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    @Futa_futa_2222

    ジャンルごちゃまぜ闇鍋。
    カプは全部プラトニックです。
    官能表現に乏しすぎてどう脳内をほじくりかえしても生み出せないので……

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    2022/3/6 司冬ワンドロワンライ「公園」「幼少に戻って」「冬弥じゃないか!」
    聞き馴染みのある声に振り向くと、太陽の光にきらきらと輝く笑顔を纏った司の姿。司はランドセルを揺らしながら冬弥の元へと駆け寄った。
    「冬弥も学校からの帰りか!なら、一緒に帰ろう!」
    弟扱いなのか、司はほら、と手を差し出してそう言った。冬弥も司のことを三人目の兄のように思っている節もあり、伸ばされた手を躊躇なく掴んだ。
    学校でこんなことがあった、休み時間にこんなことをした等、数々の出来事を二人で共有した。語り手は主に司で、冬弥は聞き手に回っていたが、共通の話題があれば冬弥も口を開いた。二人の和気あいあいとした空間で、不意に司は指差した。
    「冬弥!こっち行こう!」
    司が指差す方向は、冬弥の帰宅ルートではない。冬弥はピアノの練習があり、出来れば真っ直ぐに帰りたかったが、司の自宅以外で司と出会うことは殆どなかった為、一緒にいたいという一心で普段の冬弥なら通らない道の先へと進んだ。
    司に手を引かれて辿り着いた先は遊具が並ぶ公園だった。遠目でも遊具の塗装が剥がれているのがよく見え、この公園の年月を思わせた。そのせいだろうか、公園には誰も寄り付いていないようだった。手が離れた司は迷わずに中へと駆け出すが、冬弥は公園に入らなかった。いや、踏み出す勇気が出せなかった。
    生まれてから、公園で遊ぶことなど人生で無かった。友達との遊びを禁じられ、学校での授業が終わると速やかに帰宅し、ピアノやバイオリンに向き合う日々。疑問は抱いてはいたが、それほど自分に目をかけてくれていることを子供ながらに感じ、冬弥はそれに従い続けていた。
    普段の冬弥なら公園には目もくれずに帰宅するが、何度も預けられるうちに距離が縮まった司の誘いに心が揺さぶられる。 そうして思考の沼に陥った冬弥は俯いた。目に映る小さな足は、たった一歩すらも踏み出せないほど重かった。
    「冬弥ほら!」
    不意に名前を呼ばれて顔を上げる。ランドセルを遊具の下へと置いたのだろう、身軽な司は元気よく冬弥へと話しかける。
    「この公園、時計があるんだ!」
    確かにこの公園には時計があった。長身と短針だけの簡素な時計。司の意図がわからず困惑する冬弥を他所に、司は普段と変わらない大声で話し出す。
    「今は……15時45分か!なら……よし!15分!」
    「15分だけ、遊んでいかないか?」
    それは、ショーを披露している時の声とはまた違った、優しくも暖かい声だった。
    「司さん……僕は、ピアノの練習があるので早く帰らないといけないんです」
    指先が震える。そのまま身体を通り越して声さえも震えてしまいそうだった。
    「大丈夫だ!なら、遊んだ後は走って帰ろう!」
    「そういう問題じゃ……」

    「だから、ほら!」
    いつの間にか、司は冬弥の前へと躍り出た。右手を差し出しながら。
    司の目には一点の曇りもなかった。冬弥が自分の手を取ると信じて疑わないような目だった。だからこそ冬弥は子供ながらにわからなかった。何故こうも自分を気にかけてくれるのか。
    自宅へと向かう帰り道は、いつも重かった。自宅の扉を開き、自室へ入ると嫌でも視界に入るピアノ。丁寧に仕舞われた楽譜の数々。平日でも休日でも変わらない日々に、逃げ出したいと思わなかったわけではない。実際、逃げ出そうかと考えた日はあった。実行に移す勇気はなかったが。
    長くも短い沈黙の中、司は手を退ける素振りを見せなかった。冬弥が手を取るまで手を退けないつもりなのかもしれない。司は出会った頃から、そんな人だった。
    父親、ピアノ、バイオリン……数々のものが冬弥の足に絡みつき、歩みを止める大きな足枷となっていた。
    そんな暗闇の中で、彷徨うように手を伸ばし、引っ込めかけたその先でしっかりとした感触を感じた。
    冬弥の小さな手を確かに握りしめた司は、笑いながら公園の奥へと駆け出した。下校中、二人で公園へと向かっていた時のように、司に手を引かれると、簡単に冬弥の足は動き始めた。まるで最初から重りなど無かったかのように。あるいは、冬弥が勝手に枷だと思い込んでいたのか。
    (司さんが、僕に勇気をくれたんだ)
    その閑散とした公園には、賑やかな幼い影と、寄り添うように置かれた二つのランドセルが夕日に照らされて輝いていた。


    冬弥にとってその日は、かけがえのない大切な思い出となっていた。おもちゃ箱の中に入れたおもちゃの宝石のように、他人からすると些末なものだが、冬弥にとってそれは過去も未来もきらきらと輝く思い出。それは、現在でも色褪せない輝きを放ち続けていて。
    「冬弥!遊んでいかないか?」
    「はい。……15分だけ、ですよ」
    夕日に照らされるその笑顔に応えるように、繋がれた手を握り返した。
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