Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ozaka05333

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 😊 👼 😢 👏
    POIPOI 81

    ozaka05333

    ☆quiet follow

    ミルドの町での事件を経て、ジネちゃんとお話しました!
    special thanks 霧さん(@kk14ac

    ##SS
    ##キース
    ##ジネ

    黎明を告げる言の葉 ふと目が覚めた。
     心身ともに疲弊していたはずなのに意識が徐々に浮上していく。
     ギルドが手配してくれた宿で床についてから、まだ数時間しか経っていない。ホーリー・クレイドルの効果か気怠さはなかったが、下手な時間に目覚めたせいで二度寝もできない。
     上着だけ羽織って宿の軋む外付け階段をなるべくゆっくりと降りる。家々の屋根を一望できる高台の宿だった。紫がかる空は薄暗く、冷やかな空気と静寂さが心地いい。
    「キースくん」
     階段の上から声が掛かる。見上げれば、朝冷えしたのか鼻先と頬を赤くしたマニングが立っていた。カーディガンに腕を通しながら階段を軽やかに降りる。
    「おはよう、ございます。キースくん、早起きですね」
    「早く起きるつもりは……。お前も早いな」
    「——目が、冴えてしまって」
     眠れなかったわけではないんです、と彼女は続けた。
     お互いに、まだ引きずっている部分があるのだろう。直接的に差別されるのは久しぶりだった——そう、久しぶりに思い出したのだ。自分が人間社会においてどのような存在だったのかを。
     忘れていたわけではない。思い出さずにいられた今までが、信じられないほどに穏やかだっただけだ。
     深青の空が徐々に淡く移ろい、明けの明星が唯一つ空に浮かぶ。
     しばらくそうやって何か言うこともなく、夜明けを待っていた。沈黙も苦にならない柔らかな宵残りの風が髪を撫でていく。
    「……少し前に、『強さ』のお話したの…覚えていますか」
    「ああ」
    「あのときキース君が言っていた、"強くなることと生きることは同じだった"…って、その、あまりよく分かってなかったんです。でも、ミルドの町で、ああいうことがあって……」
    「これが、キースくんが持ってるつよさ、なんだなって、分かったんです」
     薄い雲が空にかかり、明星の輝きが揺らぐ。
    「あれから、考えていたんです。考えて、決めて……強くなろうって思って、」
     脳裏に浮かんだのは、キングスフォールを発つ前の夕暮れ。孤児院の帰り道だったか。

    ——少し、迷っていることがあって。
    ——その、自分では中々決められそうになくて、でもやっぱり自分で判断しなきゃ…ですよね。

     その時の彼女は、黄昏から何かを隠すように笑みを貼り付け、焦茶色の視線を外したのだった。なにか思うことがあるのか、煮え切らない、躊躇うような態度を思い出す。
    「でもまた…それも揺らいじゃいそうで」
     言葉が翳り、萎んでいく。
     その様子は今まで信じてきたものを見失っているように見えた。

    ——しんじているのは、きっと。
    ——今まで触れた『いいこと』とか、それを見せてくれたひとたち、だけ……。

    「マニングに、俺の答えを示せたらいいと、ずっと考えていた」
    「……——こたえ、ですか?」
     俺の意図を掴みかねている彼女の目がこちらに向く。やみくもに武器を振り下ろすことしかできなかった夜を、彼女はもう忘れているかもしれない。

    ——私が持っているのは世界への信用じゃなくて……もっと『いいこと』に触れたいっていう、希望、です。

    「俺を取り巻く”世界”や、”ひと”への信頼とは、なんなのか……ようやく分かった」
     穢れや差別に伴う自分の出自を、過去を、口にできたからかもしれない。
    「……あの町で、捕まったとき……仲間たちが『おかしい』と、声を上げただろ」
     不当であると。何も悪くないと。
    「諦めなくてよかったと、思った」
     ずっと、命の重みに耐えきれなくて生を諦めたかった。
     誰一人守ってくれるひとなどいない。
     自分を守っているつもりの殻は、ひどく脆くて無力だった。
     焦茶色の髪が視界の隅で揺れた。彼女はカーディガンを胸元で握りしめ、続きを促す。
    「俺は、」
     喉が熱くなって、言葉が出ない。
     ただ、こんな、喉が乾くような、痛いとさえ感じる強い鼓動なんて。
     一度として、感じたことなどなかったから。
    「俺も、そうやって、ひとを信じて——」
     自分の声が震えている。この覚悟を、どうしたら音に乗せられるというのか。
    「——生きていたい」
     呼吸。は、と息を吐く。いつの間にか強張っていた身体から力が抜け、自分が緊張していたことに初めて気付いた。
     この願いの名を。
    「希望、と言うんだろ」
     死んでいたと思っていた心臓が、強く息を吹きかえす。そうだ、自分も希望を持っていた。ファーベルト平原から始まったこの旅は、生きる力を与えてくれたのだと。
     俺が選んだ生きる力だった。
     ふと見上げた空が白み始める——夜明けが近い。
     明星はいっそう輝いて頭上に浮かんでいる。暁を報せる鳥のように。
    「だからお前も、立って前に進めるんだろう?」
     いつかの夜に、俺にくれた言葉を返そう。
     それは長い夜を切り裂き、新たな標を立てる。
     それでいて、寄り添うようにそこに在り続けた黎明を告げる言の葉は紛れもなく、お前のものだ。
     お前が俺に示した言葉だ。
     強い光が差し込む。あまりの眩しさに目を細め、朝陽の訪れを知った。  
    「俺も、進んでいく」
     穢れを抱えて生きていく。
     俺を動かす鼓動が仲間たちであるように、俺もまた、仲間の心臓であれたらいい。
     彼女が何か呟いた気がして、目線が止まる。手が白く変色するほど強く握りしめていることに、彼女自身、気が付いていないのだろうか。時間が止まったかのような静寂のなか、彼女は呼吸を——息をしようとして、それが朝の霜に触れる前に、涙が頬を伝っていくのを見た。瞬きの後、強引に袖でそれを拭い、ようやく息を吸い込む。一瞬前の雫が嘘のような、強い瞳が俺を見上げている。その色に迷いなどなく、また、失ってもいなかった。
    「——ありがとうございます」
    「思い、出しました。わたし、そのために——」
    ——その希望のために、立っているんです、と。
     大丈夫、もう見失わない。そう告げた少女は、今までともに旅をしてきたというのに、別人のようでさえあった。

    「私は、私が触れた希望を、それをくれたひとたちを大切にするために、立って、進むんです」

     これは、彼女の決意に相応しい夜明けだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭🙏🙏🙏🙏🙏👏👏👏✨✨
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works