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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    MondLicht_725

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    夏五版ワンドロワンライ第66回お題「ライアー」お借りしました。
    原作軸の夏五で離反後すぐ(夏不在)
    暗い。

    #夏五
    GeGo

    夏五版ワンドロワンライ第66回お題「ライアー」 あれはきっと、社交辞令的な約束だったのだ。
     だからきっと、口にした本人は憶えていない。その程度のことだった。

     無理に行かなくていいと、担任は言った。大丈夫だからと答えたのは悟である。
     近くを通り過ぎたことはあったが、実際に足を向けたのは初めてだった。閑静な住宅街の一角、いくつも並んでいる似たような形の2階建て家屋の1つ。いつもは静かなのだろうその場所は、黄色い規制テープが張り巡らされ風で小刻みに揺れていた。
     すでに話は通っていたようで、玄関に立っていた制服姿の警察官は、無言のまま近づいた悟を一瞥しただけですぐに中に通してくれる。
     土足のまま上がり込んで3歩進んだだけの廊下、開きっぱなしになっているのリビングへ繋がるスモークガラスの扉、半分が赤黒く染まっているダイニングのテーブル、倒れた2つの椅子―――惨状は、まだあちらこちらに色濃く残されている。
     悟は、迷うことなくテーブルへ近づいた。そこにはまだ、当時のまま茶碗や大小の皿が並んでいる。出来立ての、きっと美味かったのだろう料理の一部は腐り始め、複数の蠅が喧しく飛び回っていた。
     すでに可能な限りの捜査は終わったと聞いていたが、片づけずにそのままにしておいてほしいと頼んでいたのだ。
    「―――…本当に、料理が上手、だったんだな」
     実際に味わったことなど一度もない。けれど絶対に美味しかったはずだという確信はあった。
     だってあいつが、笑ってそう言っていたのだから。




     2年ほど、前のことだ。まだ反転術式も使えなくて、六眼(これ)を酷使して体調を崩すことも多かった。そのときは風邪までもらってきて、なにもかもが最悪だった。寮の部屋に引きこもって、ひたすら気持ち悪さの嵐が通り過ぎるのを待っていた。
     そんなときアイツが―――傑が薬と一緒に粥を作って訪ねてきたのだ。正直言えば怠すぎて誰とも会いたくはなかったが、好意を無碍にはできないくらいには打ち解けていたし、嬉しいとも思ったのだ。口にはしなかったけれど。
    「焦げてはいないはずだけど…やっぱり母ほど上手くはできないな。無理して食べなくていいからね」
     舌までバカになっていたのか、味はほとんどしなかったのだが、悟はすべて平らげた。本当は味なんてどうでもよくて、悟のためにここまでしてくれたという事実が嬉しかったのだ。―――これも、素直に言っておけばよかった。
    「――そんなに美味いなら、食ってみたいな、お前のおふくろさんの飯」
     カッスカス、ガラガラの声の小さな声で、なんとなく口にしてみた言葉に、傑はとても嬉しそうな顔をした。
    「そうだね、今度家に連れていくよ。母もきっとはりきって準備してくれるよ」
    「ん、今度――絶対」
    「絶対。約束だ」






     テーブルの上に転がっていた、丸い何かをつまみあげる。真っ黒で、元がなんなのかは想像すらできない有様だ。手のひらで転がった何かは、あっという間に砂粒ほどに収縮して、消え去った。


    「―――うそつき」


     背を向ける。もう、ここに来ることはない。来る理由は、失った。
     そのまま振り返らずに家を出て、待機している車に乗り込んだ。 
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