あなたの全てを焼き付けたい「君の魂の色が見てみたい、など思ったんだ」
それは、肉体の持つ固有のエーテル色を判別する方法があるならば、魂の色を測定する方法もあるのでは、と思い立ったが故の言葉だった。
三人で暮らす家のリビング、革張りのソファの上で二人でくつろいでいる最中の事だった。ヘルメスは無骨な自身の手をコレーの小さな手に絡ませて眼を細める。
「……ヘルメスには、みないでほしいかなぁ」
困ったようにはにかむコレーにヘルメスは言葉を詰まらせた。自分に魂を視られるのは嫌なのだと。けれどもそうではなくて。
「魂が視えたら、あの人に似てるって思われるかもしれないから……あなたには、そんなふうに言われたくない、なって、」
彼女の耳が垂れた。彼女が、アゼムと自身の違いに複雑な想いを抱いているのは知っていた。二人は元の魂を同じくする人間であるから、その部分を見れば確かに相似するのだ。しかし、アゼムはアゼムとして生きて、彼女は彼女として生まれて生きてきた。決して同一ではない。そして、自分はアゼムではなくてコレーだからそう在りたいのだと吐露された日を思い出す。
「君があの人と違う事は、よく理解しているつもりで、だから……例え君の魂の色を知ったとしてもそんな事は思ったりはしないさ」
垂れた耳にそっと手を重ねて頭を撫でる。元気のなくなった尾がそわりと少し揺れた。
「ただ、自分すら知らない部分を…彼らが知っているというのが、その、」
詰まるところこの感情は醜い嫉妬だ。
君の全てを知りたいのだと。余すところなく、いっその事魂さえも握らせて欲しいという呆れるような独占欲が焼き焦がしている。
「君の全てを視たかったんだ」
自分のその感情を醜いと考えるヘルメスは顔を伏せて段々と声が小さくなる。こんな所を見せたくないのに、けれども想いが止められない。
「それは私も同じだよ」
ヘルメスの俯いた顔を両の手で包む。
「私の知らないあなたの全てを見られたらいいのに」
自分の見せられる記憶は過去視で彼に見せたけれど、自分は必ずしも過去視が使えるわけでもなく、更には自分と比べて長い命を持つ彼らの全てを知ることなど叶わない。エーテルも魂も見る目も持ち合わせていない。見たままの彼を捉えることしかできないのだ。だから精一杯、彼の眼を、顔の形、香り、髪の色、触れた柔らかさ、色々な全てを自身に焼き付けたい。
「これから先は一緒に見てくれるかな?」
深緑の髪に顔を埋めて尋ねてみれば大きな腕で抱き寄せられる。
私たちがどこまで一緒にいられるのかは未知だけれども、出来うる限りの長い時間、共に在れたなら。
愛する人の優しい香りがする。その安堵感に目を閉じて、コレーは顔を綻ばせた。