あの海で待っていた 立香が倉庫を出て行って、また元の薄暗い静寂に戻った中でひとり、カレーの残りを味わう。野菜も肉もふんだんに、かつかなり豪快なサイズで放り込まれているのが何だか“らしい”な、とそっと笑う。でも味付けはしっかりしていて、きっと話に聞いた食堂の守護者の教えを受けたのだろう。
(そうだ。俺は、知ってる。トンデモ宇宙で大事件に巻き込まれたことも。得意料理のカレーが役に立ったことも。──“友人”から、聞いた通りだ)
間違いない。彼は、彼こそは、自分の知る藤丸立香だ。人類最後のマスターで、ただひとりの大切な友人──に、なる少年だ。
またな、とは、言ったけれども。
まさかこんな形で“再会”が叶うだなんて、夢にも思わなかった。サーヴァントは夢を見ないというのに。亡霊じみた死に損ないには過ぎた、あまりにも幸福な夢のような時間。
「はは、美味ぇーーー…………」
目の裏が刺すように痛んで、喉の奥から込み上げるものがあって、せっかくのカレーの味が分からなくなってしまいそうだ。
彼が自分を、マンドリカルドというライダーのことを知らないのは、会ってすぐに目を見て分かっていた。マスターの存在しない筈のサーヴァント・ユニヴァースに何故かいる彼が、本当に自分の知る藤丸立香かどうかなんて、どうでも良かった。自分を見返してきたあの透き通る青い目と、藤丸立香の名を持つ少年を、何があろうと守り、生かす。それが己がここに現界している理由で、存在意義だ。
彼がもしもこの後大西洋異聞帯に行かずに済むのなら、その方が彼のためだとさえ思ったこともあったのに。
間違いなく、あのアトランティスで出会えた友人なのだと実感してしまった。もう一度共に戦えることが、信頼を貰えたことが、嬉しいと思ってしまった。
彼の道行きは常に苦難と絶望に塗れている。アトランティスのみならずこの蒼輝銀河でも、自分は最後まで共に行けないだろうことが歯痒いが。
(必ず守る。絶対に、死なせない)
だからどうか生きて、あの海で待つ置き去りにされた男に、出会ってやってほしい。