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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    夏五版ワンドロワンライ第76回お題「鳴り止まない」お借りしました。
    呪専の夏五+α。星漿体任務後、悩む夏。

    #夏五
    GeGo
    ##夏五ドロライ

    夏五版ワンドロワンライ第76回お題「鳴り止まない」 あのときからずっと、拍手が鳴り止まずにいる。


    「――――る、すぐる!」
     肩を叩かれて、我に帰る。息が触れ合うほど近くに訝しげな表情をした親友の顔があり、思わず仰け反った。
    「なに、さとる」
    「何って…お前、どうしたんだよ。着いたぞ?」
     夏油の態度に少々気分を害した、もとい拗ねた顔を隠さずに唇を尖らせ、親友――五条は屈んでいた上体を起こした。
     瞬時に視線だけを動かして周りを確認する。見慣れた車の後部座席、嗅ぎ慣れた芳香剤。大きく開けられたドアに半ば寄りかかるように五条が立っている。
     ああそうだった。
     朝早くから、五条と一緒に高専を出発した。もちろん、任務のためだ。隣県にある廃校が今回の目的地である。取り壊しが決まったが、工事に入ろうとすると立て続けに怪奇現象が起こり、ついには怪我人まで出たのでなんとかしてほしいという内容だ。
     話を聞いただけでも、世界にたった2人しかいない特級とまもなくそこに仲間入りする予定の一級呪術師2人が派遣されるような内容ではない。
     しかし意外にも、最初に伝えられた五条は断らなかったという。理由を聞けば、久しぶりにお前と一緒に行けるからだとあっさり言われた。
     夏油だって嬉しい、と思わなかったわけではない。一緒の任務はおろか、学校でさえすれ違いが続いている。
     ただ――あの日からずっと、頭の中で拍手が鳴り止まないのだ。
     ずらりと並んだ笑顔、笑顔、顔、顔、かお。その真ん中にいるのは、血に濡れた五条だ。
     ―――吐き気がする。
    「どうしたんだよ、まだ眠いのか?」
     ここまでずっと寝てきたのに。五条の顔にはありありと不満が浮かんでいる。話したいことがいっぱいあったのにと訴えている。
     わかりやすくて苦笑した。最も、それはお前に対してだけだと、もう一人の同級生は常々言う。
    「あ――うん、そう。寝不足なんだ」
     真実は飲み込んで、何でもないのだと笑みを貼り付ける。だから大丈夫だと嘯く前に、大きな手のひらが両頬を包み、額が、くっついた。
    「熱はないな」
     この測り方を教えたのは夏油だった。1年生の初めの頃、五条が熱を出して寝込んだときだった。ただし私以外にはやっちゃダメだよと付け加えて。
     への字に曲がった、男にしてはやけに艶のある唇が目の前にある。触れたいな。衝動に素直に身を任せて、触れるだけのキスをする。
    「お、まえなぁ」
     すぐに離れていってしまった顔が、少しだけ赤く染まっている。そんな顔を見るのも久しぶりだと気づく。
    「近づいてくるから、キスしたいのかと思って」
    「――そうやって誤魔化すなよ」
     照れた顔は、一瞬で消えた。
     意外な言葉だ。今までは簡単に誤魔化されてくれたのに。視線を上げれば、思ったよりも真摯な目と合う。冗談めかしても、笑ってみせても、騙されてはくれなさそうだ。
     先に逸らしたのは、夏油の方だった。わかっていても、往生際悪く本音を隠して逃げる口実を探している。
     はぁ、とわざとらしいため息が頭上に降る。
    「お前、ここで寝てろよ。俺が片づけてくっから」
    「いやそれは」
     2人に任された仕事だ。私も行くから。車から下りようとすると、強い力で座席に戻される。
    「だいじょーぶ。どうせ雑魚だろ、俺一人で十分だ。戻ったら、話聞かせろよ」
     ―――ひとりで、じゅうぶん。
     ああそうか。そうだな。
     全身から力が抜けていく。
    「――わかった。じゃあ、頼むよ」
    「おう、任せろよ」
     得意げに笑う顔には、欠片も悪気はない。五条はただ、事実を述べただけだ。その事実がどんなに残酷で、今の夏油の心を抉るのか理解していないだけ。
     五条悟とは、そういう男なのだ。
     駆け出していく背中を、開けっ放しのドアから見送る。あっという間に遠ざかる背中を、固唾をのんで見守っていた補助監督が慌てて追いかけていった。
     シートに体を沈めて、目を閉じる。どこかで鳥が鳴く声。風が木の枝を揺らす音。すべてを覆うように、また拍手が聞こえてくる。
     五月蠅い、五月蠅い。
     両手で耳を塞ぐ。それでも耳障りな音は、鳴り止まない。














     大勢の、人、人、人。鳴り止まない拍手。
     眩暈が、する。
     ときどきこんなことがあった。
     心臓がバクバクなって、気持ち悪くなる。緊張している―――だけではない感情が、どこかから湧き上がってくるのだ。けれどそれが何なのか、なぜなのか、ずっとわからずにいる。
     客の前に立つ商売だというのに、どうしようもないと自嘲する。
    「傑」
     大きな手のひらが、両耳を覆う。引き寄せられて、額が触れる。
     ずれたサングラスの向こう側から、柔らかな青が夏油を見つめてくる。
    「大丈夫。俺の声だけ聞いてろよ」
     大丈夫、大丈夫。俺が隣にいる。何度も繰り返されると、不思議と気持ちが楽になる。無意識に強張っていた肩から力が抜けていく。
    「行こう」
     落ち着いたとわかると、手は離れていく。不思議と、相方には心の変化がわかるらしい。
     けれど少し、名残惜しい。本番前じゃなければ、離れていく手を捕まえて引き寄せてしまえるのに――今は、我慢だ。
    「ああ行こう―――悟」
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