青春たまに学校をサボって昼間に人の多い通りや公園、遊園地で自作のロボを連れて行ってゲリラパフォーマンスをすることがあった。
どうせ学校に行っても友達もいないし、そもそも一緒に話をするような人もいない。
勉強も教科書を読めば大抵のことは分かるから、あとは成績に支障をきたさないように出席日数をとればいいだけ。簡単で、つまらない。
だから、今日も勝手に学校を抜け出して不法侵入した遊園地でいつものごとく楽しいショーでみんなを笑顔にして、いつものごとく警備に追いかけられて退散していたら、いつの間にか日が暮れて家に帰ろうと小さな公園の前を通ったところだった。
ぐす、ぐすと微かな啜り泣く声が聞こえた気がして公園を除くと、ベンチに座ってうずくまって泣いている金髪の女の子がいた。
隣町の中学校の制服を着ているため恐らく同年代くらいの子だろう。制服の裾で涙を擦っていた。
「擦ったら目が赤くなってしまうよ」
思わず近づいてたまたま持っていたハンカチを差し出していた。ちなみにこのハンカチは洗いたてだし、まだ使っていないので綺麗だ。
「ありがとう・・・」
一瞬驚いた顔でこっちを見たが、直ぐに下を向いて鼻声ながらお礼を言って僕の手からハンカチを受け取った。
単純に可愛らしい顔立ちの子だなと思った。
つり目がちの大きな瞳にスっと通った鼻筋と小さな口、髪の毛も手入れが行き届いているのだろう、風に揺られてサラサラとたなびいている。
だから、じゃないけど、笑顔の方が似合いそうだと思った。
まあ、僕はみんなを笑顔にするために今日も今日とてショーをしてきたわけだ。
目の前に泣いてる女の子を放って帰れば僕のアイデンティティに反する。
幸い、さっきまでショーで使っていたロボたちを持っているのだから、やることは一つだけだ。
『むかしむかしある所に弱虫で心優しいオオカミがいました』
「・・・?」
『───オオカミは人間と友達になりたいと思っていましたが、オオカミは気が弱く、臆病で人間のいる里に降りることさえできませんでしたが、来る日も来る日も人間と友達になるために、ジャグリングやダンスをたくさん練習していました。しかし他のオオカミたちはそんな彼の事をバカにして仲間外れにしていました。』
最初は突然始まったショーに困惑しているみたいだった。だけど、僕の周りで踊るドローンや、のジャグリングを見て、少しずつ強ばっていた表紙が解れているように感じて、だんだんショーの中に引き込まれているようだ。
『ある日、オオカミが森を歩いていると、えーんえーんと泣いている声が聞こえてきました。声のするほうに行ってみると、赤い頭巾を被った女の子が一人うずくまって泣いているではありませんか!』
「・・・・・」
『オオカミは女の子を泣き止ませようと女の子に近づいて行きました』
「・・・・!」
昼間に同じショーをした時は赤ずきんロボを使っていたが、今の状況が似ていたので、目の前の少女を赤ずきんに見立ててることにした。
黙って見ていた少女も僕が話に合わせて近づくと、僕の意図に気づいたようで少し驚いた表情を見せた。
『しかし、赤ずきんの少女はオオカミを怖がってしまい、更に泣いてしまいます。それもそのはず、鋭い爪と鋭い牙、さらに少女よりも何倍も大きい体を持っていては、食べられてしまうと思っても不思議ではありません。オオカミはそれでも少女を笑顔にしたくて、綺麗に咲いていた花を摘んで少女に差し出しました。』
「!!」
簡単な手品で目の前で突然花を出してみせると、さっきより更に驚きましたという顔を見せてくれた。この子結構表情がコロコロ変わるタイプなのかもしれない。
『少女は驚きましたが、おずおずと花を手に取ると──────』
『このお花私にくれるの?』
「ぇ・・・・・」
『オオカミさん?』
『あ、あぁ、そうだよ』
まさかアドリブで返されるなんて夢にも思わなくて、驚きのあまり一瞬止まってしまったが、赤ずきんの少女の呼び掛けで直ぐに引き戻す。
『ありがとう、オオカミさんとっても綺麗なお花ね』
公園で泣いていた少女から赤ずきんに一瞬で変わった少女は僕の手からそっと花を受け取るとふわりと笑った。
『こんなところで、どうして泣いていたの?』
『帰り道がが分からなくなってしまって、怖くて泣いていたの』
『それは大変だ!僕が帰り道を教えてあげるよ』
『まぁ!ありがとう!』
座っている少女に手を差し伸べると、彼女もまた手を差し出して僕の手にそっと重ねた。
手を軽く引くと少女が立ち上がった。
『その前に僕と踊ろう!』
『へ?───きゃっ』
少女の手を取って、見よう見まねの不器用なステップを踏む。直ぐに少女も同じようにステップを踏んだが、いきなり社交ダンスなんて、上手くいく訳もなく、つまづいたり、足を踏まれたり、ぶつかったりして、グダグダのダンスになってしまった。
「ぷ、あははははっ!!」
「ふ、ふふふ・・・っ」
「く、ふふ、下手くそにも程があるっ、ははは」
堪えきれずに笑いだした少女に釣られて僕まで笑ってしまう。
どうやらお互い完全にツボに入ってしまったみたいでお腹がよじれそうになるほど笑った。
こんなに笑ったのは、ほんの少しだけだったけど誰かと一緒にショーをしたのも久しぶりだった。
「はーっ、すまん。笑ってしまってショーがぐちゃぐちゃになってしまったな」
「いや、君が笑顔になってくれたなら良かった」
「おかげさまでな。ありがとう」
最初と違って悲しみの涙ではなく、笑いすぎて出てきた涙を指で拭って、夕焼けに照らされて赤く染まった顔で、真夏の太陽のような眩しい笑顔で笑った。
その時、僕の心臓がきゅんと音を鳴らした。