十三期がもうすぐ終わる。ルーキーたちはしっかりと成長していて、もう教えることは何もないのでは、と思う。自分が受け持ったアキラとウィルも目覚しい成長を遂げた。そして、自分の恋人であるフェイスさんも。
「昇格試験、合格おめでとうございます」
「ありがと。オスカーも、おめでと」
来期から、彼はダブルエーのヒーローとして、そして俺はメジャーヒーローとして働く。メンターとしての仕事は一旦終わりとなり、俺もフェイスさんも引っ越さなければならない。
「あ、あの……フェイスさん、来期から、その……」
どこで暮らすんですか? とひねり出した言葉に彼は首を傾げる。
「来期もウエスト所属だし、どっか部屋借りようかなって。実家からだと流石にウエストは遠いから」
母さんたちは帰ってこないの? って聞いてくるけど流石にね。アニキも帰ってこなかったし、一人の方が気楽だし。と話を続けている。
「あの、では……俺と、一緒に暮らしてくれませんか?」
その言葉にきょとりと目を瞬かせ、そして言葉の意味を理解した瞬間に顔を赤く染める。俺と違って白い肌は、その朱を際立たせる。
「あなたとの将来を、真剣に考えているんです。……できる限り、一緒にいたいんです」
「でも、ブラッドと一緒じゃなきゃ、」
「ブラッドさまは俺のプライベートな時間までは拘束しないと仰っていました。公的な部分ではブラッドさまに付き従いますが、そうでない部分は好きにしろと言われています。……俺の心を、もらってくれませんか」
真っ赤な顔のまま、彼は俯いてしまう。この身長差では、どんな顔をしているのか見ることは叶わない。
「……どうして、俺なの?」
「どうして? お付き合いしているから、ということではないんですよね……? 何故あなたを好きなのか、でいいんでしょうか?」
こくりと頷いた彼を見て、少し考える。好きになってしまったから。何故か、いつからだっただろうか。
「あなたがいい、と思ったのは……俺の手を、引いてくれたから。何かあったら、おいでと俺の手を引いて、見たことのない明るい世界を教えてくれたから。音楽が楽しいものだということも、秘密基地が楽しいことも、ご飯が美味しいことも、全てあなたが手を引いてくれて、俺は知ることができたんです。だから、あなたが好きです。フェイスさん」
憧れのような淡い気持ちが、いつの間にか恋に変わっていた。恋は美しいものだと、お伽噺を読んだときに教えてくれたのは目の前にいる彼だ。だから、キスがしたい、身体が欲しい、心も欲しい、俺だけがいいなんて願うこんな醜いものは恋じゃないと無理矢理にでも押しとどめて置くべきだと思っていたのに、それでいいよと彼が笑ってくれたから。それも、恋だよと背中を押してくれたから。
「あなたがいたから、俺は恋を知って、愛を知ることができたんです」
触れたいと唯一思った相手。愛が欲しいと願った唯一の相手。今まで、セックスは義務でしかなかったのに、今は彼の全てが愛おしい。自分を抑えられないとはこういうことなのかと日々自省するばかりだ。
「愛してます、フェイスさん。……どうか、俺と暮らしてください」
返事を待たずに抱きしめる。フェイスさんの手が、そっと背中に回される。
「……返品はできないからね」
ちゅ、と唇が触れ合う。
「返品なんて、あなたが離してくれと言ったってきっとできません。……ああ、愛おしすぎて、この腕の中から離したくない……」
「だぁめ。……どこに住むか、決めなきゃでしょ」
くすくすと笑った彼を見つめて、それでも今はこのままがいいなともう一度強く抱きしめた。