キスがしたいだけの口実この間、ピッコロさんとキスをして腰が抜けた。
うっかりお父さんに、そんな話をしてしまった。それが、いけなかった。
「オラもやってみたい!」
まさかそんな返しがあるとは予想もしていなかった。父と母のそんな場面を想像はしたくなかったが、話の流れで想像してしまい赤面する。
この目の前であっけらかんとしている父が、しっとりと名前を呼んで甘いキスをするのかと思うと、何だか恥ずかしくなって視線を逸らした。
「ピッ、ピッコロさんに、聞いてください……」
「あ、そうか。なら、ピッコロのところに行くか!」
「へ?」
気付けば、既にピッコロさんの家の前に。
巻き込んでしまい申し訳ないと胸の前で合掌をしながら、お父さんの後に続いた。
「──というわけで、ピッコロ教えてくれ!」
「何が、というわけだ!」
想像通りの反応だ。クワっとお父さんに怒鳴る姿は度々見かけるものだ。あはは〜…と他人事よろしく苦笑していると、ピッコロさんの鋭い視線が勢いよく向けられた。
「悟飯!!」
「はいっ!!!」
長年染み付いた癖で、ピッコロさんのひと声で背筋が伸びる。
「元はと言えば、お前が孫に余計な事を言うからだぞ!!」
「ご、ごめんなさい〜!」
まさかこんな展開になるとは思わなかったんですとは思っていても言えずに、とにかく謝る。
頭の後ろで手を組んで様子を眺めているお父さんは当事者でありながら暇そうで、横から口を挟んだ。
「なあ、教えてくれよ」
「ふん、教えてなんのメリットがある」
「教えてくんねぇのか?じゃあ、やっぱり悟飯で試すからいいや」
「は?」
「え?お父さん何を──」
気付いた時にはすぐ目の前にお父さんの顔があった。
眼鏡を取られてぼやける視界。そのせいで、ピッコロさんとは違う熱い体温やマメやたこのできたかさついた掌の感触を敏感に感じ取ってしまう。頬を包み込まれ、唇に吐息がかかる。そのまま、触れるか触れないかの距離を保って焦らされるから、じわじわと体が熱くなってきた。
「おい、孫!」
「またな、ピッコロ!」
一瞬で家に帰ってきた。その間もお父さんは唇に触れてはくれない。熱い吐息が触れるだけで反応してしまいそうだ。
耐えきれなくて、お父さんの服を握る。すると、お父さんの唇が優しく触れた。
ただ、唇を合わせるだけのキス。
ゆっくりとくっつけて、ゆっくりと離れる唇にドキドキする。同じように繰り返されるキスは、優しくて優しくて溶けそうだ。
かさついていた唇が少し湿ってきたせいで、唇が触れると少しくっついて離れる。何だか恥ずかしくなって少し俯いた。
「悟飯」
優しい声に、やんわりと下を向く事を許さないと言われている気がしてちらりと顔を上げる。また唇が触れる。今度は、舌で優しく唇を舐められる。ちろちろとくすぐる舌にドキドキする。
(ひ〜!なにこれ!////)
まず、何故自分がキスされているのか。
次に、想像していたキスのギャップ。
最後に、予想以上に熱い体。
それらのせいで正常に判断が付かず、お父さんにされるがままになってしまっている。
舌でくすぐられていた唇を、お父さんの唇がはむはむと挟んできたかと思うと、優しく歯を立てられた。
「ぁっ、んむっ」
思わず声を上げた瞬間、ぬるりと舌が入り込む。ねっとりと舌が絡まり、くちゅ、くちゅりと口内で唾液の混ざりあう音すら、脳を侵すようだ。
ちゅっ、ちゅく、と舌を擦り合わせる間、お父さんの手が耳に触れる。耳朶を触ったかと思えば、するりと耳殻を滑り耳の穴まで指が差し込まれた。ぞくぞくと背筋を快感が抜ける。
「はっ、ぁ…んぅ♡」
歯茎を滑るように舌が動いたかと思えば、そのまま上顎を舌先で擦られる。
いつの間にか腰に回されていた腕でより体が密着する。ぼくと違い修行を怠らないお父さんの鍛え抜かれた体に抱き締められ何とも言えない感覚を覚えた。そして、密着したことでより深く舌が差し込まれ口内を犯される。
くちゅり、ぐちゅ。
混ざり合った唾液が口内に収まらずに口端から溢れ出す。それに気付いたお父さんは一度唇を離して、それすらも唇でなぞりとり、また口内へと帰ってきた。舌で上顎をゆっくり擦られ、舌で絡めとられる。
そして、いつの間にか耳を刺激していた手が後頭部に回されぐっと押さえ込まれる。息をつく間もなく、上顎を繰り返しねっとりと擦られていると、徐々に体が快感で昂るのが分かった。ぞくぞくと背筋を這い上がる快感に、びくりと体が揺れた。それでもお父さんはキスを止めてくれなくて、胸板を押したところで舌を吸われてようやく解放された。
お父さんの腰に回る手に支えられてようやく立っていたぼくは、腕が離れるとがくっと地面に膝をついた。
「はっ、はっ、はぁっ♡」
「おー!腰抜けたなぁ!」
笑顔でそのまま押し倒されそうになっていたところで、窓からピッコロさんが入ってきて抱き起こされた。
「あり?」
「貴様なにしてる?!」
「悟飯が可愛くてついなぁ」
「やり過ぎだ!」
へろへろになったぼくを抱えてくれるピッコロさんに身を任せていると、お父さんが覗き込んだ。
「次も楽しみにしてっぞ」
「お父さんの、えっち……!」
燃えるように熱い顔をピッコロさんの胸に隠すと、ゴンッと鈍い音がして、お父さんのいてぇっ!て声が聞こえてきた。