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    あまや

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    あまや

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    SSS/凪砂と茨
    ⚠︎CP要素薄

    ##凪茨

    「今日、年下の子たちが究極の選択というもので盛り上がっていてね」
    キッチンは危ないですから座っていてくださいと伝えても、読書に飽きたのか俺の周りをうろうろする閣下に、仕方なくサラダを一品作ってもらうことにした。豆腐とアボカドをスプーンでくり抜いて特定の調味料で混ぜるだけの手抜きサラダは、火も包丁も使わなくて済むので安心安全だ。大切な閣下の手指に傷はおろかささくれのひとつだってあってはならないので、念のため使い捨ての手袋をつけて作業してもらう。
    「日和くんと茨が崖から落ちそうになっていたら、どちらを助けるんですかって聞かれちゃった」
    「……はあ」
    キッチンに立つ閣下はどこか上機嫌だった。
    「面白いよね。前提条件が何も示されていないのに、とにかくどちらを助けるか回答しないといけないそうだよ。とんでもない暴論だね」
    「二人とも助けるという選択肢はないというやつですね」
    「茨も知っているの?」
    「まあ、誰しも一度は通る質問ではないでしょうか。そういったことが楽しくて仕方ない年代というものがあるんですよ」
    「茨にもあった?」
    「あったように見えますか?」
    見えない、と笑った閣下は適当に混ぜ合わせた調味料の味見をして、出来上がりに満足したらしかった。事前に俺が半分に切って種を取り除いていたアボカドを手に取り、くり抜く作業に移行する。
    「ねえ、どちらを選んだか気にならない?」
    「気になるも気にならないも、答えは最初から決まっているようなものではないですか」
    「そう?」
    「賭けてもいいですけど、日和殿下を選ばれたのでは?」
    「正解」
    チキンライスを作り終えた俺は新しいフライパンを取り出す。次は卵の準備をしなければならない。今夜は閣下御所望の「この前テレビで見たドレスみたいなオムライス」だ。なんのことかと思ったら、くるりと捻った半熟の卵がのっているオムライスが見た目が可愛らしいと最近流行っているらしい。ついこの間「テレビで見たぷるぷるのオムライスが食べたい」と言われたような気がするのに、流行の移り変わりとは早いものだ。
    アイドル業界も似たようなもので、なればこそ大衆心理をよく分析し、流行を作ってやる勢いでいつも新しいEdenを提供しなければならない。娯楽産業は日常生活に必須ではないからこそ、切り捨てられたり、あっという間によそのアイドルに取って代わられたりしないようターゲットの心を掴んで離さない工夫を凝らす不断の努力が必要である。
    ちなみに「ぷるぷるのオムライス」とやらは食べる直前にチキンライスの上にのせたオムレツをナイフで切り開くタンポポオムライスなるものだった。
    「茨はなんでもお見通しだね」
    「まあ自分はどのような状況でも自分の命を一番に選ぶ最低野郎なので、閣下の選択は正しいと思いますよ」
    「露悪的な言い方。人は皆自分が一番可愛い生き物だよ。それが愚かでもありとても人間らしいとも思う」
    「ははは、ありがたいお言葉ですな。――と言ったものの、そもそも自分、そんな窮地に陥るほど危ない橋を渡ったりしませんからね。万が一があったとしてもなんとか致命傷を避けリカバリーできる手段を残していますし」
    「茨は賢いからね」
    水溶き片栗粉を準備して卵と一緒に切るようにかき混ぜる。あとはフライパンにバターを溶かして、卵を入れて成形するだけだ。が、どうやら閣下の話はまだ続きがありそうだ。今日のために何度か練習をしたとはいえ、話しながら作業すると破けてしまう可能性があったので一旦手を止める。閣下はというと、ボウルに材料を全て入れて調味料を満遍なく絡めるように軽く混ぜ合わせているところだった。
    「とはいえ、今回の場合、そういった前提条件は何も加味されていなかった。純粋に目の前で危機が迫る日和くんと茨のどちらを選ぶかという質問。それでも私は日和くんを選んだよ」
    一仕事を終えた閣下がこちらを振り向く。その瞳は心なしかいつもよりキラキラと輝いていた。照明のせいではない。何か言いたいことがあるんじゃない?と、期待しているような表情だ。もちろんサラダが上手にできたことを褒めて欲しいわけではないだろう。俺はこの話の流れで閣下が俺に求めているものを頭をフル回転させて弾き出す。
    「……えー、もしかして、アレをご希望されていらっしゃいますか? 自分よりも親友を選ぶなんて信じられない!みたいな反応」
    「ちょっとだけ」
    「閣下……」
    あまりにも子どもじみているというか、母親の気を引きたい駄々っ子みたいな回答に呆れてしまった。閣下の甘えは時々すごく分かりにくく、アホらしい。本人に伝えたことはないけれど、多分伝わっている。それを咎められたことはないし、その上でこういう茶番を求められるのだから、多分俺はそのままで良いのだろう、ということにしている。
    「ふふ、ごめんね。その話は置いておくとして、茨はその志向からして絶対に生きることを諦めないでしょう? 私は君のその強さを信じているからあえて手を差し伸ばす必要はないと思っているよ。施しは嫌いだものね」
    「よおくご存じじゃないですか」
    私は茨の相方だからね、と閣下は笑った。
    「でも日和くんはね、家族のためなら自分を諦められる人。だから、私だけは彼の手を離してはいけない」
    「それはもしかして遠回しに自分のこと詰ってます?」
    「茨はそれでいいんだよ」
    「まあ今更変えろと言われて変えられるようなものではありませんが」
    「うん。君は自分の命が他人に握られることをひどく厭うから。それに、君にとっては私と日和くんが二人無事でいた方がありがたい話でしょう」
    「ビジネス的にはそうですね」
    「君にとって有用な私であり続けることが、もっとも効果的な君の努力への還元方法」
    ふふん、とどこか閣下は得意げだ。まるで百点の答案を先生に返されて喜んでいる生徒のように見える。
    確かに閣下のおっしゃることに間違いはない。俺は自分の命も未来も誰かの手に委ねることはできない人間だ。それは他人への警戒心が強いという意味でもそうであるし、自分の未来を自分で掴むことにこそ意味があるという考え方故でもある。誰かの敷いたレールの上を歩くだけじゃつまらない。俺は俺のみたい景色のために精一杯この身を燃やしたい。
    閣下はそれを分かっていて俺を自由に遊ばせている。本当は俺がこの人を支配して利用して好き勝手しようと思っていたのに、当初の計画はとっくに頓挫してしまった。というのは少し大袈裟で、本当はまだほんの少しこの神のような男をすら出し抜いてこの世の頂点に立つことを諦めていない。バレているのかもしれないけれどやっぱり閣下は何もおっしゃらないから、その野望は未だこの胸に大事に大事にしまっている。計画は密やかに、綿密に、間違いのないよう実行しなければならない。だから時期を見誤ってはいけない。それこそが俺の生きる意味。
    ともあれ、俺たちは現在お互いにお互いを利用してうまくやっていけている。ギブアンドテイクはビジネスの基本だ。それは相手の思想や行動原理を紐解き理解を深め続けることで、より長期的な視点でもってこの関係を継続させることに一役買っている。だから閣下が俺を選ばなかったことを喜びはすれ、嘆く必要は何もない。それを分かっていて強請ってくるのだから、やはりこの人はまだまだ子どものように純粋で無邪気なのだろう。
    「私は君の強さを信じることで、君の信頼に応えることができる。直接君の手を取ることはないかもしれないけれど、それが最終的には君を選ぶことになる、と解釈しているよ」
    だから私はその時がきたら日和くんを選ぶよ。閣下は再びそう俺に伝えた。誇らしげな顔をしていた。



