『お菓子よりも…』「珍しい。お菓子ですか?」
夕飯後にコーヒーと緑茶を淹れるのが習慣になっているトキヤと真斗だが、今日は少し様子が違った。
チョコレートコーティングされた棒状のお菓子も一緒に出されており、トキヤは物珍しげに問う。
「む?一十木が今日はこの菓子を一ノ瀬に出すと喜ぶと言っていたのだが…ん?」
トキヤに“失礼”と断りをいれて、テーブルの端で震えるスマートフォンを手に取る。
どうやら着信ではなく、メッセージが届いたようで慣れない手付きで操作をしていた。
その隙にトキヤはカレンダーにちらりと視線をやり、今日が11月11日であることを確認すると小さく息を吐く。
(はぁ。音也ときたら聖川さんに変なことを教えて……後できつく言っておかないと)
「いち、のせ」
「あっ、は……い」
名前を呼ばれて真斗を見るとお菓子を一本、口に咥えた状態でこちらを見ていて、トキヤの動きが止まってしまった。
「い、いっときが、こうひないとよろこば、ないかもほ…」
流石に恥ずかしいのか、真斗はトキヤの目を見れずに視線が泳いでしまう。
「聖川さん」
「いち、んっ」
トキヤは真斗の腰を掴んで引き寄せるとお菓子の端を咥えて食べ始めた。カリカリと小刻みに食べ進め、あっという間にお菓子ごと真斗の唇を喰らう。
くちゅ…ん…、ちゅ、はふ…むぐ…
真斗が咥えていた部分の菓子を舌で咥内に押し込めて、食べさせるとチョコレートの甘い香りがふわりと鼻を抜けた。
「んぅ……いちの、せ」
鼻にかかった声に名前を呼ばれたトキヤは、真斗を抱き寄せて至近距離で囁く。
「聖川さん、わかっていてやったでしょう?」
「……ッ、いや、その」
恐らく、お菓子を使ったゲームのことを音也に聞かされて“やってみたらトキヤ喜ぶかもよ?”とでも唆されたであろうことは、お菓子を咥えた真斗の姿で確信したトキヤだが、その部分には敢えて触れない。
「すまん、悪気があった訳では、んっ、いち……んっ」
トキヤは真斗の言葉を遮るように啄むようなキスを降らせる。
「ふふ、お菓子よりも貴方の方が余程甘い。では、」
ーーいただきます。
その一言で、二人はゆっくりソファーに沈んでいった。