Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    あまや

    ⚠️閲覧ありがとうございます。こちらは店じまいして、ベッターへ移行予定です。ゆるゆる作業進めるのでもうしばらくお付き合いいただけると幸いです

    CP混在。タグをご活用ください
    リアクションありがとうございます☀︎

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 56

    あまや

    ☆quiet follow

    SSS/凪茨
    初詣にいく凪茨
    ⚠︎未来捏造/一緒に住んでる

    ##凪茨

    初詣閣下が初詣に行ってみたいとおっしゃった。それも三が日のうちになんて話ではなくて、一般人の多くがそうするように、大晦日に寺社に行き百八つの除夜の鐘を聞いて日付が変わったらすぐ詣でてみたいという。年末にはSSやらカウコンやらがありスケジュール上大変難しく、また人気アイドルである閣下は変装してもそのあまりあるオーラで場を混乱させてしまう。そういった理由を告げてその時は断ったし、それは閣下も理解しているところだったのだろう、それ以上駄々をこねられることはなかった。
    「行きましょう、初詣」
    「……? 茨がこういったイベントに参加したいなんて珍しいね?」
    「……分かってましたけどね〜!」
    だから少し、いやだいぶ年月が経ってしまったけれど閣下の望みを叶えようと色々調整して今日という日を迎えたのに、願った本人がこれである。しかしここまでは想定内。かつて十代の自分がクリスマスの準備を整えた時に同様の返しをされたのでもしや、とその可能性があることも予想していた。なのでダメージも少ない。はずだ。
    「私、またやっちゃった? ごめんね?」
    「いえ、いいのです! すでに閣下がご所望されてから十余年経過しておりますので、スケジュールを整えられずここまで引き伸ばしてしまった自分の力不足を責められることはあれど閣下が責められるいわれはありません! ゆえに、謝罪は不要です!」
    少し早めの年越しそばを食べ、テレビを見ながらこたつでみかんを剥いていた閣下は、俺の態度に何かを察したらしく眉をしょんぼりと垂れ下げた。それを見て俺は慌てて閣下に非はないと弁解する。実際、請われたときに閣下にはすでに断りを入れていて、それでもなんとか叶えてやりたいと勝手に動いていたのは俺の方なのだ。頭を下げてもらう必要はない。
    テレビでは今年のSSの覇者がアンコールに応えて一曲歌っている所だった。かつて俺たちが立ち、優勝を掴んだ舞台。名実ともにナンバーワンとなった俺たちは、次世代を担うコズプロアイドルたちにSS優勝という箔をつけさせるため近年は出場を辞退している。離れて久しい舞台であったが、こうやって煌びやかなステージを見るとまるでついこの間のことのようにあの時の熱気と高揚感が思い出された。年の瀬にやってくる、一年で一番輝けるステージ。
    「茨、行こう」
    「え?」
    「初詣」
    俺がテレビの中のアイドルに記憶を重ねてじんわりと懐かしんでいる間に、閣下はみかんの皮をごみ箱に捨て部屋からコートを持ってやってきた。ぱちぱち瞬いて閣下を見上げる。
    「……いいのですか?」
    「うん、茨が行けると判断したのなら、きっと周りに迷惑をかけずひっそり楽しめるようにきちんと下準備しているはずだから、それを逃す手はないよね。いつもありがとう」
    「いえ……」
    慈しむように目を細める閣下に照れ臭くなって俺はふいと視線を外した。いつになっても損得関係なく感謝されることには慣れない。でも、素直に嬉しいと感じられるようになったのは成長だろう。それもこれもこの人が教えてくれたことだ。
    「あ、」
    「え?」
    「除夜の鐘」
    閣下が持ってきてくださったコートを受け取って財布とスマホの準備をしているとマフラーを巻いていた閣下が窓の外を見やった。テレビを消してよく耳を澄ますと、確かに遠くの方からごおんと鐘をつく音が聞こえた。
    「申し訳ありません、自分の支度が遅いばかりに!」
    「ううん、大丈夫。元はと言えば私がねだったのに忘れていたせいでもあるわけだし」
    「しかし」
    閣下が椅子に掛けっぱなしになっていた俺のマフラーを手に取り、くるくると俺の首に巻き付ける。口元まで覆われて後ろでリボン結びにされてしまったそれはアラサーの男にはやや厳しいのではないかと思ったが、閣下があんまり楽しそうに笑うのでやめて欲しいとは言い出せなかった。
    「思い出したのだけれど」
    「はい」
    「私、確かに初詣という文化に興味があったのは本当なのだけれど、行ってみたいなって思ったのはそれだけが理由じゃないんだ」
    「はあ」
    荷物を確認した閣下が俺の手を取り玄関へ連れ出す。アレクサに声をかけてリビングの電気を消し、帽子とメガネとマスクで軽く変装して家を出た。我が家はスマートロックだから鍵はいらない。
    路上に出ると手袋をつけていない閣下の手が差し出されて、ぎこちなく握り返した。家の内外問わず、こういった触れ合いにはまだ慣れない。閣下の手が、彫刻のように美しいその外見に反して意外と温かいことを知ったのも随分経ってからだった。
    「茨とね、一晩中一緒にいるにはどうしたらいいかなって考えてて、初詣に行けば朝まで一緒にいられるなって思って、それで君を誘っていたんだ」
    「は」
    「でも、もうわざわざ口実を作らなくても良くなったから」
    「そ、そうですね」
    繋いだ手に力が込められる。至近距離で見上げた閣下は、変装していてもやはり美しかった。
    「だから来年もその次の年その先も、ずっと私の隣にいてね」 

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    あまや

    TRAINING習作/凪茨(主人公ジュン、下二人メイン)
    ⚠︎パラレル。アイドルしてません
    三人称の練習兼、夏っぽいネタ(ホラー)(詐欺)

    登場人物
    ジュン…幽霊が見える。怖がり
    茨…ジュンの友達。見えない。人外に好かれやすい
    おひいさん…ジュンの知り合い。祓う力がある(※今回は出てきません)
    閣下…茨の保護者
    三連休明けの学校ほど億劫なものはない。期末テストも終わりあとは終業式を残すのみではあるのだが、その数日さえ惜しいほど休暇を待ち遠しく思うのは高校生なら皆そうだろう。ジュンはそんなことを思いながら今日もじりじりと肌を焼く太陽の下、自転車で通学路を進んでいた。休みになれば早起きも、この茹だるような暑さからも解放される。これほど喜ばしいことはない。
    「はよざいまーす」
    所定の駐輪場に止め校舎へ向かっていると、目の前によく知った背中が現れた。ぽん、と肩を叩き彼の顔を覗き込むとそれは三連休の前に見た七種茨の顔とはすっかり変わっていた。
    「ひええ!?」
    「ひとの顔を見てそうそう失礼な人ですね」
    不機嫌そうな声と共にジュンを振り返ったのはおそらく七種茨であろう人物だった。特徴的な髪色と同じくらいの背丈からまず間違いなくそうだろうと思い声をかけたのだから、振り返った顔はジュンのよく知るメガネをかけた、男にしては少し可愛げのある顔のはずだった。が、見えなかったのだ。間違った文字をボールペンでぐるぐると消すように、茨の顔は黒い線でぐるぐる塗りつぶされていた。
    5826

    recommended works