Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    あまや

    ⚠️閲覧ありがとうございます。こちらは店じまいして、ベッターへ移行予定です。ゆるゆる作業進めるのでもうしばらくお付き合いいただけると幸いです

    CP混在。タグをご活用ください
    リアクションありがとうございます☀︎

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 56

    あまや

    ☆quiet follow

    SS/凪茨
    ⚠︎どこかの民族っぽいファンタジー話/アイドルしてない/雨乞いとか巫女とか生贄とかいうワードが出てくる/文化レベルは謎

    いつになく我の強い設定なのでお気をつけてどうぞ

    ##凪茨

    長いこと雨が降らなかった。村にある記録の中で過去一の長さだと長老が嘆いていたくらいの日照り。作物は枯れ、川の水位もかなり下がってしまった。毎日執り行っている巫女による雨乞いの儀式も功を奏さない。弱いものから死んでいった。老人、幼子。このままでは村が全滅してしまうことを危惧した大人たちが、ついに生贄を捧げることを決めた。それは巫女が村中の子どもたちの中から占いで決める。村で信仰する太陽の神様は若い肉体を好むと伝えられていた。そうして白羽の矢がたったのが閣下だった。五日前のことだ。
    閣下の家は村の豪族できっと巫女に占いをやり直させたり、別の子どもを代わりに差し出すことができた。誰も好き好んで後継を生贄に捧げたりなどしない。でも閣下は心根の清らかな方だったので、両親がそうする前に自ら生贄に選ばれたことを喧伝して回った。馬鹿だと思った。黙って家の中でやり過ごしていれば、こんな結果簡単に覆せたのに。
    「私が茨に雨をあげるね」
    生贄に決まったと分かって駆けつけた俺に、閣下は落ち着いた顔でそう言った。微笑みすら浮かべていた。

