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    hoshinami629

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    hoshinami629

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    花影と李斎を書こうとしたけど、何かどう書いたら良いか分かんなくなって放置したもの。花影視点で李斎を思うと、辛さが溢れてしまう。

    #十二国記
    theTwelveKingdoms
    #戴

    花影と李斎 花影は夏の終わりが好きだった。より具体的に言うのなら、晩夏が好きだった。長雨の降る夏の初旬、北国にしては蒸し暑い中旬に比べ、戴の南部の夏の終わりはからっと明るく、涼しい海風が吹き抜ける。幼い頃から、この時期になると院子に卓を出し、風に吹かれながら勉強したものだった。
     場所が雲海の上でも、事情はそう変わらない。江州城内に賜った官邸には、紫薇の古木が植わっていた。この木陰で午前中の執務を行うのが、近頃の花影の好きな過ごし方だった。
     今日も何通か書類を認めては下官に渡してゆく。軍事優先の時期にあって、花影の様な文官が忙しいのは、自分でも意外だった。
     ——荒民の保護を行えないでしょうか。
     李斎の朝議での発言を思い出す。これからの進軍について、策を持ち寄って話し合う場で良くもまあ、あの発言をした事だ。思い返して、花影は小さく笑う。
     ——変わっていない。
     正しいと信じる事の為になら、考えるより先に飛び出して行ってしまうような処。その無鉄砲さが何処か瑞々しい所為で、様々な人を自然と味方につけてしまう処。
     今回も、花影は矢張り李斎に味方してしまった。心情的なものもあるが、実際、荒民は目下の処戴の内政の最重要課題であるとも認識していた。阿選が焼いた里、荒らした城、それが端緒となって、副次的に壊れていった共同体の何と多い事か。
     李斎に花影もすぐ口添えをした。——軍事が喫緊の問題である事は分かっている。しかし鴻基を奪還して後、まず直面するのは帰る場所を失った人々の問題だ、と。二人の訴えに驍宗は軽く頷くと、次の日には李斎と花影に新たな職務が追加された。曰く、驍宗軍の進軍先で、荒民保護を優先して行う部隊を編成する。李斎にはその統率権を、花影には保護後の法的な手続きの裁量権を与える、というものだった。
     現在は江州を皮切りに、馬州、藍州で荒民保護を行なっている。次に進軍の予定があるのは凱州と文州で、殊に文州には大量の荒民がいる事が予想された。それもあって現在、花影は兵站の強化や、実際に既に救貧事業を行なっている寺院・道観との連携を強めるべく対策を練っているのだった。
     ——こんな思い切った策も、李斎のお蔭でどんどん進んでゆく。
     その事が嬉しいと同時に、李斎は無理をしているのではないか、という疑念を花影に齎す。
     ——頑張り過ぎに見える。台輔の事、主上の事、墨幟の事、全て李斎が背負って来た……。
     花影が漕溝に着いた時、李斎は明るい笑みを浮かべていた。それはそうだろう、宰輔と王を無事奪還し、以前からの仲間も続々と江州に集まって来ている。嬉しかっただろうし、晴れがましかったに違いない。——花影自身、江州行きや李斎との再会自体は、これまでになく喜びに満ちたものだった。
     ——けれど、李斎を見て。
     まず目についたのは、利き腕を失っていた事。思わず事情を問えば、不調法で失くしてしまったと、ごく軽い言葉が返って来る。そう言われてしまうと黙り込むしかなかった。
     様々な話をした。二人が別れた時から、此処に至るまでの長い話を。聞けば飛燕も亡くしていた。別れた時は一心同体の相棒の様に見えた騎獣。それ以前にも、李斎が飛燕を牽いている様を何度も見た事があった。そこに幼い泰麒が来て、飛燕を撫でていた姿を覚えている。李斎の和やかな眼差しも。
     爽やかで明るい笑みの後ろに悲しみを隠してはいないか、と思う様になった。更に聞けば、麾下を幾人も亡くした上、驍宗を捜索するようになってから共に旅をしていた者達も、また幾人か他界していた。
     ——李斎が目の前で喪ったものの多さ。
     片腕で抱き締める端から零れてゆく者達。その事を言えば、皆そんなものだろう、と小さく笑った。その笑みが余りにいじらしくて、花影は泣いた。
     ——李斎が泣かないから。
     喪うとは、激しい痛みだ。それに慣れる人間などいないし、慣れようとしなくて良い。そう言いたかったけれど、自分がそれを李斎に告げるのは傲慢の様にも思った。李斎と共に旅をした訳でもない。共に宰輔や王を探した訳でも、共に戦場で背を守り合った訳でもなかった。
     ——荒民となって行き場を無くしている人々を見ると、李斎のあの笑みを思い出す。
     帰る場所を失った人々。財産を、家族を、帰属を失い、迷って、立ち竦んで、夏には渇き、冬には凍えてしまう人々。花影は彼等に出来る限りの事をしたやりたいと思ったが、同時に彼等が嘗ての故郷に戻ったとしても、そこは元の故郷ではない。はじめにあった全てが、もう無い。
     ——喪失が当たり前になり過ぎて。
     李斎は確かに守ったのかもしれない。宰輔や、王や、また戴という国を。
     ——けれど、己を守れている?
     花影はその事が心配だった。他者を守る為に、自らを差し出し過ぎてはいないか。李斎にそう言った処で、まさか、と軽く謙遜されてしまうだけだ。それが歯痒かった。李斎の目の奥にある悲しみを、花影は感じずにはいられない。
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    hoshinami629

    MOURNING支部にある「視爾夢夢」からカットしたもの。サンプルにはこの部分も載っていた気がする。結局、李斎や回生、耶利のことを追い切れないと思ってカットしてしまいましたが、何か勿体なかった気もする。でも、李斎のこれからについて考えるには、阿選を討つよりももっと時間が必要な気がして……。
    視爾夢夢没供養①「李斎」
     朝堂を出た処で、後ろから声が掛かる。振り返れば、其処にいたのは先程壇上に座していた李斎の主公だった。先程の視線の意味を思い出しかけたところで、機先を制する形で驍宗が言葉を継ぐ。
    「少し、話があるのだが。――この後の予定は?」
     特に急用や面会の約束も無かった為、首を横に振る。参ります、と答えて踵を返す。驍宗が執務を行う書房へ歩を進めながら、李斎は用向きを半ば予想し、半ば摑めず、隣を歩く主を見た。
    「主上、恐れながら……。先程の軍議については、お気を病まれませぬよう。私が鴻基攻略に当たれないのは、私も皆も承知の上ですし……」
     驍宗はその言葉にすぐには答えず、相槌を一つ打って後は黙々と書房へ向かう。心配して下さっているのだろうか、と何となく思いながら、李斎も矢張り黙した儘、複雑な気持ちで王に従った。
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