白い馬の見える風景「きみの罪は数えきれないほどあるけれど」
「なんだい藪から棒に」
湖へ向かう木立の中で日和が徐に口を開いた。
猛暑を嫌ってやってきた避暑地に日和がいると知っていれば英智はわざわざここを選ばなかっただろう。大財閥の御曹司の所有する避暑地は毎年異なる場所を選んでも余るほどある。それでも連れてきた可愛い桃李が日和を見つけて本当に嬉しそうに笑うので英智は大人気なく別の別荘へ行こうと声をかけることができなかった。格好悪いところは見せたくなかったのだ。
「あの子をアイドルにしたことだけは、きみの唯一と言ってもいい功績だと思うね」
日和の視線はずっと先を軽やかに進む桃李に向かっている。さわさわと麓よりいくらか涼しい風に吹かれて鳴る葉擦れの音に紛れて、少年特有の甘い声が微かに聞こえた。隣を歩く弓弦となにやら楽しそうに喋っている様子が微笑ましい。兄と弟のようなそれを見ながら英智はふっと笑った。
「僕があの子をアイドルにしたんじゃないよ。あの子が、僕をアイドルにしてくれたんだ」
「……そうだね、あの子が“ぼくたち(fine)”に意味を与えてくれたんだね」
木漏れ日がまだらに桃李に影を落として、水面のように移ろう。振り返った桃李の瞳がちょうどその光に当てられて鉱石のようにきらりと眩く輝いた。
「英智さまー!日和さまー!置いてっちゃうよー!」
随分離れてしまった二人へ向けて桃李が大きく手を振った。弓弦に被せられた大きな麦わら帽子がひまわりの花のように見えた。
希望の花は今日も美しく咲っている。