2022/3/20司冬ワンドロワンライ「春の便り」「花束」 互いにオフが重なった休日を、司と冬弥は大いに楽しんだ。前々から気になっていた映画を見に行き、ゲームセンターでお菓子やぬいぐるみを取っては分け合い、ふらりと立ち寄った書店ではおすすめの本を選び合った。そうして思い思いの一日を過ごした帰り道のことだった。
「ん?もう桜が咲いているのか」
陽が傾き、空が橙色に染まり始める時間。司は頭上の樹を眺めながらそう呟いた。冬弥は司の視線の先を辿ると、司の発言をやんわりと訂正した。
「これは桜ではなく梅ですね。桜は花弁の先に切り込みが入っているもので、梅は花弁が丸くなっているものです」
「相変わらず冬弥は物知りだな。これは梅の花だったのか」
柔い薄紅色の花を二人で眺める。小さく可憐な花弁が、夕陽に照らされ輝いているように見えた。
「そういえば、つい先日桜が開花したのを見ました」
「そうか。もう春もすぐだな。いやもう春なのか……?」
「春の花と言えば桜を思い浮かべますが、梅の花は大体冬の終わりから春先にかけて咲くので、春を告げる花と言われています」
「ふむ……それも、本からの知識なのか?」
「いえ、これは……俺が個人的に気になって調べたものです」
司が首を傾げると、冬弥は少し躊躇いがちに口を開いた。
「紅梅色と言う色が梅の花の色なんです」
「この色が……その、司先輩の髪の毛先の色に似ているな……と」
「ん!?」
冬弥のその言葉を聞くと、司は頭上に広がる小さな花と自身の髪を見比べようと格闘するが、すぐに諦めたように冬弥を見つめた。
「……自分では髪が見えないからわからんが、似ているのか?」
「はい。似ていると思います」
色鮮やかな梅の花と冬弥の幼少の記憶に鮮明に映る先輩。日没と相まってより一層彩り豊かに感じた。
「つまり、オレ自身が春を象徴しているということだな!」
「え?」
ぼうっとしている冬弥の手を取り、司は自身の手を重ね合わせた。春先で暖かい日が増えているが、それでも夕方は冷え込む。すっかり冷え込んだ冬弥の手を両手で包み込んだ。
「いつでもお前に春を届けてみせるぞ!冬弥!」
言葉と共に両手の先に唇を落とすと、瞬く間に冬弥の顔色が薄紅をさしたように明るんだ。
「……っかさ先輩、俺はまだ冬でいいです……」