《棘乙?》ジューンブライド関係ない気がしてきた… 六月の結婚はジューンブライドと呼ばれ、《式を上げた花嫁は永遠に幸せになれる》と言われている。
ここは呪術師御用達のコンビニ。
乙骨は友達が買い物をしている間、暇潰しにと雑誌コーナーに足を運んだ。
『梅雨のジメッとした時期に結婚式挙げたいとか…女って分かんねぇ。』と、薬の棚から箱を取っている男の人がぼやいていた。この人は近く結婚するのだろうか。おめでとうございます、名も知らない人。
(何か無いかな…。)
乙骨は棚を一通り見渡す。だが、そこには求めていた漫画などはなかった。ドレス、和服、ドレス、ドレス、和服。様々な婚礼衣装を身に纏った女性達の表紙ばかりだ。特集は全部ジューンブライド。
(あぁ、もうそんな時期だったのか。時間が経つのは早いな。)
そういえば、女性は結婚する前に婚礼衣装を着ると婚期が遅くなる。と聞いたことがある。このモデル達大丈夫だろうか?まぁ心配した所で、どうしようもないのだが。
乙骨は一番手近な雑誌を取ると、中身をパラパラと捲った。
(ドレスか…うーん…。)
「おーい憂太ー終わったぞー。」
「あ、早かったね。」
「意外とすんなり見つかったからな、期間限定のカレー味のカルパス。」
「棘の精算も直ぐ終わる…ってお前、何見てんだ?」
一足先に買い物を終えた真希とパンダは、乙骨が開いている雑誌を覗き見る。
「ジューンブライド…そんなもんに興味あんのか?」
「えっ、まぁ、ジューンブライドというか、服の方に、ちょっと…。」
「ほっほ~!憂太さんは、運命の花嫁でも見つけたのか~?」
パンダはニヤニヤしながら肩を抱く。それに対して困ったように乙骨は眉を潜めた。
「運命の花嫁って…僕の花嫁は里香ちゃんだけって決めてるから。」
二人は乙骨の事情を知っている。
彼は過去に里香という大切な女性を亡くし、生涯大切にしていくことを誓っている。それ故に先の発言に対して、二人は無言で乙骨の頭を撫で回した。それは、もう、ぐしゃぐしゃに。
「えっ、な、何突然!」
「「いや、何でも。」」
「何でもって…ちょっと二人共…!」
ひとしきり撫で回し、ぼさぼさになった乙骨の髪。彼がそれを直している間、彼が持っていた雑誌を眺める真希とパンダ。
「俺、人間の服とか分かんねぇわ。真希はどうだ?」
「私に聞くな。ただでさえ里香は小さかったからな、大人の女が着る服なんか…。」
「え?何で里香ちゃんが出てくるの?」
「「ん?」」
真希とパンダは首を傾げた。
「お前、里香に似合う服を見てたんじゃねぇの?」
それを聞いた乙骨は首を横に振った。
「違うよ。僕には何が似合うかなって見てただけ。ドレスだと骨格が出ちゃうから、やっぱり和服が良いのかなーって思って。」
「「んん?」」
真希とパンダは更に首を傾げた。
「ちょっと待て、お前は何を言って…。」
「えっ?何って、僕と狗巻君の結婚式の衣装についてだけど?」
二人は乙骨の事情を知っている。
そうだった、こいつは狗巻棘と付き合ってるんだった。二人はその辺に偏見はないが、たまに忘れそうになる。
「僕、成人したら狗巻君の花嫁になるから。隣に立つのに不釣り合いな物にしたくなくて。」
「…。」
「うーん…やっぱり着物の方が体が隠れるから白無垢にしようかな。でも、狗巻君のタキシード姿も見たい。狗巻君なら白よりグレーの方が似合うかな。まぁ、何色でも絶対格好いいもん。ね?二人ともそう思うよね?」
「あ、いや…。」
「じゃあ、やっぱり僕はドレス?でも、どれもこれも筋肉がついたこの体だと似合わないな。狗巻君に気持ち悪いって思われちゃうくらいなら…。」
「おかか。」
突然買い物を終えた狗巻は乙骨の横に現れた。当然のように腰に手を回して、憂太へ向けてにこりと微笑む。
「あっ、狗巻君おかえり。買い物終わったの?」
「しゃけ。」
狗巻は買い物袋を乙骨に見せる。
「あー、いつもの薬と飲み水と…い、狗巻君!真希さんとパンダ君の前でそんな物買わないでよ…!」
「高菜~。」
「もぉ…。あれ、二人共どうしたの?早く帰ろう!」
早く早く!と急かす乙骨と、歩き辛い筈なのに側から決して離れようとしない狗巻。
それを見て真希とパンダの目から光が消えた。
「「爆ぜろ。」」