棘乙風味クラッカーの音と同時に、暗かった部屋が明るくなる。目を丸くしていた本日の主役は、目の前に差し出された【棘君お誕生日おめでとう】のプレート付ケーキを見ると、丸い目を細くして微笑んだ。
「狗巻先輩!誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます。」
「めでてぇな棘!ほら、吹き消せよ!」
ケーキの上で仄かに点っていた火を吹き消し、改めて同級生と後輩からの祝いの言葉を受ける。そんな彼の様子を、少し離れた場所から僕は見守っていた。
呪言師を産み出せる家系でありながら、呪言師を排除する家に産まれた棘。決して皆から誕生を祝われてはいなかった筈だ。呪術界隈には自分の保身しか頭にない、こり固まった老害が多いから。でも、そんな界隈内で彼が心優しく育ったのも、今こうして笑顔でいられるのも、恵まれた人間関係があっての事だろう。
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