計画が始まるで」
    「計画というと」
     ロベルトはそこで言葉を切った。まさか、と浮き出てきた考えを即座に否定した。ノーマンズランドと呼ばれていたあの世界よりも政府も、世間の眼も厳しいこの社会であのような非道な実験が行われるとはにわかに思えなかったからだ。
    「人体実験に決まっとるやろ。おととい、園長が来てな、子供だけを集めてこの中で一番勇気のある子は誰って聞いたんや。沢山の人の役に立つ人になりたくないかって? 成功したら世界で初めての子供になれるんやと。これは思うて、わいが立候補したんや」
     ニコラスの言葉はロベルトの期待を大きく裏切るものだった。あまりにも彼がなんてことないように言ってのけるのでロベルトの額に皺が増える。ニコラスはそんなロベルトの様子を気にかけながら慰めの言葉をくちにした。
    「安心しぃ。さっきも言うたやろ。初めての子供やって。まだ誰も犠牲になっとらん。ワイが最初や」
    「安心できる要素がどこにある!」
     思わず荒げた声に怯むことなくニコラスはきっとロベルトを睨み返した。
    「なら、別の奴が犠牲になれっちうんか?」
    「そういうわけじゃない。誰かいないのか!? こんなバカげたことを止められる奴は」
    「オドレがおるやろ。ワイの行く末を追っかけて記事にしてくれたらええ。次が出る前にや」
     ニコラスが今日声をかけた理由にようやくロベルトは合点がいった。彼はまさしくこのことを伝えたかったのだ。
     
     目の前の時計が大きな音を立てての3回鳴る。取材に来たのが2時だったから1時間ほど経ったことになる。
     ほとんど時間が立っていないのにどっと疲れを覚える。催眠術にかけられたように思考がまとまらない。時計のチャイムのスリーカウントで全てが夢でしたと言ってもらえたらなんて記者としてあるまじき妄想までしてしまう。
    「ニコ! おやつの時間よ」
     職員がドアからひょこりと顔を出してニコラスを呼んだ。
    「今行く!」
     ニコラスはぴょこんとブランコから飛び降りると開かれたドアへと一目散に走っていく。ロベルトはのろのろとその後を追った。

    「ニコラス何て言ってましたか?」
     ドアを開けてロベルトを待っていた職員が問いかける。後ろにも数名職員が控えていてみんな不安と期待が入り混じった顔でこちらを見ていた。ロベルトは表情筋を無理やりに吊り上げた。
    「みんな優しくてここが好きだと」
     よかったと。安堵の息を吐きながら彼女たちは微笑みあっていた。
     
     中断していた職員へのインタビューを一通り終えてロベルトは重い腰を上げた。
     ニコラスと話していたこともありできたのはいくつかの質問だけだ。園長の交代についても職員は詳しく知らないらしく、お医者さんが園長になって安心だと話したくらいだ。
     応接室を出ると玄関にはニコラスが待ち構えていた。
    「おっちゃん、もう帰るんやろ? 手ぇだして。ええもんあげる」
     言われるがままに手を差し出すと手の上にぽんと水色の作品がのせられた。
     くしゃくしゃに丸めて球状なった折り紙が、白いストローの上に刺さっている。
    「あら、ニコラス。プレゼントあげるの?」
    「うん。あめちゃん作ってん」
     ニコラスが作った今の彼の精一杯の作品だった。
    『食うてええし、笑うてええ』
     以前、彼の発した言葉が脳内でリフレインする。
     なぁ、あの時も、今だってお前はまだ、それを言われる立場のはずだ。
    「これはうまそうだな。ありがとう。大事にするよ」
     差し出された作品を大事にカバンにしまえばニコラスは笑って頷いた。
     
     孤児院を出てからどうやって仕事をし、どうやって家まで帰ってきたのか記憶は曖昧だ。今日はまだ酒を一滴も飲んでいないのに悪い酒を飲んだ時のような吐き気と酩酊感に襲われる。
     ニコラスからもらった折り紙を取り出す。水色のキャンディ部分を解し、元の正方形の折り紙へと戻していく。
     水色の紙の裏には真っ赤なクレヨンで日時と住所が拙い文字で記されていた。
    「また巻き込みやがって」
     文字が壊れないように気を付けながら紙を丁寧に撫で、しわを伸ばす。
     悪いなニコラス、お前の思うようにはしてやらん。
     おせっかいになってしまったものだ。頭を掻いて、煙草に火をつける。
     そうしてスマホを開くと、アドレス帳から懇意にしている刑事の名前を探してタップした。
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    mmmmmmochi

    DONEホラー/台牧

    ◇ 今回のレギュレーション
    1.文字数
    5000文字

    2.言わせる言葉
    「怖くなんてない」

    3.登場させる小物
    懐中電灯🔦

    4.仕草、行動
    驚いて尻餅をつく
    コール、コール、コール 電話が鳴る

     ウルフウッドの暮らしに影がさす時、それは必ず訪れる。



     ウルフウッドがひとりの時を見計らうように電話が鳴る。
     聞きなれたコール音がたわんだように、多方向から強烈な圧力をかけ無理やり歪ませたように聞こえたらそれが合図だ。
     鳴り響く歪なコール音は今すぐ逃げ出したいような、逆に音の元に走りたくなるような焦燥感をウルフウッドに与えた。
     始めは無視しようと頑張るのだが、どうにも我慢できなくて受話器を取る。
     そんなことの繰り返しだ。
     この電話について誰かに話したことがない。話したかった相手とは電話を取った後、必ず会えなくなるためだ。
     

     ウルフウッドはしがないサラリーマンだ。主に大きな工場や病院向けの薬品を取り扱っている、いわゆるBtoBの企業である。それなりのシェアを占めているため業界の人であれば社名を知っている人も多いだろう。それ以外にも、これは社にとってみれば大変不本意なことであろうがブラック企業ということでも有名であった。
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