    「それで、今の話のどこにそんなにご機嫌になる要素がおありでしたか?」
    話に区切りがついたところで、俺は閣下御所望のドレス・ド・オムライスの作成に取り掛かった。溶かしたバターの上に水溶き片栗粉と合わせた溶き卵を流し込み、菜箸でいち、に、さん。練習の甲斐あってうまく巻き上げることができたそのドレープを崩さないように慎重に丸いチキンライスの上にかぶせていく。
    閣下は珍しい鉱石を前にした時のように頬を紅潮させてその様子を見守り、出来上がったオムライスののった皿を掲げて矯めつ眇めつその美しく波打った卵を眺めていた。
    「ふふ、それはね」
    閣下が静かに皿を置いて俺の真横に寄ってくる。それから、小さな子どもが内緒話をするみたいににやにやと顔を綻ばせて、俺の耳元にそっと唇を寄せた。
    「私は私が思っているよりずっと茨のことが大好きみたい、ということだよ」

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    あまや

    TRAINING習作/凪茨(主人公ジュン、下二人メイン)
    ⚠︎パラレル。アイドルしてません
    三人称の練習兼、夏っぽいネタ(ホラー)(詐欺)

    登場人物
    ジュン…幽霊が見える。怖がり
    茨…ジュンの友達。見えない。人外に好かれやすい
    おひいさん…ジュンの知り合い。祓う力がある(※今回は出てきません)
    閣下…茨の保護者
    三連休明けの学校ほど億劫なものはない。期末テストも終わりあとは終業式を残すのみではあるのだが、その数日さえ惜しいほど休暇を待ち遠しく思うのは高校生なら皆そうだろう。ジュンはそんなことを思いながら今日もじりじりと肌を焼く太陽の下、自転車で通学路を進んでいた。休みになれば早起きも、この茹だるような暑さからも解放される。これほど喜ばしいことはない。
    「はよざいまーす」
    所定の駐輪場に止め校舎へ向かっていると、目の前によく知った背中が現れた。ぽん、と肩を叩き彼の顔を覗き込むとそれは三連休の前に見た七種茨の顔とはすっかり変わっていた。
    「ひええ!?」
    「ひとの顔を見てそうそう失礼な人ですね」
    不機嫌そうな声と共にジュンを振り返ったのはおそらく七種茨であろう人物だった。特徴的な髪色と同じくらいの背丈からまず間違いなくそうだろうと思い声をかけたのだから、振り返った顔はジュンのよく知るメガネをかけた、男にしては少し可愛げのある顔のはずだった。が、見えなかったのだ。間違った文字をボールペンでぐるぐると消すように、茨の顔は黒い線でぐるぐる塗りつぶされていた。
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