キスからはじまるミステリー鳩が豆鉄砲を食ったような顔というに相応しい表情を目にして血の気が引いた。
——やってしまった。
「……すまん。忘れてくれ」
とにかく謝って無かった事にしてもらいドアを開けると足早に車から離れた。
それなのに、はたと、送ってもらった御礼を言っていないと気付いて立ち止まる。後ろをそっと振り向くと、そこにはまだ車がありどうしようかと逡巡するが、気付いてしまったからには御礼を言わないと気が済まない。踵を返すとまた足早に神宮寺の元へと戻る羽目になった。
コンコンと窓を叩くが反応がないのでドアを開ける。
「神宮寺」
「……えっ!?」
驚いた顔とそこにある唇が目に入った瞬間、自分が何をしでかしたのかを思い出した。
しかし、ここまで来て目的も果たせずに逃げることは出来ない。
「送ってくれたこと、感謝する」
「え、あぁ、うん……どういたしまして」
「……ではな!」
バタンとドアを閉めて今度は振り切るように走った。
一心不乱に自宅へと向かい、玄関の鍵を開けて中に入るとやっとのことで息を吐き出す。
なんとか足を踏み出すと、リビングのソファーに座って頭を抱えた。
神宮寺が悪いのだ。
俺のことが好きなんだと思わせぶりな態度を取る彼奴が悪いのだ。
違う。分かっている。勝手に勘違いして暴走した自分が悪いのは。