    儀式までの三日間は生贄が神様に気に入られるように贅の限りを尽くして持て成す。そして最終日の夕方に心身のお清めを行い、この山の頂上にある祭祀場で儀式が執り行われる。
    村に食べ物など残っていなことは誰が見ても明白だったから、閣下は多くを望まなかった。水と少しの食糧。それから自由な時間。閣下はこれが最後とばかりに村中を歩き尽くした。俺はその供に選ばれた。三日間、閣下の護衛を行い祭祀場までお連れする。すれ違い様に沢山の村人が閣下に頭を下げた。老人たちは儀式の成功を願い拝んでいたし、大人たちは若くして散る優秀な人材を惜しんで嘆いていた。
    「随分と慕われていたんですね」
    「そうかな」
    普段と変わりない様子の閣下に、俺は内心とても苛ついていた。大人の勝手な都合で生贄にされたことも、それに文句を言うどころか諾々と従っている閣下にも。生贄なんかで雨が降るなら世界中どこでだって日照りなどとは無縁のはずだ。ちょっと考えれば子どもの俺でもわかるのに、この村ではまだそんな眉唾な信仰が生きていた。
    俺は孤児で、これまで俺を拾った大人に連れられて村の外で生きていた。労働力として駆り出されて色々な村や街を回っていたのだけれど、その大人がこの村で病に倒れて死んでしまったところを、閣下の家に拾われ、それ以降ここに下働きとして定住している。子が子なら、親も親だ。きっと代々お人好しの家なのだ。生贄に捧げるのが誰でもいいのなら、身寄りもない、村の出身でもない俺を出すべきだった。そうしたら後継は無事で、村の誰も悲しまないし、胸も痛まない。ただ儀式の間粛々と過ごしていればそれでよかったのに。
    「今日は一緒に寝てくれる?」
    最後の晩、閣下はそんなささやかな願いを口にした。生贄の要望は全て叶えなければならないと言われているので俺に拒否権はもともとなかったが、それでも閣下は嫌なら断っていいよと言った。別に嫌なことは何もなかったので俺は悩まず首肯した。閣下は夜通し俺の話をねだり、俺は請われるまま外の世界の話をしてやった。海の話、街の話、食べ物、仕事、ひと、動物。閣下はひどく楽しそうにひとつひとつの話に好奇心のまま質問をしては自分なりの考えを口にした。話せば話すほどこの人の聡明さが分かって明日死んでしまうのが口惜しかった。何より本人がそれをよしとしていることが悔しかった。こんなに楽しそうに興味津々に俺の話を聞いているのに、未練なんてありませんって顔をしていたのがムカついた。
    だからだと思う。
    「茨、」
    祭祀場の門前までしか付き添いの人間はついていけない決まりとなっていた。閣下は白く穢れない衣装に身を包み、じゃらじゃらとたくさんの装飾と冠をつけて着飾っていた。
    「茨、どうか、私の分まで健やかに」
    振り返った閣下は涙を流していた。この人が泣いているところを初めて見た。いつも穏やかに微笑んでいて、怒ることも滅多になかった。よそ者の孤児の俺にも分け隔てなく接して、いつも父母の言いつけを守って良い行いを努めようとする、優しいひとだった。
    「閣下」
    「大丈夫、昨晩たくさん茨と話しができて、覚悟を決められたんだ。言ったよね、君に雨をあげるって。ちゃんとお役目を果たすから、見ていてね」
    閣下は心を落ち着けるように、俺の頭を何度も撫でた。最後に俺の形をその掌に刻みつけるように、目に焼き付けるように顔をなぞり、じいと俺を見つめた。そして泣きながらも、やっぱり微笑んでいた。
    「またね、茨。父様と母様をお願い」
    そこから先は巫女と生贄しか入れない禁域だった。俺は無情にも閉まってゆく扉の隙間から最後まで閣下の背を見つめていた。美しい銀髪も夕陽のような瞳も今日を最後に永遠に消えてしまう。あの優しい微笑みも、穏やかな声も。茨、と嬉しそうに俺の名を呼んで頭を撫でた手も。
    閣下は多分こんな村を出て外の世界に行きたかったんだと思う。よそ者に厳しい村の中で、閣下だけはいつも俺に外の世界の話をねだった。頭もよかったし機転も利いたから、閣下なら十分外でもやっていけると思っていた。村の外に出られたらやってみたいことがあるのも知っていた。でも、優しいひとだったから、両親の期待に応えようとしてそんな望みを誰にも話していなかった。大人しく親の跡を継ぎこの村に骨を埋める覚悟をしていた。それが、村の期待を背負って生贄として死ぬに取り代わっただけだ。でもそんなのってあんまりだ。雨なんて待ってたらそのうち降るのに。閣下が死んだって降ったらなんかしないのに。無駄死にだ。
    そう思った時には俺の体は動いていて、目の前の扉を蹴破っていた。後ろに控えていた大人たちが驚いているうちに禁域に駆け込む。はっとした大人が戻ってくるように大声で叫ぶがそんなもん知ったことか。意気地がなくて俺を追っかけて来れないような大人の言うことなんて聞いてやる価値もない。
    「閣下!」
    右も左も分からない祭祀場の中を駆けずり回って、棺に収まろうとする閣下の背を見つけた。巫女たちが驚いていたが構わない。
    「こんな無駄なことしなくていいんです。あなたが死んでも雨なんて降ったりしない!」
    「不敬者!」
    「うるさいあんたに喋ってない!」
    棺に収まりかけた閣下を立ち上がらせて手を引く。俺が閣下を連れ出そうとしていると分かった巫女たちがそれを阻止しようと立ち塞がるが、俺の方がそいつらより何倍も武力に長けていた。その昔兵士として戦場に連れ出されていた技術がこんなところで発揮されるとは思わなかった。
    「茨やめて!」
    「やめない!あなただって分かってるでしょう、こんなことしても雨なんか降らないって!俺よりうんと賢いんですから!」
    「だからってこの人たちを傷つけていいってことにはならない!」
    「べつに傷つけるつもりはありません!ただ俺があなたを逃している間、ちょっと大人しくしてもらえればそれでいいんです」
    「茨……」
    閣下がすがるように俺の腕を引く。俺は巫女たちを警戒しながらもその手に引かれて閣下を振り返った。
    「生きたいんでしょう!?」
    閣下が目を見開く。
    「船に乗ってみたいんでしょ、街に降りてみたいんでしょ!会いたい人がいるんでしょ!」
    俺に縋り付く閣下の手をとって、力強く握りしめた。瞳が細かに揺れている。眉がへたれてみたことないくらい可哀想な顔になっていた。
    「諦めんな!死にたくないって言え!」
    「でも」
    「でももだってもない!雨の仕組みは街では研究が進んでるんだ!こんなこと不要なんだってちゃんと分かってるんだ!そんなことより、川でも引いてきた方が百倍まともだって、あんただって知ってるだろ!」
    「いばら」
    「言えって、助けてって、生きたいって!」
    「わたし……」
    閣下の震える唇が僅かに動いた。いきたいと、声にならない声が動きで分かった。
    「いばらと、いきたい」
    されるがままだった閣下が俺の手を強くにぎり返してくる。嬉しかった。この人がやっと誰に憚れるでもなく自分の望みを口にしたことが。こんな古いやり方に飲まれてこの才能が失われないことが。だから俺は今までで一番明るい笑顔を作った。閣下を安心させるように。
    「俺も同じ気持ちです!」
    そうして、彼の手を引いて駆け出したのだった。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏☺👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    あまや

    TRAINING習作/凪茨(主人公ジュン、下二人メイン)
    ⚠︎パラレル。アイドルしてません
    三人称の練習兼、夏っぽいネタ(ホラー)(詐欺)

    登場人物
    ジュン…幽霊が見える。怖がり
    茨…ジュンの友達。見えない。人外に好かれやすい
    おひいさん…ジュンの知り合い。祓う力がある(※今回は出てきません)
    閣下…茨の保護者
    三連休明けの学校ほど億劫なものはない。期末テストも終わりあとは終業式を残すのみではあるのだが、その数日さえ惜しいほど休暇を待ち遠しく思うのは高校生なら皆そうだろう。ジュンはそんなことを思いながら今日もじりじりと肌を焼く太陽の下、自転車で通学路を進んでいた。休みになれば早起きも、この茹だるような暑さからも解放される。これほど喜ばしいことはない。
    「はよざいまーす」
    所定の駐輪場に止め校舎へ向かっていると、目の前によく知った背中が現れた。ぽん、と肩を叩き彼の顔を覗き込むとそれは三連休の前に見た七種茨の顔とはすっかり変わっていた。
    「ひええ!?」
    「ひとの顔を見てそうそう失礼な人ですね」
    不機嫌そうな声と共にジュンを振り返ったのはおそらく七種茨であろう人物だった。特徴的な髪色と同じくらいの背丈からまず間違いなくそうだろうと思い声をかけたのだから、振り返った顔はジュンのよく知るメガネをかけた、男にしては少し可愛げのある顔のはずだった。が、見えなかったのだ。間違った文字をボールペンでぐるぐると消すように、茨の顔は黒い線でぐるぐる塗りつぶされていた。
    5826

    recommended works