コレーを膝の上に乗せていたアゼムがエメトセルクから拳骨を喰らい、再度全員が着席をする。
「さて、まずはこれからの話をしようか」
頭をさすりながらアゼムは口を開く。
「宇宙に翔び立ったメーティオンの分体について、だな」
両腕を組んだエメトセルクは眉間に皺を寄せて、ヘルメスの膝の上で眠る小さな黒いメーティオンに目を向けた。
「分体達は、回収する手立てはあるのか? または消滅させる方法は」
「……どちらも……できるようにしてある」
消滅という言葉にヘルメスが眉根を寄せたのをコレーは見逃さなかった。
「一応、ヘルメス、君の希望は」
アゼムが尋ねるとヘルメスは小さく口を開き、そして一度言葉を詰まらせる。そしてそっとメーティオンを撫でると顔を上げる。
「……全ての姉妹達も消滅させる事なく回収したい」
予想していた答えだった。きっと彼ならば、そう答えるだろうとコレーは思っていた。
「コレー、君の意見を聞かせてくれないだろうか」
アゼムに話を振られて驚いたようにコレーは目を見開く。
「私? でも、私は…この時代の人間じゃないのに」
「構わない。君から見て、我々は星々からの絶望に染まった姉妹達を回収するに足り得る存在だと思うかい?」
アゼムがコレーに話を振った意図を理解して息を呑む。
優しい楽園。死とは遠く離れた存在。穏やかで諍いを知らない人々。絶望からは遠く離れた世界で暮らすこの時代の人々が終末に真正面から抗うことが出来るのかと彼女はコレーに問うているのだ。
確かにこの時代の人々は万物を創り出し、肉体も魔法も自分たちとは比べ物にならないほどに強いのだろう。けれども。
「……今まで見た限り、この世界の人々は……メーティオンの絶望の謳に耐えられると思えない。姉妹達が集まるという事はそれだけデュナミスを行使する存在が集まるという事。そして回収するということは彼女たちが意識を保った状態でここまで戻ってくることでしょう? 天の果てから届く絶望がここに持ち帰られて、それで無事でいられると思えない」
コレーは目を伏せて自分のローブを握りしめる。
自分は見てしまった。終末の起きたアーモロートを。人々は恐怖で逃げ回り、暴走した創造魔法が更なる獣を生み出していくあの地獄のような最後の日を。
「姉妹達が天の果てに巣を作る前に終わらせれば……大きなデュナミスの力を行使する前に終わらせれば、終末は回避することが出来ると思います。今ここにいるメーティオンも助ける事ができる」
「ヘルメス、あなたにとって姉妹達も大切な生きた存在で、その子達の集めた答えを全て聞き届けたいと思っている事は理解している。どちらかを天秤にかけるのは違うのもわかっている。それでも、それでも、私は……今ここにいるメーティオンが助けるために、姉妹達を消滅させる他ないと思ってる」